2021年10月の論文まとめ
先月あたりからようやく落ち着いて論文を読む時間が取れたので、どんな論文を読んだのかまとめてみました。10月はランニングのセミナーがあったこともあって、ランニング関係の論文をよく読んだような気がします。
パッと眺めてみてなんとなく内容がわかるものは読み飛ばしているので実際にはもっと多いです。その中で面白かった論文を8本ほど紹介します。
簡単なレビューをつけて紹介していますが、目次にタイトルを載せていますのでタイトルで検索すれば全ての論文を無料で読むことができます。
1.Endurance running and the evolution of Homo
二本足の移動はウォークとランに分類することができますが、人類の進化においては歩行の方が重要視されてきました。ところが、さまざまな骨格的な痕跡からランニングが人類の体型の進化に貢献した可能性があるという内容です。
20項目以上の特徴があげられており、例えば頭部の安定性であったり、アキレス腱やアーチの伸張反射、下肢関節面の拡大などが主な要因として考えられています。
このあたりから読みといていくと、
・肩まわりが緊張していると頭部の自由度うが制限されて走りや歩きにも影響があるのではないか
・アライメントが崩れてくると下肢関節面が限定されてくるので地面からのインパクトを吸収できなくなり関節に痛みを感じやすくなるのではないか
・アーチ崩れが起きるとエネルギーの効率性が悪くなるのではないか
といったことのイメージが明確になってきました。
どうしても方法論ばかりに目がいきがちなトレーナーの世界、人間の体というものを少し深く見ていったらどんなことがわかるかなと感じながら読んでいくと面白い発見がありました。
詳しくはこちらに載せてあります。
2.Three-dimensional angular kinematics of the lumbar spine and pelvis during running
ランニング中の腰椎と骨盤の動きを三次元的に解析した論文です。
走っている時の足のスイング動作で、股関節の形状(大腿骨の頸部の位置)を意識していないと、ただ前後に足をスイングしている感覚でちょっとしたねじれなどを意識しにくいのかなと感じていました。
大転子を使って走れ、とか腰や骨盤を使って走れ、という書籍があったとして実際にどれくらいの動きをイメージしておくと感覚的にわかりやすいのかなと思ってたどり着いた論文です。
走っている時や歩いているときに体幹にうねりが生じるのはイメージできると思いますが、その三次元的なイメージを頭に入れておきたい人にとっては面白い内容です。
三次元で動きがイメージできないとなかなか難しいかもしれませんが、矢状面、前額面、水平面それぞれにおいてグラフ化されているので、それらを頭の中で組み合わせると体幹や骨盤の動きがイメージできて、そこから大転子や下肢の連動までイメージしやすくなっていきます。
脚がどこから生えているのか、腕はどこから伸びているのか、といったことの答えがここから導き出せそうですね。
3.長距離ランナーの下肢の動作および筋活動とランニングエコノミーとの関係
こちらは修士論文になるので少しわかりづらい部分というか専門的な表現が多いので、読み進むのに時間がかかるかもしれません。エリートランナーとトレーニングを積んでいないランナーを比較して、下半身の動きであったり筋活動にどんな変化があるかという研究です。
それぞれの筋肉が力を発揮するタイミングの違い、関節角度や関節各速度の変化など、エリートランナーになるほど適切なタイミングで力を出して、正しく関節を固められるから地面からの反発力をうまく推進力に変えられるという内容です。
この論文の中に出てくる用語で覚えておきたいのが共縮。
共縮とは主働筋と拮抗筋が同時に収縮することで関節を安定させること。大腿四頭筋とハムストリングスが同時にギュッと力が入ることで膝周りを安定させることができます。ただし、スクワットのようにゆっくりした動きであれば問題にならないものも、接地など瞬間的なタイミングにおいては共縮も瞬間的に行われなければならず、共縮からどちらかの緊張が取れなかったり、適切なタイミングで行われないとうまく力を出せなかったりケガをするリスクが高まります。
この共縮に関して、エリートランナーの場合は足首まわりは共縮の時間が長く、膝まわりの共縮の時間が短いという結果に。どこを安定させてどこを動かすのか、といったことが数字としても出てくるのが面白いところです。
専門的な内容なので、面白い人には面白い内容だとは思いますが、100ページ以上あるので気合を入れて読むことをオススメします。
4.BIOMECHANICAL ANALYSIS OF DIFFERENT RUNNING STYLES WITH DIFFERENT FOOTWEAR
裸足、薄めのランニングシューズ、厚めのランニングシューズ(厚底ではない)を比較して、地面反力の変化、筋活動や動きの違いをまとめています。
こちらも100ページ超ですが、最初の30ページほどはウォーキングとランニングの比較を三次元的に解説してくれているので、シューズの違いに興味がない方は最初の30ページだけでも参考になると思います。
やっぱり三次元的にイメージできるかどうかはランニングに限らずどの運動でも大事だと思っています。三次元的に動くのはなんとなくイメージできても、グラフとして具体的にデータが残っていれば説得力もあります。
その後のシューズの違いなども面白いので英語に苦がない方は読んでみてください。
5.Effects of Stride Length and Running Mileage on a Probabilistic Stress Fracture Model
ランナーにとってランニング障害(脛骨の疲労骨折など)が起きる原因がなんなのか知りたいところだと思います。衝撃のインパクトであったり、走る距離であったりさまざまな指標があります。
ストライドの長さを短くすることで衝撃のインパクトは小さくなるが、その分ストライドの頻度(ケイデンス)が多くなるので慢性障害にとってどんな影響があるのか。そしてランニングの距離を増やすとどんなストレスがかかるのか。
結果としてはストライドの長さを通常よりも10%短くして走ることで脛骨にかかるストレスを3〜6%減少することができ、ランニングの距離を増やすことで4〜10%ほど脛骨にかかるストレスが増加したということです。
他の論文でも示されている通り、ストライドの距離が伸びるほど重心の上昇度合いが大きくなり、結果として接地時のインパクトは大きくなること。プラスで、踵で接地する可能性(ヒールコンタクト)も高くなります。
逆にケイデンスを増やすことで重心の上下動が少なくなってインパクトの減少+重心の真下で接地することでミッドフットやフォアフットが自然にやりやすくなることがわかっています。
おそらくさまざまな書籍で紹介されている理想的なケイデンスというのが180だったと思います。そうすることでストライドは自然と短くなり、ミッドフットの接地ができて骨にかかるストレスの減少につながるのではないでしょうか。
ただし、ミッドフットやフォアフットは脛骨にかかるストレスは減少するものの、ふくらはぎやアーチの筋肉にかかるストレスは増えます。なので慣れない方はふくらはぎや足底アーチを痛めやすいので、その点は要注意ですね。
6.The Relationships between Age and Running Biomechanics
年齢によってランニングのバイオメカニクスにどんな変化が訪れるのか。20代から40代、60代、80代と歳を重ねるごとにROMが減少しやすくなったり、筋力が低下してパフォーマンスにも影響が出てくるわけです。
それによってランニングフォームがどう変わるのかを知っておくと、年代ごとにどこにフォーカスしてトレーニングを行うべきか、どんなケアが求められているのかをイメージしやすくなります。
結果から見ていくと、ストライドの長さや速度、水平方向への力、鉛直方向への力、全体的なパワー、足関節のパワーなど全ての項目において、加齢とともに減少傾向にありました。
中でも特記されている点は、支持期の足関節のパワーと回転力は低下するものの膝関節や股関節の機能は低下していない点。それによってGRFやストライド長の減少につながっているということです。
確かにランニングをバイメカ的に見ていくと、膝や股関節の動きはそこまで大きくない(スプリントほどは)ため、足関節の機能低下が大きく影響してくるのかなという印象を受けました。ただこれに関してはもう少し調べてみようと思います。
7.長距離走動作のバイオメカニクス的評価法に関する研究
こちらは博士論文で200ページ超になるので、さらに気合を入れておかないと途中で読むのを諦めます。僕自身も全てじっくり読んだわけではなく、必要そうなところをピックアップして読んだ感じです。
長距離走を筋肉や動きの側面だけではなく、エネルギーの側面からも分析しています。
いかに重心の上下動を少なくしてステップ頻度を高めるか、接地後の下腿の動きであったり大腿のスイングを維持するための股関節のトルクを大きくすることが重要ということです。
まずはランニングの大枠を捉えようという目的で、この論文自体は以前から何度も読んではいるものの、ところどころで戻ってくるとなんとなく整理しやすくなる印象です。
8.Motions of the running horse and cheetah revisited: fundamental mechanics of the transverse and rotary gallop
馬とチーターの走りの比較をした論文です。おそらく筋膜系の勉強をしたことがある人は一度は見たことがあるであろうチーターのスローモーション映像。
先日、久々に眺めたらやっぱり頭部がぶれないで、脊柱の自由度も感じられる走りは見事だなーと感嘆しつつ、馬とは走り方が違うという文献を以前に読んだ記憶があったので探してみました。若干おまけみたいな感じで読んでいます。
ざっくりこちらの記事でまとめてあります。果たして、この違いが人の走りを解明するためにどこまで役にたつかというのは定かではありませんが、単純に走るという動きの多様性を知るいい機会かなと思っています。
まとめ
といった感じで10月はランニングを中心に論文を読んで、これまでの知見からさらに深掘りして落とし込むことができました。
論文が全てではないのであくまで参考程度に。書籍に書いてあることはこれらの論文を抜粋してうまくまとめてくれているので、まずは気になる書籍を流し読みして、そこから参考文献にあたっていく。
注意点は一つの論文だけで答えを出さないこと。同じような目的の論文があったとしたら、それらに関することを最低でも3つはあたってみること。システマティックレビューのようにまとまった論文にあたるのもいいですね。
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