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『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』適度な緊張はむしろプラスだという話


初めまして。うみんちゅです。普段は一般企業で人事の仕事をしているサラリーマンです。

先日、弊社の人材開発部門より、新人研修で「プレゼンのやり方」を講義するよう要請がございました。仕事柄、年70回くらい人前に出て話す機会がありますが、今さら「プレゼンのやり方」なんて偉そうに教える自信もないし、ぶっちゃけ需要ないだろと思い、一度はお断りさせていただきました。

しかし、よくよく話を聞いてみると、新入社員達からプレゼンで緊張しない方法を学びたい、という要望があったようで。僭越ながら社内の「プレゼン講座」を担当することとなりました。

今回はその時に言語化した「緊張」に関する講義の内容を抜粋してご紹介いたします。本記事は『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』という本を下敷きに作成したものです。皆様のプレゼンの場で生かせると幸いです。

【そもそも緊張って悪いことなの?】

人前で喋る。大人数の前でプレゼンする。聞いただけで手から汗が滲み出て来ませんか?私は長い間、プレゼンに対して強烈な苦手意識がありました。何故、人前で話すことが苦手かというと「緊張するから」です。何故、緊張するのかというと「失敗して恥をかくことが嫌だから」です。皆様はいかがでしょうか? 

私が新人の頃、上司によくこんな話をされました。「プレゼンは場数を踏むことが大切だ。数をこなせば慣れて緊張しなくなる。だから頑張れ!」その言葉を信じ、場数を踏んで、オフィシャルな場で400回以上はプレゼンテーションしてきました。その結果、現在どうなったか。  

いや、全然緊張する。。。 

そうなんです。どんなに場数を踏もうが、人前に出て喋る以上、緊張はつきもの。もちろん全く緊張せず、言いたいことを淡々と聴衆に伝えることの出来るベテランスピーカーの方もいらっしゃることでしょう。でも論点はそこではありません。緊張の有無は、聴衆や話す内容によってケースバイケースで、経験上、数をこなしたからといって「緊張しなくなる」ことはありませんでした。そして私はプレゼン経験を積みながら次のような疑問を抱くようになります。

そもそも緊張って悪いことなのか?

「プレゼン前は出来るだけリラックスするために、マインドフルネスの考えを活用し、瞑想したほうがいい。」「緊張しないように事前に聴衆と会話をしておいたほうがいい。」    
駆け出しスピーカーの例に漏れず、私もこういった通説に従って、何とか緊張しないよう努めてきました。リラックスしなければ声が震え、聴衆に弱々しい印象を与えるのではないか。緊張していると慣れていない感じがして、話を聞いてもらえないのではないか。そんな不安に苛まれ、プレゼンのHow To本を40冊以上読み漁りました。

【緊張は興奮・喜び反応というストレス反応】

そんなある時、緊張=悪という固定概念を覆してくれる本に出会いました。それが、スタンフォード大学の健康心理学者 ケリー・マクゴニガル博士の書いた『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』でした。

本書は人間のストレスについて、「ストレス=悪」という定説に疑問を呈し、科学的なアプローチから「ストレスを力に変える」ことについて論じた画期的な本です。つまり本書を読めば、ストレスに位置づけられるプレゼン前の「緊張」や「不安」についての新しい知見を得ることが出来ます。

まず覚えておかなければならないのは、私たちが日頃から使用している「ストレス」という用語が指し示すことは、あまりにも広範に定義され過ぎているということです。広く知られているストレスという言葉は、1936年にハンガリーの内分泌学者ハンス・セリエが行った、実験用ラットに苦痛を与えた「行為」と、ラットの「反応」を指す言葉として使用され始めました。
私たちは無意識にストレスという言葉と、そこから生じる意味を知覚していますが、このセリエの定義では、ストレスは「日常生活に対する体の反応」と同義なのです。
つまり、ストレスと一口に言っても、どういった種類のストレス反応があり、その反応がどういった理由で、体に作用するのかを明確にしないことには、プレゼン前に「緊張」や「不安」を感じ、発汗したり、鼓動が高鳴る原因が分からず、有効な対策が取れないのです。

では、人前で話す時の、「あの緊張」は科学的にどんな種類のストレス反応なのでしょうか。

あれは「興奮・喜び反応」というストレス反応です。身体反応としては、心臓がドキドキし、汗をかいたり、呼吸が速くなったり、瞬時に行動を起こせるように準備しています。精神に現れる反応としては、ストレス源に集中し、興奮し、力が湧き、不安で落ち着かなくなります。
つまり、このストレス反応は、ただ私たちの不安を煽ったり、体を硬直させるような負の効果をもたらすものではなく、困難にうまく対処するための反応だった、ということなのです。

【緊張は身体にとってむしろプラスの作用】

少し長い引用になりますが、本書で博士は次のように述べています。

「ニューオーリンズ大学による実験では、ベテランと初心者のスカイダイバーたちに心拍数モニターを装着させ、スカイダイビングを行いました。初めてダイビングに挑戦する初心者よりも、ベテランの方が心拍数は当然低いかと思いきや、結果は意外なものでした。初心者よりもベテランのほうが、ダイビング前とダイビング中の心拍数が高かったのです。ダイビング前に心拍数が上昇すればするほど、「興奮・喜び反応」は大きくなっていました。あなたもここ一番というときに実力を発揮したければ、無理に落ち着こうとしてあせらないことです。それよりも「緊張したっていいんだ、興奮しているしるしだから。心臓もスタンバイしているんだ」と自分に言い聞かせましょう。」

当たり前のことですが、自分の身体は自分の味方です。今まで私は、緊張して汗が出ると、「身体が危険な状況下に置かれていることを伝えようとしている」と考え、リラックスしなければと焦り、その焦りがさらに緊張を呼び起こすという負のスパイラルに陥っていました。しかし今は、こう考えるようになりました。

緊張しているってことは、心臓がスピードを上げて全身に血液を送り込むことで、ベストなパフォーマンスを発揮できるように調整しているんだ。

こう考えてみると、緊張してる状態ってむしろラッキーじゃん、という結論に辿り着きます。そしてこの理論が優れている点は、複数の科学的なエビデンスによって裏付けられているところにあります。本書では、ここで紹介した実験以外にも多角的な実証を行っており、「緊張は良いものだと科学的に証明されている」と知っておくだけで、プレゼン前の気持ちが楽になり、結果として自信を持ってパフォーマンスを発揮することが出来るのです。

実は緊張することは、悪ではなかったのです。
緊張という名の「興奮・喜び反応」は、困難にうまく対処するために、注意力を高めたり、感覚を研ぎ澄ませたり、やる気を高めたり、エネルギーを集約させる役割を担っていたのです。

どうでしょう。緊張って良いことなんだって考えてみると、前よりも人前で話す苦痛が少し和らぐと思いませんか?この記事が少しでも皆様のお役に立てれば嬉しいです。

ご覧いただきありがとうございました。


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