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プレーに関わる意味を丁寧に指導することが使命。【優勝インタビュー02/山口隆文監督】

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■ボール保持者に対し、強く動く選手の育成が課題

――JFAアカデミー福島については、個人戦術と個人戦術の交わり=共通認識・共通理解の部分が今大会抜きに出ていたという印象です。他のチームが表現したいことを高いレベルで実践していました。暗黙の了解という領域に達したプレーもたくさん見られましたが、これは大会前から完成されていたものなのでしょうか?

山口監督「そもそもサッカーのプレーは相手の強度によって『できるできない』が決まってきます。イメージとしては今大会のプレッシャー強度であればできるだろうなと想定していましたが、正直、選手たちは私の想像以上に表現してくれました。

『なでしこチャレンジリーグ』の優勝のかかったホーム&アウェーのプレーオフ『アンジュヴィオレ広島』戦では、今大会のプレーまでは表現できませんでした。アウェーの第一戦で言うと、シュート数はこちらが3本、相手が十数本と大きな差がありました。シュートできるゾーンまでは行くんだけど、シュートが打てない。ボール支配率は五分五分なのにシュートが打てなかったんです。

カウンター狙いのチームに対して、どうのようにビルドアップをして、どう崩していこうかとゲームを作っていく中で、最後のシュートにたどり着けない。それをホームの優勝がかかった試合では、修正してシュートまで持っていけるようになりました。結果は1対0。リーグの最終戦でそういうことが表現できた上で、今大会に臨んだという経緯です。

例えば、今大会は選手が一つ飛ばすパスやロングパスを多用できていたのですが、そこでスピードアップをはかれていたのかな、と。さらにそこだけに止まらず、パスを受けた選手に対して周囲の選手が素早くフォローすることもできていました。

私は、間を飛ばすパスを通している時間=ボールの移動中に他の選手がプレーにどのように関わり続けられるかをずっと伝え続けていましたが、彼女たちは上手に表現できていました。手ごたえとしては準決勝がよかったと感じています。決勝は少しバテてしまいましたが、5試合通していいパフォーマンスを発揮していました。

私から、若いコーチに伝えていたのは『日々の練習が試合でどのように反映されるのか』が一番重要だということです。試合で要求していることを、練習で要求しなければいけない、と。サッカーという試合で要求していることを選手に言い続けなければいけない。しかも、それを反復させなければいけない。

7秒に一回程度ボールを触るようなパス&コントロールの練習など、私たちが大切にすべきことはフランスのクロード・デュソーさんが4年間をかけてアカデミーに生み落としていったものを継承していくことです。そして、それをより進化させていくことです。

やはり『見ている人が楽しい』と思えないサッカーに人は集まらないです。

私たちはそういう意識をもって大会に参加しました。YouTubeにも試合がアップされているので、ぜひ同世代のサッカーに関わっている人たちに見てほしいです。縦だけでなく、横に揺さぶりながら間を突いて、いろんな攻撃を見せられたように感じています。相手を変化させる中で隙を突くようなサッカーが展開できたという感触は抱いています。

第2回 日本クラブユース女子サッカー大会U-18

もちろんボール保持者に対するプレッシャーが弱かった背景もあります。彼女たちがもう一つ上のレベルに行くためには、成人した選手を相手に同じようなプレーができること。もしくは、今大会に出場していなかった同世代の上位クラスのチームにも同じプレーが表現をできることです。

ここが来年度の目標です」

――その一方で課題もあったように思います。もちろん疲労もあったかと思いますが、状況把握が甘くなる部分は見られました。例えば、相手の守備のスライドがついていける状態が続いたとき、ボールを持っていない選手がボールウォッチャーになりすぎていて敵やスペースの認知が甘くなり、アクションが遅くなっていたように私の目から見えました。

これは非常に厳しい目で見た場合のことなので、この世代の選手に要求するレベルかどうかは正直わかりません。しかし、彼女たち自身がもう一つ上のレベルに駆け上がるためには次の課題も必要です。そのあたり、監督はどうお感じですか?

山口監督「考えるスピードを早くすることが一つです。そこを早めるためにはボール扱いが正確でなければギリギリまで周りを見られません。ボールテクニックの質を高めていくことも大きな要素の一つです。ギリギリのところで判断を変えられるところまで精度を高め、周りを見られる時間を増やしていく。全員のテクニックが上がれば考えるスピードも上がります」

――ボールを持っている選手はその通りだと思います。と同時に、ボールを持っていない選手がボールウォッチャーになりすぎているシーンも見られたのかな、と。

山口監督「オフ・ザ・ボールの選手がサッカーを決めなければいけないのが現代サッカーだと思います。ボールを持っていない選手が『どこを有効活用すればいいか』を見るのかがとても重要です。今大会については『ボール保持者が前を向ける状態なら前に飛び出せ』と言い続けていました。

それも強く、長く!

例えば、今大会でよく見られたのは10番のボランチがボールがワイドの選手に渡った場合にセンターフォワードを越えて前に飛び出していました。もちろんリスクマネジメントなど課題もありましたが、『強く、長く走る』ことは全員に徹底して要求していました。

一人が動き出した『次の動き出す選手』ですね。私の目から見て、そこが次の課題だったように思います。アクションを起こした、次のアクションです。スペースを作って、そこを使う、連動する。そこに対する認知だとか、考え方だとかがこのチームの次の課題です。

ただ『強く、動く』選手がいない限りはこの部分が生まれませんから、もっと『強く』動く選手が出てこなければこういうシーンすら作れません。ここは私たちを含めて現状の日本サッカーの課題だとも思います。

ここはサッカーの魅力に大きく関わります。今大会、アカデミーはかなり強くアクションを起こすプレーは数多く見られたと自負しています。これまでも要求していましたし、それが実を結んだことをうれしく感じています」

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■現代サッカーは『オフ』の選手が試合を決める

――監督のおっしゃる通り、ダイナミックにアクションを起こす選手がいないと次に連なる選手は出てきません。やはりファーストアクションの質は重要です。

山口監督「アカデミーはジャパンズ・ウェイを追求する場所ですから、私たちはモビリティの質量を上げていくことをしなければいけません。そこを『私たちは表現しているんだ』という部分では、今大会の5試合については少し表現できたのかなと思っています。

もう一つ選手たちを褒めたいことがあります。

今大会、私たちのプレーに対して他のチームも20分くらいはついてきていました。私も『結構やるんだな』という印象を持っていました。ただ20分過ぎたあたりから徐々について来れなくなりました。

なぜか?

それは、私たちが横に揺さぶり続けているからです。相手にとっては移動距離が増えていきますし、何度も目線を変えさせられていますから疲労がたまっていきます。例えば、調子がいいときのバルセロナが相手にボールを触らせずに疲弊させて最後に刺すというようなプレーが、私たちもほんの少しできていたことです。

基本的にサッカーは『一度ボールを保持したらなかなかとられないよ』という中での攻防だと考えています。あくまで個人の見解ですが、『取って取られが続く』のはサッカーではないという価値観です。だから、一度ボールを保持したら『なかなか取られないよ』を表現しながら『どうやって突破をしていくか』をどのように仕掛けるかが大切です。

そのためには、アタッキングサードに入ったときはダイナミックに動く選手が必要不可欠ですし、突破できないです。今大会のプレッシャーであればボール保持者を信じて動けるので、あれくらいのプレーはできるんだなという印象です。

結局、取って取られてを繰り返すと思い切って動けなくなりますから、そこは相手とのチーム関係の中でサッカーが作られるものなので、今回の対戦相手の中ではできたのかな、と。それは私たちがボールを保持できる状況下にあったのが要因の一つです。そして、取られても一目散に奪い返せばいいということも訓練してきたからです。

そういう意味では、完全にやられてしまったのは決勝の失点だけです。あのシーンはボールを奪われた瞬間の切り替えの部分が甘かったので持って行かれてしまいました。攻撃に酔いしれて自分たちがボールウォッチャーになってしまい、守備でやらなければいけないことを3つくらい怠った結果、失点してしまった」

――確かに完全にやられた失点は決勝の1点だけですね。アカデミーの使命は日本のモデルケースを作ることにあります。プレー面とプレー以外の点で大切に伝えていることは何でしょうか?

山口監督「プレーについては真の反復トレーニングを行うことです。試合を意識してその中で使えるテクニックを己の中で反復しなければいけません。一番は基本である『止めて蹴る』の質の部分がどれだけ大事かを伝えています。

そして、走れる心と体を作ることです。

走らなければ、試合では力を発揮できませんから。例えば、サッカーは105m×65mのピッチの中で躍動しなければ選手の意味をなさないわけです。中学校1年生に目を向けると足下は非常にうまいんだけど、狭い局面でだけちょこちょこ動いてプレーしていても、誰もに認められるようなプレーが表現できているわけではありません。だから、彼女たちには『それでは通用しないよ』とはっきり伝えています。

小学校7年生だからその真意がわかるわけもないのですが、まだまだピッチの中で躍動できる心と体を手に入れていないんです。

それが徐々に中2、高1、高校3と段階を踏んだときに少しずつピッチで表現できるようになるわけです。今大会は中3の選手が2人出場しましたが、あの中では活躍できないんです。同世代の中では活躍できても、上のレベルになったときにある時間帯から消えてしまいます。自分のプレー以外に、あの大きなピッチでやらなければいけないことがいろいろあることを知らなければなりません。

例えば、ボールを取られた奪い返しに行くこと。自陣まで下がるとか、仲間がボールを持ったときには強く早くアクションを起こすとか、しかもその反復が当然できるわけもないんです。だから、徐々に慣れさせている段階です。

2人はチャレンジリーグにも出場しています。同時に、U-15の試合にも主力として出ていますから、それらを経験させながら育成している段階です。現段階では少しずつ表現できるようになってきているので、今大会は半分を目安に出場させました。これを身につけるためには積み上げが必要になりますから、コツコツと経験していくしかありません。

ケガをしない、丁度いい強度を保ちながら心と体を培っていく。

そういうトレーニングを組み立てて365日を6年間繰り返す中で、彼女たちが持っている特徴を保存しながら、でもサッカーというゲームが要求しているプレーを身につけさせたいと私たち指導者は常に考えています。

そのコーチングはいつもいつも同じことを言う。
周りを見て、ボールに寄って、パスしたら走る。

クラマーさんが教えてくれたことを選手たちが身につけられるようにしたいとずっと思っています。若いコーチには『そういう指導に飽きてはいけない』と常々言い続けています」

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取材・文=木之下潤
写真=佐藤博之/橋立拓也
協力=JFAアカデミー福島

#XFエグゼフ
#XFCUP
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#JFAアカデミー福島

【全四回】
第一回=序文
XF CUP「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)」の大会意義を考える

第二回=優勝インタビュー01
コロナ禍の中で取り組んだチーム作りで見えたこと。【山口隆文監督】

第三回=優勝インタビュー02
プレーに関わる意味を丁寧に指導することが使命。【山口隆文監督】

第四回=優勝インタビュー03
プレーそのものが美しいと思ってもらえる選手の育成が女子サッカーの魅力になる!【山口隆文監督】

「僕の仮説を公開します」は2020年1月より有料になります。もし有益だと感じていただけたらサポートいただけますと幸いです。取材活動費をはじめ、企画実施費など大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。