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「情けなさ」の中にあるポップな回路

本来ならば明日からオリンピック開催となるはずだった連休前日の2020.7.22の夜。
自分はある映画を鑑賞するために世界有数の温泉地にある映画館へと電車で向かっていた。
言うまでもないとは思うが、世界でも有数の温泉地へわざわざ映画を見るために行ったことは過去一度もない。
作品は6月に行われたzoom会でオススメ映画として紹介された作品で地元ではやってないだろうなと高を括っていたところたまたまやっていたので、せっかくだからと見に行くことにした。
なかなか調整が付かずやっとこの日の20:00からの上映というスポット的な回があったためそこに標準を定めていた。
電車はほぼ定刻通りに駅に到着し、劇場までは駅から5分もかからない距離。上映開始20分前の7:40過ぎに余裕で劇場へ到着。
外観は昭和の映画館入り口みたいな雰囲気だ。どうやら1階に受付はない。階段を掃き掃除している赤い服がやたらと目立つ小柄のお年寄りがいらっしゃる。
う〜ん 味わい深い。
ふっと目の前に本日の上映スケジュールが載っているホワイトボードが目に入る。本日は連休前日でのスポット上映、連日18:00台の上映だったので手書きで時間変更が書き加えられている。
あれ……
「19:22~〇〇:〇〇」
現在19:45。上映から約20分経っている。HPでは20:00~の上映になっていたはず。
なんだかあやしい流れが来ている。
とはいえどうするか。予告5分を差し引いて冒頭から約20分のロス。せっかくここまで来たし途中からでも見るしかないなと思い、おもむろに階段を登ろうとすると呼び止められる。
「え!今から見るの?」
階段掃除をしていた赤い服のお年寄りだ。
自分はてっきり建物の管理人的な方で映画館の方ではないだろうと思っていたのだが、どうやら的は外れて怪しい展開になってきた。
「途中からでもいいので見ようかなと思って」
と言いながら階段を上がって行こうとすると、その方も焦ったように階段を一緒に上がり、丁度上がりきったとこのガラス張りのカウンターに入って行った。
え!映画館の方ですか!と内心何かヤバイ流れだと感じながら歩を進めた。
嫌な予感は見事に的中した。
どうやらこの時間の上映、お客さんが一人も入ってないのだ。
あのホワイトボードに手書きで書かれていた19:22~という微妙な時間案内。自分は全てを悟った。
この時点で上映してないこと=閉店している状態であることを。
そう、これはどう見ても上映時間を早めて片付けて帰ろうとしているようにしか見えない。
そして、彼女は予想外の展開で明らかに焦っている様にしか見えない。おまけに苦し紛れの言い訳は、今回は日取りが悪かったみたいな事だった。
どう考えてもこれは常習犯の手口としか思えない。とは言え時期が時期なのでコロナの影響かなとも思ったが、1文字もコロナという言葉も出てこない。やってくれたなと思いつつも、どこかでこの展開にニンマリしている自分もいるのも否めない。

映画好きの人にとっては何て失礼な映画館、映画に対する冒涜ではないかとなる気持ちに対しては120%同意する。その上で同時にある感覚によって、この出来事にゆる〜くニンマリしてしまう自分がいるのもまた事実。
そのような感覚を一言で表すとすればなんとも言えないこのやる気のなさ「情けなさ」である。
それは上から目線で自分はそっち側の人間じゃなくて良かったというような立ち位置から言っているのではない。
その「情けなさ」というものに自分は非常に味わい深いポップさを感じてしまうのである。
例えるなら、山下敦弘監督の「どんてん生活」の出演している赤犬(日本のバンド)メンバーが演じる役や、漫画家いましろたかし氏が描く絶妙な中年男性達の妄想や言い訳じみた逃げ腰全肯定の行動であったりする。
そんな作品達のポップさに自分は衝撃を受けてきた。

過去に出会った作品のキャラ達、今回の事にも素直に怒れない自分がいるのはなぜか?それはその純粋に堕落してるところが堪らなく愛おしく感じてしまう自分を否定できない自分がいるからである。

しかし、これ以上この妖怪クソババア(親しみを込めて)とのやりとりで時間を取られるというのも明日の予定に響く。
自分は平静を装い。明日来れたらまた来ますと、この時間をショートカットしその場を離れる。その時の妖怪の反応はあやまりつつも安堵感を漂わせていやがったのはいうまでもないことである。

帰り際、駅まで歩いてる途中に駅前温泉があり、営業時間が早朝6時より営業になっているのを目にし、明日のランニングは早朝出発してここをゴールにしようと思いつく。

次の日自分は予定通り駅前温泉までランニングし汗を流した。途中その劇場の前も通り過ぎていたのだけど、もうすでに忘れていたほどランニングを堪能していた。
そう、「情けなさ」にはこのなんとも言えないポップな抜けの良さがあるのだ。

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