怠惰

第2章 麻雀打ちはだらしない人間が多い?

第1章 お1人様でも安心


第2章 麻雀打ちはだらしない人間が多い?


僕が物心ついたころ、既に蒸気機関車は現役を退いていた。「汽車」という呼び名は元々蒸気機関車のことを指していう。にもかかわらず、なぜだか北海道では「電車」のことを「汽車」という文化がある。北海道で「電車」といえば路面電車のことなのだ。

僕の地元である帯広から札幌までは「汽車」で約3時間、運賃は7000円弱かかってしまう。お金の無い高校生にとって簡単に出せるような額ではなかった。せっかくデビューはしたものの、しばらくフリー雀荘は封印せざるを得なかった。この頃までは仲間内でバカ言い合いながら打つ麻雀のほうが楽しかったということもある。

キャプチャty

高校3年の2月、大学受験のために上京した。受験日は12日と14日、前泊するので3泊4日の日程だった。今から30年前、当時は携帯電話も無くインターネットも全く普及していない。なので受験生は前日に試験会場の下見をするのが通例だった。

大森のホテルを出て目的地は白山。まずは品川まで出て巣鴨まで―― と大森駅に着いた瞬間、目に入ったのが「お1人様でも安心」と書かれた例の看板だった。

打牌選択の説明に「ノータイムで」と付け加える人がいる。何をどのような理由で選択するのか?と聞いているのに、わざわざ選択の速度をアピールするのは一体なぜなんだろうか? 

俺の選択に迷いなんかないぜ!どうだ、カッコイイだろう?

きっとそういうことなのだろう。ちなみに僕はこの時「ノータイムで」看板のほうへ向かっていた。ほら、そんなにカッコ良くないだろう?(笑) まだ昼間の時間だった。3半荘くらい打ってから下見に行っても十分ことは足りるはずだった。

――ふと気づけば時刻は22:00を回っていた。その日は麻雀の調子が良くて、なかなか止める踏ん切りがつかなかったのだ。案の定というべきか、受験当日は電車の乗り換えで迷子になり、試験開始時間を白山ではなく巣鴨で迎え、呆然と立ち尽くしたのであった。

ま、いいか―― それでもそう思ったのは、その前に受けた大学の試験の出来が良かったからだ。正直大学なんてどこだって良かった。受験は「ノータイムで」諦めて、白山には向かわず大森にUターンした。もちろん行き先はホテルではなく、お1人様でも安心なあの場所だ。

ついでに14日の受験は下見はおろか、試験会場にすら行こうともせず、例の場所で負け続け、延々と熱続行をしていたのだ。結局は東京在住の4日間、ほとんどの時間をフリー雀荘で過ごすことになってしまった。

麻雀打ちにはだらしのない人が多いらしい。僕は何事も麻雀のせいにしてしまう考え方が大嫌いだ。この場を借りて声を大にして言いたい。そう、僕は麻雀打ちだからだらしがないのではなく――

麻雀にはまる前から元々だらしのない人間だったのだ

残念だったね―― 両親に不合格の知らせを伝えた時は、さすがに少しだけ罪悪感を感じた。このことは予備校の時と同じく確実に墓まで持っていくべき案件である。

結局札幌の大学に合格し、晴れて念願の1人暮らしを始めることになる。
しかし、最初からフリー雀荘に入りびたりになったかといえばそうではなかった。大学新1年生がフリー雀荘に通うためには、ひとつだけ大きな懸念材料があったのだ。


つづく

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