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XF CUP「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)」の大会意義を考える【優勝インタビュー/序文】

■高知の女子育成の現状を知ってほしい

大会二日目、高知ユナイテッドSCレディースのスタッフと話す機会があった。

「私たちは今年度活動ができるかどうかも危うい状態でした。理由は、同じ地域に新チームが立ち上がり、選手の流出があった関係でその頃は所属選手が予選出場に必要な登録数の15名に至らなかったからです。幸いにも、地域予選はサッカー経験のない数人のサポートを受けて戦えました。今大会もGKはいない状態で出場しています」

実は、このチームは昨年度も出場しており、今大会は監督が交代していた。昨年の第一回大会の戦績は次の通り。ちなみに、大敗したジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18が第一回大会を制している。

【2019年度グループリーグ結果】
●ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18=0-10
△INAC神戸レオンチーナ=2-2
△北海道リラ・コンサドーレ=0-0

女子サッカーは地域によってさまざまな事情を抱えている。一概に関東や関西の大都市圏と比較することができないし、男子サッカーの感覚でああだこうだと議論するのは適切ではない。それはプレー環境そのものが全く整っていないのが現状だからだ。

そういう環境の中で今大会の高知のプレーに目を向けると、昨年に引き続き、試合に出場していた数人は確実にレベルアップしていた。結果こそ3戦全敗だが、U-18という同世代の枠組みで個々のプレーを分析すれば関東や関西の強豪相手に通用していた部分も十分にあった。

【2020年度グループリーグ結果】
●FCバサラ甲賀レディース=1-7
●横須賀シーガルズJOY=1-7
●大和シルフィードU-18=1-2

そもそも今大会の主力は高校生で2002~2004年生まれの選手である。高知の選手は大会出場に必要な18名ギリギリの登録数で、うち11名がU-15世代に当たる選手たちだ。これが地方の女子サッカーの現状だとそのまま感じてほしい。何が平等かは世間の一般常識で通用するものではない。

例えば、大会要項を読むと「高校生が1名以上ベンチ入り」していれば大会の出場資格が得られることになっている。これを男子のストーリーで想像していくと、下から上のカテゴリーで出場することを指すので、その時点でその登録された選手は「才能がある」とチヤホヤされる対象となるだろう。

しかし、女子サッカーはこういう条件でなければ大会の開催というより「その世代の多くの選手に試合経験を積ませる」という環境を作り出すことが難しいのだ。

4種までは男子と同じ環境でプレーするため、実力云々はさておき、サッカーをできる環境は平等にある。しかし、U-15になった瞬間に登録が男女で自然に分かれるため、女子選手は女子チームに登録しないと試合環境がない。もっというと成人登録すればプレーは可能だが、この世代と成人選手のフィジカル差は大きいため、よほど才能がある選手でなければ現実的ではない。

さらにU-15の女子チームは圧倒的に数が少ない。

高知には、現在3チームしかないそうだ。うち、一つはへき地、残り二つは中心都市にあるという。だとすると、その間で活動しているジュニアの女子選手は、中学生になるとプレー環境がない状態。どこかに通うにしても、片道2時間以上かけてサッカーを続けることを考えると他の選択肢をとるのが必然なのだ。

■第二回大会の開催意義は非常に大きい!

さて、大会全体の話をしよう。

今大会は夏開催から冬開催に延期された。この影響でJFAが主催する『第24回 全日本U-18女子サッカー選手権大会』と同時期開催になり、北海道、東北、関東、関西、中国、中国の上位チームは第一回大会と同じように日本クラブユース連盟が主催する『XF CUP 2020(第2回 日本クラブユース女子サッカー大会U-18)』には出場していない。

まず、昨年度とは少し違う大会となった事実を把握してもらいたい。とらえ方次第だが、クラブユース最高峰の大会でなくなったとも言えるし、女子サッカーの環境としてポジティブに考えると各地域でこれまで全国大会に出場できなかったチームが数多く他の地域の強豪と対戦できる経験ができた。そして、JFAアカデミー福島という同世代トップ3に入るだろうチームと対戦できる機会が出場チームにできたことは大きな意味を持つ。

第一回大会はグループリーグ上位2チームが決勝トーナメントに進み、残り2チームは下位トーナメントという形ですべてのチームが6試合の経験を積むような仕組みになっていたが、今大会はコロナ禍でグループA~Dの1位だけが順位決定戦を行い、優勝を目指すレギュレーションとなった。残念ではあるが、当然の対応である。

ただ緊急事態宣言後の開催を考慮すると、大会の実施にGOサインを出してくれた群馬県には感謝しかない。感染予防対策を十分に行った上での大会運営となったが、大会終了後、約2週間が経って感染者が出ていないということは成功だといえるだろう。

16チーム中、12チームが初出場。結果、準決勝に残ったのが昨年度を経験している2チームだったが、今大会はさまざまな意味で意義ある大会となったのは間違いない。

結果を見ると、JFAアカデミー福島が準決勝『横須賀シーガルズJOY』を5-0、決勝『日体大FIELDS横浜U18』を7-1と圧倒した形だが、客観視すれば彼女たちは『なでしこチャレンジリーグ』の優勝チームである。

U-18という縛りのない成人リーグ、しかも女子リーグのトップから数えて3番目のカテゴリーを制したチームだと考えると、この世代では、この有事の環境下では異質の経験を積んでいる。

ある意味、今大会は優勝を義務付けられたチームだった。たとえ、『第24回 全日本U-18女子サッカー選手権大会』に出場した各地域の上位チームが参加していたとしても、結果は同じだったのではないかといえるほどのレベルにあった。

そういう背景をいろいろと加味し、優勝チームのインタビューとして山口隆文監督に取材を行った。

現在はJFAアカデミー女子統括ダイレクターであり、過去には男子の技術委員長や指導者養成ダイレクターも務めている。そんな山口監督にはさまざまなことをテーマに話を聞いたので、ぜひ明日の第二回からのインタビュー記事をご一読いただけたらと思う。

取材・文=木之下潤
写真=佐藤博之/橋立拓也

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#高知ユナイテッドSCレディース
#JFAアカデミー福島

【全四回】
第一回=序文
XF CUP「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)」の大会意義を考える

第二回=優勝インタビュー01
コロナ禍の中で取り組んだチーム作りで見えたこと。【山口隆文監督】

第三回=優勝インタビュー02
プレーに関わる意味を丁寧に指導することが使命。【山口隆文監督】

第四回=優勝インタビュー03
プレーそのものが美しいと思ってもらえる選手の育成が女子サッカーの魅力になる!【山口隆文監督】

「僕の仮説を公開します」は2020年1月より有料になります。もし有益だと感じていただけたらサポートいただけますと幸いです。取材活動費をはじめ、企画実施費など大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。