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日本語指導ボランティア日記9

しばらく、ドロン、してました。

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仕事の忙しさと体調不良などで季節が二つほど過ぎ去ってしまい、
久しぶりのボランティア参加となりました。

遅刻していった私とほぼ同時刻に到着したAさんとペアを組みます。
Aさんとは何度もペアを組んでいるので
アイスブレイクから自然に学習がスタート。
私が不在の間にJLPTのN3に合格したとか!思わず拍手でした。

今回は副詞と関西弁が大きなテーマになりました。

程度や感情を表す副詞は概念そのものであり、
意味を理解するのに少し時間がかかるでしょう。
「覚える」でも「知る」でもなく、
「掴む」という表現がふさわしいように思います。
メイクセンスです。

副詞といえば、関西弁には状態副詞のオノマトペがよく登場しますね。
「チャチャッとやっといて」
「バーっと真っ直ぐ行ったら」
「スケジュール、カツカツやわ」
日本語学習者にとってオノマトペは難関。

特に音を重ねて表現する畳語が全くわからんと言い切っていました。
ポチポチ 
ポツポツ
この違いをメイクセンスさせるのもなかなかに困難です。
「ポチポチ」は一つずつスイッチを入れていくような場面(立体的)、
「ポツポツ」は水玉模様のような平面的なイメージ、があります。
「ポチポチと湿疹が出てきた」とはあまり言わないですね。
説明したものの、Aさんはアンニュイな表情でした。

帰宅後、ためしに「ポチポチ ポツポツ 違い」で検索してみたところ
意味の比較を掲載しているページがすぐヒットしませんでした。
ネイティブは学ばずに理解し、誤用することがない単語なのでしょう。

Aさんは最近「食べへんとこ」の意味を理解したそうです。
標準語で言うと「食べないでおこう」。
他の言葉でも展開できるので、
否定の「〜へんとこ」文型とでも言っておきましょう。

もちろん意味を調べるにも辞書には載っておらず、
ネット検索でもなかなか出てこないと嘆いておられました。
個人の考えを表すモダリティ表現でもあり、ニュアンスが複雑ですね。

他の例は
「乗らんとこ」(乗らないでおこう)
「取らへんとこ」(取らないでおこう)
など。

では、標準語で「しないでおこう」はなんでしょう?
「せんとこ」(「やらんとこ」「やらへんとこ」も可)です。
関西弁で「しない」は「せん」になります。

するとAさんから「なぜ『ら』が入らないのか」と質問されました。

ら抜き言葉が頭をよぎり、五段活用と一段活用の違いかと思いました。
しかし、
語幹が「r」で終わる五段活用の単語だから、
単純に活用が「〜らない」を関西的に変換した「〜らへん」になっており、
…………え〜、……………………………………………………ちょっと、ギブで。

というわけで以下、方言の活用参考ページ

https://ja.wikibooks.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%BC%81/%E5%90%A6%E5%AE%9A

wikibooks様

余談ですが、
「する」は「し」になりますね。
「しやへんとこ」(これは京都?)
「しやんとこ」(これは大阪?)

「せん」の反対は、「せえ」でしょうか?
(「すなはせえじゃ!」という某芸人さんの決まり言葉ありますね)

標準語に置き換えると
「せん」は「しない」否定形。
「せえ」は「しろ」で、命令形となります。

なので、「せん」の反対はシンプルに「する」なのかなと思いました。

AさんはN3に合格したということなので、
次回からは少し気になっていた会話時の
過剰般化の訂正をしていこうかなと感じました。
いつも口頭で正しく言い直すのですが、
Aさんは話すことに精一杯で訂正に気づいていないような…。
(Vする+のこと、は中国出身者は語用論的転移の場合もあるとか)

「理解するのこと、できます」
  ↓
「理解することが、できます」
(〜のこと、はだいたい名詞に付く)

「この本の値段は、高いじゃないです」
  ↓
「この本の値段は、高くないです」
(イ形容詞・高いの活用ミス、ナ形(形容動詞)の活用との混同)

ここが正しく使いこなせるようになれば、流暢に聞こえてくるのではないでしょうか。

中国では「風に乗って帰る」という慣用句をよく使うそうです。
イメージは、孫悟空が金団雲に乗ってピューっと過ぎ去る様子。
早く帰る、という意味合いで使うようです。
日本では何か言い方がありますか?と聞かれたので、
「ドロンします」をお教えしました。
これ出せたの、わたくし、ファインプレーじゃないですか?

「ドロンします」は
忍者が、忍術を使って煙の中で跡形もなく姿を消し、
即座に立ち去る様子を比喩として引用しています。
前述と同じく「早く帰る」「そこにいない」といった意味です。
これを真面目に解説していると、
ネイティブ的にはどことなく滑稽な気分です。
ギャグのオモシロポイントを真面目に説明するときのそれと似ています。

互いに違う文化背景を基にした、
同じ意味の慣用句があることになんだか感動してしまいました。
こういう発見は、日本語を教えていないとできないので、
また一つ、おもしろいことに出会えたなと思いました。

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