子どもたちの誹謗中傷

現在、著作権協会様が誹謗中傷についての記事を書かれていらっしゃいます。

コメントで私も少し書かせていただいたのですが、子ども同士の誹謗中傷も、決して珍しいことではありません。

最近時折思い出されるのが、昔、私が家庭教師で担当していた子から相談されていた事例でしょうか。
その子(仮にS子とします。以下、S子・E子共に仮名)の名誉の為に述べておくと、S子がいじめたわけでもいじめられたわけでもありません。ですが、S子もこの件については随分と悩み、苦しんだのは確かです。

具体的には、彼女の所属していた部活動内での話。
ある部活でE子が友達と仲違いし(S子とE子は部活仲間)、その恨みを当時流行っていた「魔法のiらんど」に小説の形を取ってぶつけ、投稿するという事件がありました。
それも、登場人物にはすべて実名を用いて創作。それを同級生が発見し、大騒ぎになったというものです。

その当時、S子やE子の所属する部活は、全国トップクラスの強豪校。生徒たちも部活動に誇りを持っていたのですが、E子はその部活の輪から外されたのです。
私もS子から相談を受けて問題の作品に目を通しましたが、部活の顧問の先生を含めた関係者の実名が晒されており(普段からS子との雑談を通じて、部活内の人間関係は概ね把握していました)、第三者の私が見ても、「まずい」と感じるものでした。
それだけでなく、学校で起きた出来事を「面白おかしく」「自分の都合の良いように」デフォルメ化した小説を、連載していたのです。
多分、「これが真実だ」と信じる人が出てくるだろうな、というような書き方で。

ネット上では、やはり悪意のある人がいるもので、一度「炎上」が起きると、そのターゲットの身元を特定し、本名や学校、勤務先まで特定したがる人がいます。問題の学校は容易に特定できることから、「魔法のiらんど」に名前を出された人が脅迫されてもおかしくない事案でした。
それを心配したS子が、私に相談を持ちかけてきた次第です。

このようなプライベートな相談は、本来は家庭教師の仕事というには微妙なところ。ですがS子が多感な時期でもあり、聞かぬふりをするには事が重大すぎました。結局身バレしにくいこともあり、私が「第三者の大人」として、魔法のiらんどのコメント欄だかメールボックスだかを利用して、E子に注意。ようやく、E子の誹謗中傷投稿がストップした、というほろ苦い結末を迎えました。
ですが、今でも思うのです。本来ならば、第三者の私ではなく、もっと身近な周りの大人がE子に注意するべき事案だったのではないか、と。

S子は、E子に対して「仲間外れにされて可哀そう」と述べていました。その感情は、私にも理解できます。
ですがいくら中学生とはいえ、やっていいことと悪い事の分別はつく年齢ではないでしょうか。震災の少し前ですからもう10年以上前の話ですが、当時、既にネットで「書きたいように書く」ことの危険性が、取り沙汰されていました。
S子の心配はよく分かりましたが、恐らく、S子がE子に同情しても彼女にできることはなかったでしょうし、E子にS子の心は通じていなかったと、今でも思います。
何度S子の話を聞いても、E子は自分の世界に閉じこもり、周りの声に耳を傾けようとせず、「可哀そうな自分」を演じることでしか、己を保てていないと感じていましたから……。

このE子ですが、結局そのまま不登校になり、高校にも進学できなかったと風の便りに聞きました。
その後、E子がどうなったかは分かりません。

この場合、先に同級生の誹謗中傷をしていたE子は、被害者だと言えるでしょうか。私は、微妙なところではないかと感じるのです。
孤立したE子は、哀れだとは思います。ですが、周りがどんなに誠意を伝えても、本人が自分のやったことから目を逸し、周りの声にもずっと耳を塞ぎ続けていれば、どうにもならない。
そもそも、たとえ部活仲間との仲違いにせよ、個人情報をネット上で晒し、故意や事実の捏造を撒き散らすような真似をしなければ、その後の人生を狂わせることにならなかったのではないでしょうか。

※ちなみに、私が担当していたS子は、その後ちゃんと志望校に合格し、自分のやりたい道へ進みました。

子どものいじめというと、「ちょっとしたことがきっかけで、一方的にいじめられた」というケースがほとんどだと思います。もちろん、そのようなことは断固としてあってはなりませんし、許されるべきではありません。

ただし、上記のようなケースもあるのだというのは、心のどこかに留めておいてもらえれば……と、私は考えています。
やはり、安易な「憂さ晴らし」や「自分の幼稚さ」のために、誹謗中傷を行うものではない。

私自身、時には「ありとあらゆる」ことをぶちまけたい衝動に駆られることもあります。ですが、「強めの意見を投稿するときは、一旦寝かせる」というマイルールを課している背景には、この経験も少なからず影響しているのかもしれません。

#エッセイ
#この失敗に学べ
#いじめ
#誹謗中傷

これまで数々のサポートをいただきまして、誠にありがとうございます。 いただきましたサポートは、書籍購入及び地元での取材費に充てさせていただいております。 皆様のご厚情に感謝するとともに、さらに精進していく所存でございます。