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ブラックボックス | 砂川文次(著) | 書籍レビュー

芥川賞受賞作ということで、なんとなく書店で手に取ったこの一冊。少し立ち読みして興味を持ち、カバーの帯もろくに見ずに気づいたらレジを通していた。

前情報なしで読み進めたので、一体どういったテーマなのか中盤でようやく気づいた。

生活自体が漠然としてしまっているこの時代に、生きていてどこか腑に落ちる、とか、人生のゴール、とか、結婚、仕事の適職、自己顕示欲、みたいなものが霧散してしまっている状況が描写されている。

主人公は、その漠然としてしまった生活の中で、他者との比較や、他者が自尊心を傷つけるような行為に、沸々と怒りを抱くのだが、その制御方法がわからない。

言いたいことを飲み込んでいるつもりで、精神に負荷をかけていると、時折、自身の本音が口を突いて出てしまっては関係性を悪化させてしまう、というその循環に、主人公はなんとかしなければと思いつつも、どこか本気になれずにメッセンジャーやギグワークを続ける、と言った物語。


現代を背景に、自他共に身に覚えがあるような主人公の感情にはリアルを感じた。

日本という国は、完全マス社会化した状態から、平成後期に過渡期を迎えたが、令和に入ってのコロナ禍、次いでウクライナ侵攻によって、我々一般大衆は、より正解を捉えることが出来ない時代になった。

公務員かサラリーマンをやって、30代で結婚して子供を産んで、家と車のローンを払い続けていれば「正解」だった時代はもう影もない。

そのような「ちゃんとする」という行為に悩む主人公と似て、私たちの多くが今だけの正解を探し続けている。

正解を漠然と探り続ける行為は、次第に精神的な負荷を蓄積させる。

何かに依存することで負荷を下げて暮らしている現代人の多く。情勢が揺らぎ、依存しているものすら固定できない現代の環境においては、精神の負荷は、虚しさや寂しさ、どこか違うといった不安に変わり、そして怒りに変わる。

その怒りを爆発させる代わりになる行為を早く見つけれなければ、と焦る気持ちがまた不安を煽る。

この循環の暮らしの中で、暗くて見えない自己を見つめ、見つけ、向き合い、そして共にあろうとする主人公に、読者の多くが共感するだろう。



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