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【短編小説】ご飯に牛乳

 今日は妹とランチに出かけた。
私は「小春」妹は「夏美」という。
その字のごとく、産まれた季節で親に名付けられた。
私たちは年子ということもあり、あまり姉妹という感覚はない。

 ランチの帰り、夏美が「お姉ちゃんとこ少し寄ってくわ。」と
我が家に来ることになった。
 5階建てのマンションの2階に我が家はある。
ちなみに夏美は、我が家と同じマンションの4階に住んでいる。
近くにスーパーもあり、小学校や中学校も近く、子育て世帯には便利なところだ。

 「美味しいとは聞いてたけど、駅から結構遠い店やとは思わなかったわ。」
夏美はリビングのソファに身体を委ねる。
 私は冷蔵庫から冷たい麦茶のボトルを出す。
そしてコップに注ぎ夏美に渡した。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。あそこの店、今度の親睦会で使うのってどう思う?」
 夏美の言う「親睦会」とは、夏美の娘が通っている幼稚園の「保護者親睦会」のことだ。
参加を希望した保護者が集り、ランチをし、親睦を深めようという会である。
学期始めの恒例行事らしく、今回は夏美が幹事役を任されているらしい。
今日、二人でランチに行ったのは、その親睦会の下見も兼ねていた。

 「そうやなー、駅からの距離を考えなかったら申し分ないけど。」
「やっぱ、そうやんねー。」
下見に行った店は、和食の店だった。
比較的大きな店舗で宴会などでも利用できそうな店だった。
畳敷きの大きな座敷があり、座布団もあるので、赤ちゃんを連れた保護者でも問題なく過ごせそうだった。
だが駅から店までは歩いて10分はかかる。
天気が良ければいいが、悪いとなかなか足が向かないと感じた。
赤ちゃん連れのお母さんだったら、ベビーカーで徒歩10分は思うよりつらいものだ。

 私はPCを開いて、今日行った店のHPを検索してみる。

 「ねえ、この店、送迎バス出してくれるみたいよ。」
「え?ほんまに?」
夏美がPCのモニターに顔を寄せてくる。
「ちょっと、事前に見ていないの?」
「見てないよ。料理の評価しか確認してない。」
夏美はいつもこんな感じだ。
「ちょっと店に確認の電話してみ。」
「そうやね。」
夏美は鞄からスマホを出し、店に確認の電話を始めた。

 私はどっちかというと心配性で、細かいところまで確認する方だが、夏美は行き当たりばったりの性格で、詰めの甘さはいつものことだ。
それが羨ましいときもあるのだが…。

 「ただいまー。」
そこへ玄関から勢いよく帰ってきたのは、私の息子「健太」だ。
小学4年生である。
「あれ、健太、今日は早いなあ。」
「うん、今日は給食終わったらみんな下校やで。拓哉が遊びに来たいってさ。」
拓哉君は健太と3年生のときから同じクラスで、一番仲が良い友達だ。

 「あ、お母さん、俺ずっと思ってたんやけど。」
「え、なに?」
健太から何を言われるのか、ドキッとする私。

 「なんで、ご飯に牛乳なん?」
「…は?」
「なんで給食は、ご飯の時も牛乳なん?あれ、絶対合わんやろ?」
健太はいたって真剣である。
「そうやなあ。確かになんでなんやろう。」

 「そりゃ、栄養的な問題やろう。」
電話を終えた夏美が、私と健太の会話に入ってきた。
「給食は食育も兼ねているし、必要な栄養分が決められてるんよ。」

 「夏美、よう知っているなあ。」
「私、食べること好きやから、健太君と同じこと思ったことがあってん。で、学校の先生に聞いたことある。」
妹よ、まじか…。
夏美はPCで何かを調べはじめた。
そして、
「(牛乳はカルシウムが多くビタミンも豊富に含む食品で「学校給食摂取基準」では、カルシウムを1日に必要な50%を給食で提供するよう指示しているため、吸収率が最も高い牛乳が欠かせない)って書いてるわ。」
と言った。
「へえー。」
私と健太は口をそろえて言う。

 「めっちゃ調べるやん。」
という私に
「食のことはな。」
と夏美。
それなら送迎バスのことも調べてよ。
「あ。お姉ちゃん、送迎バスOKやて。幼稚園まで来てくれるって。」
「すごいサービスやな。解決してよかったね。」

 「今日の給食はなんやったん?」
と、健太に聞く夏美。
「けんちん汁、豚の生姜焼き、よもぎだんご、んでご飯に牛乳。」
「なかなかやな。」
「な、ぜーったい合わへんやろ?牛乳は。」
「合わへんな。定食屋で出たらクレーム案件やわ。」
「一昨日はな、鶏のチリソース炒め、中華粥、オレンジ、んでパンに牛乳。」
「中華粥があるのに、そこはパンなんかい。」
「もうな、お腹ちゃぷちゃぷになるねん。」
「水分で?」
「そう!」
 夏美と健太で、なかなか面白い会話が繰り広げられている。
そう思いながら私は見ていた。

 ピーンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「あ、拓哉が来た!」
健太は走って玄関に向かい扉を開ける。

 「こんにちはー。これ、お母さんが持って行ってって。」
訪れた拓哉君は私に、お母さんから託されたというお菓子を渡してきた。
「お母さんにありがとうって伝えてねー。」
私はそう言って、受けとったお菓子を木製のボウルに入れる。
健太と拓哉君のおやつにするためだ。
グラスにはオレンジジュースを注いだ。
「はい、これ拓也君からもらったおやつねー。」
私はリビングでカードゲームをする健太と拓也君に出す。

 「こういう時に牛乳やったらええねん。」
いきなり健太がそう言い出すので、驚く拓哉君。
「なんの話?」
「給食や。ご飯に牛乳は合わんって話。」
「じゃあ、何やったらいいの?」
「…うーん。やっぱお茶かなあ。水筒持って行ってるし、それでええやん。」
「俺は牛乳でもいいけどな。」
「え、拓哉いけるん。」
「最後にデザート感覚で飲むからいける。」
「拓哉の考え方は賢いな。俺はデザート感覚やったら、5時間目終わりの休み時間とかに飲みたい。」

 ほほう。
色々な考え方があるようだ。
人それぞれ価値観は違うのだなあ。
 この年齢から人の価値観の違いを否定せず、受け入れて自分の意見も言っている健太に成長をみることができた。
 そして、拓哉君。
私は君の母親ではないが、そういう考え方をもっている、君の成長が楽しみだ。






















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