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コロナ禍の中で取り組んだチーム作りで見えたこと。【優勝インタビュー01/山口隆文監督】

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■チーム作りで掲げた「創る」というコンセプト

――今大会は特殊な環境下で開催された経緯があるので、ある意味、JFAアカデミー福島にとっては優勝が義務として課せられ、他のチームも『福島を倒す』ことを目標に臨んだ大会だったように思います。

山口監督「この世代の各地の上位クラスが年始から開催された『JFA 第24回全日本U-18女子サッカー選手権大会』に参加したので、それ以外が出場チームすることは知っていました。

去年の夏に行われた第一回大会は3位に終わり、私たちにとっては優勝することがリベンジですし、今大会はそれが命題だとも思っていました。

私たちJFAアカデミーは自分たちがやってきたことを試合を通じて見せていく使命を背負っていますから、監督として選手に言い続けたことは『サッカーそのものをリスペクトしよう』ということでした。

リスペクトとは、目の前の試合で自分の持つ最大限の力を発揮して勝つことを目指すことです。

それが『サッカーそのものをリスペクトすることが、相手やこの大会をもリスペクトすることにつながる』と考えたからです。自分の持つ力をすべて出
し切る姿勢が一番大事だと言い続けた5試合でした。だから、絶対に手を抜くな、と。

ボールを奪われたら奪い返しに行く。それも一人ではなく、二人、三人と行く。そして、攻撃ではボールを持った選手がいたら後ろからどんどん前に飛び出してゴールに向かう。

サッカーで最も大切にすべき本質的なところを絶対に失ってはいけない、と。その上で、これまで練習で培ってきた個性を発揮してチームに貢献しなさいという言葉を投げかけていました。

そういう姿勢でプレーすることが有事の中で懸命に働いてくれている医療従事者の方々、大会の開催をしてくれた連盟の方々、大会の開催を認めてくれた群馬県の方々に対する、私たちができる最大のリスペクトです。

選手たちはその課題をきちんとクリアしてくれたと感じています。それが多彩な攻撃だったり、最少失点だったり、最後まで手を抜かないでゴールを目指してくれたので選手たちを褒めてあげたいと思います」

――今大会は特にコロナ禍という条件が切り離せません。チーム作りは大変だったのではないでしょうか?

山口監督「チーム作りについては随分スタートが遅れました。私たちは『なでしこチャレンジリーグ』に所属していますので、本来であれば4月から活動が始まる予定でした。このリーグは東西に分けられ、6チームがホーム&アウェーでリーグを戦います。10試合を通して『M(マッチ)-T(トレーニング)-M(マッチ)』を繰り返し、毎年チームを形作っていきます。

今年は初優勝を果たしましたが、リーグ戦は8月からスタートしました。

チーム作りとしてはコロナの影響で活動停止期間が長かったので、徐々に体を作っていくためにトレーニングを6週間をフェーズ1からフェーズ4まで4段階で組み立て、7月にようやく練習試合が行える状況になりました。開幕まで1か月しかなく、結果的に初戦を無事に勝利できたものの、内容はすごく悪かったです。

それは選手たち自身も感じていました。しかし、一番大事なのはトレーニングを積み重ねることだから『必ず良くなる』と選手もスタッフも一丸となって目の前の課題に向き合いました。

試合はトレーニングでやったことしかできないので、すべてはトレーニングの質がプレーの質を決める。そう信じて、どれだけトレーニングの質と強度を高められるのかを心がけました。

なでしこチャレンジリーグは成人リーグです。うちは中学1年生から高校3年生までの選手が所属するチームで、強度という点では成人の選手が出せるプレー強度をトレーニングの中で実体験することはできません。

しかし、そういう環境下でも意識を高く保ち、すべてのプレーに全力を出し切ってプレッシャーを与えたり、それを受け止めてプレーしたりできれば、きちんと大人が相手でも戦えると毎日のトレーニングに励みました。

本番の試合の中で大人を相手に『どう自分のプレーを表現するか』を学びながら一つずつ積み上げていきました。当然、今言ったことはどのチームも取り組んでいることで、当たり前のことです。

サッカーはトレーニングの質が将来のすべてを決めていきます。コーチとしては『何をしなければいけなのか』を常に問いかけていました。今大会で求めたことは二つです。

『ゲームを創る』
『チームを創る』

これらを実践するためには、誰がどこのポジションをやっても自らでコミュニケーションを図りながらゲームに関わり、ゲームを形作る一員になれなければいけません。

『自分たちでゲームを創るんだ』という考えのもと、行動に移さなければ表現できません。今大会の5試合は本当にいいコンビネーションの中からゴールを決められていました。

例えば、創るという意味でウイングハーフとサイドバックとセンタフォワードのトライアングルの関係でどうのようにして相手を翻弄できるのかが表現できていました。

彼女たちがそういうプレーを阿吽の呼吸でできたことは、トレーニングの中で私が求めてきたことがゲームの中で表現できたのだと理解しています。相手が苦しむ、相手より優位に立つことをやるためにはどうしたらいいか。これを問いかけ続けた中で、彼女たちが自分たちでコミュニケーションをはかりながら作り上げたものです。

サッカーは自分たちで創り上げていくものだ。

これがこのタイミングでできるようになったことに関して、このクラブユースの5試合は指導者として良いもの見せてもらったなと思っています。コロナの関係で活動期間としては丸々一年ではありませんでしたが、みんなで話し合って『創る』経験ができた、と。

攻守において局面、局面で相手に勝るためには何をしなければいけないのか。これを彼女たちが自分たちの力で表現したシーンがたくさん見られましたので、非常によかったと感じています。

これは日頃から取り組んでいることですが、JFAアカデミー福島では自分自身のプロモーションを行わせています。逆にコロナ禍だからと『自分の魅力を他の人に知ってもらえるような映像』を作らせています。昨年は高校1年生から取り組んでもらいました。

自分の特徴はこうで、自分はこういうプレーをしたいんだということを映像で表現し、プレゼンしてもらいました。

私も『こういうことも君の特徴だよ』とフィードバックし、『だとすると、そういうプレーをするためには周囲の選手がどういうプレーをしたらいいのかを考えると個人もチームも良くなっていくよね』といった感じでピッチ上のトレーニング以外からもアプローチをしました。

自分の特徴を生かす。
仲間の特徴を生かす。

どちらの関係もプラスに働かせていくコミュニケーションをはかっていくことが大切だと伝えました。これも今大会でいいプレーが表現できた一つの要因だと監督として実感しています」

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■コロナ禍を逆手にとったサッカー外の取り組み

――自分の特徴を周囲に知ってもらい、意見交換すると味方との相互関係も高まるのでいい取り組みです。この取り組みはずっとやられていることですか?

山口監督「これまでは映像化してプレゼンするところまではやっていませんでしたが、FC東京U-15に関わっている頃もノートに自分の特徴を書かせて味方に知ってもらうような仕掛けをしていました。

私自身、JFAアカデミー福島に来て2年目ですが、今回は映像化して相互関係をはかる試みをしてみました。これは『試合分析』と『映像づくり』という2つの学びにつながるので、選手にはプラスになっていると考えています。

基本的にアカデミーは全試合を映像に残して選手と共有し、振り返りは個々でやっているんです。その分析した結果はすべてノートに記録していて、私が添削しています。昨年のコロナ禍で試合ができない頃は、欧州サッカーなどの試合分析にも取り組みました。

例えば、『ビルドアップをチームとしてどのように行っているのか』などの課題を与え、ディフェンスメンバーで分析発表をしてもらうようなことをしました。こういう取り組みを含めて、いろんな物事が自分たちのサッカーを形作っていくを体験できたのではないかと思っています。

何を見なければいけないかを訓練し、自分が何をしなければいけないのかを毎試合実践しています。こういうことの積み重ねも『創る』ことにつながっています」

――自分で言語化をする。自分で解釈をする。フィードバックをもらう。この一連の作業はサッカーノートの特徴の一つですが、始めた頃と現在では、何か変化を感じることがありますか?

山口監督「頭の中でイメージすることと実際のプレーとでは当然ギャップがあります。文字表現がうまい子がプレーがうまいとも限りませんが、試合分析ができることは論理的な思考能力を養うことにつながります。

それが培われているなら教えていけばできるようになります。

ただ、これは数をこなしていくしかありません。本当に反復することが大事です。選手は見て、判断して、実行するんだけど、私たち指導者は『見る→判断』の間に判断基準(サッカープレーの原則)を与えて、その中で選手がトライ&エラーを繰り返すことで知恵を獲得させることが大切だと思います。

そういう個人戦術をもった選手を育成し、そういう選手たちをどのようにコミュニケーションさせるかでより良いグループやチームになっていくと考えています。

そこには『たくさんの正解』が存在します。自分が正解だと思っていても、仲間がそう思っていなければミスが起こります。一般的に見える部分=『DO(プレー)』のミスではなく、共通認識や共通理解でのミスがチームとしてのプレーでは一番もったいないことです。

それを少なくするにはチームでできるだけ話すしかありません。

今大会は基本的に『無観客』の状態でプレーできたからこそ選手たちの声が聞こえて一指導者として確認できたことがたくさんありました。だいたい2年間取り組んできましたが、高2、高3の選手たちについては上手に表現してくれているなと実感することができました。

これが伝統になっていくといいな、と感じています」

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【全四回】
第一回=序文
XF CUP「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)」の大会意義を考える

第二回=優勝インタビュー01
コロナ禍の中で取り組んだチーム作りで見えたこと。【山口隆文監督】

第三回=優勝インタビュー02
プレーに関わる意味を丁寧に指導することが使命。【山口隆文監督】

第四回=優勝インタビュー03
プレーそのものが美しいと思ってもらえる選手の育成が女子サッカーの魅力になる!【山口隆文監督】

取材・文=木之下潤
写真=佐藤博之/橋立拓也
協力=JFAアカデミー福島

#XFエグゼフ
#XFCUP
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#JFAアカデミー福島

「僕の仮説を公開します」は2020年1月より有料になります。もし有益だと感じていただけたらサポートいただけますと幸いです。取材活動費をはじめ、企画実施費など大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。