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改シナリオ①『空に記す~沖縄編~前編』

~放送記録~

2017年6月12日放送 
文化放送「青山二丁目劇場」
≪キャスト≫
矢島寛二 古川登志夫
北川 純 田中秀幸
宮城 匡 佐藤正治
宮城 英 宮城志紀人
平良由幸 宮原弘和
平良江里 下地紫野
二宮 灯 須藤祐実
徳永清志 中尾良平
ナレーター 山下恵理子

~登場人物~

矢島寛二     旅人(元医者) 50代後半    
北川 純     旅人(元弁護士)50代後半
宮城 匡(たすく)漁師      50代前半
宮城 英(ひで)   匡の息子     20代後半
平良由幸     漁師      20代中半
平良江里     居酒屋経営   20代後半
二宮 灯(あかり)看護師 英の彼女 20代前半
徳永清志     詐欺師     30代中半
ナレーター


○ 沖縄県宜野湾市 宜野沖 明け方

  小さな漁船が、波を切り海原を進んでいる。
  漁船の船長宮城匡は舵を取り、
  船員平良由幸は黙々と仕事をしている。

匡「由幸!」

由幸「……」

匡「由幸!」

由幸「聞こえてるさ」

匡「今日は気合い入れてやるさ。しっかりな」

由幸「いつもやってるさ、今日、なんかあるの?」

匡「特別なお客さんが来る」

由幸「特別?」

匡「ああ、島の美味い魚をいっぱい食ってもらう」

由幸「またか……」

  激しい波の中、声をかけ合う二人。

匡「さぁ行くぞ、ハーイヤ!」

由幸「ハーイヤ!」

匡「ハーイヤ!」

由幸・寛二「ハーイヤ!」

○ 沖縄県宜野湾市 漁港 午前中

  漁から帰ってきた船や水揚げで賑わっている漁港。
  平良江里は台車で
  水揚げされた魚が入ったカゴを運んでいる。

江里「オジーありがとうね、
   今晩も江里特製のチャンプル作って待ってるよ~、
   じゃあねぇ」

  江里、台車を押しながらカゴを見る。

江里「いいイラブチャー入ったさ、今日は酢味噌で、
   おっととと、あっ」

  台車からカゴが落ちそうになり、
  その場にいた矢島寛二と北川純が助ける。

純「大丈夫ですか?」

江里「すいません、ありがとうございます」

寛二「おっ、新鮮な魚だね」

江里「今朝獲れたものです」

寛二「へえ、そうかい、
   漁師さんが命懸けで獲ってきたありがたい魚だ」

江里「ええ」

純「船は、全部帰ってきていますか?」

江里「はい…あの…旅行の方じゃないですよね?」

寛二「あははは、やっぱり堅気には見えないか」

江里「いえ、観光客の人はこの辺りには来ないから」

純「人を探してるんです」

寛二「宮城匡さんって、漁師がいると思うんだけど」

江里「あっ、匡オトー?」

寛二「えっ、知り合い? あぁ、俺は矢島寛二」

純「私は、北川純と申します」

寛二「俺たち旅してるんだ」

  BGM『オジー自慢のオリオンビール』BEGIN

ナレーター
「旅人の矢島寛二と北川純は、
 訳あって二人で日本全国を旅している。
 様々な場所で、様々な人に出会い、
 その数だけドラマがある。
 今回は沖縄県宜野湾市に足を踏み入れた寛二と純。
 どんなドラマが待ち受けているやら」

〇 江里の沖縄料理店 昼前

  江里はカウンターの中。
  匡、寛二、純はテーブル席に座ってる。

匡・寛二・純「あり、カンパーイ!」

匡・寛二・純「ふ~~~」

寛二「うまい、スッキリしてるね」

匡「オリオンビールは最高さ、内地にあるの?」

寛二「あんまり見ないねえ」

純「沖縄料理の店には置いてますよ」

匡「純さんは、いけるくち?」

純「ええ」

匡「じゃあ、今日は呑みましょう」

純「いい店ですね」

江里「ありがとうございます。
   すいません、仕込みをしながらで」

純「こちらこそ、開店前に申し訳ない」

江里「大丈夫です、匡オトーが手伝ってくれるから」

匡「あぁ、任せて」

純「本当の親子みたいですね」

江里「ええ、匡オトー、早速、これお願い」

匡「はいはい。まずは、わーが獲ってきたグルクンの刺身」

寛二「わー美味そうだ」

江里「グルクンは足が早いから、刺身は珍しいですよ」

純「そうなんですね」

匡「寛二さん、いつ着いたの?」

寛二「朝一で」

匡「そう」

寛二「こっちに来たら、
   この辺みんな宮城さんで迷っちゃった」

匡「あははは、そりゃそうだ」

純「それで漁港に行ったら、丁度江里さんに会って」

匡「よく来たね、どんどん呑んで」

寛二「うん、ドンドンドンドン呑むよ」

匡「さぁ、泡盛も」

寛二「おっ、いいね。沖縄はやっぱり泡盛だね」

江里「シークワーサーで割ると美味しいでしょう?」

寛二「美味い」

純「うっ、このグルクンの刺身美味いですねえ」

寛二「わっ、こんなの初めて食べた。
   これはドンドン酒が進むぞ~ふ~美味い」

純「お前の場合ただの呑兵衛だから、関係ないだろう」

寛二「まあな、あははは」

匡「寛二さんと純さんは付き合い長いんですか?」

寛二「中学校からの同級生で年は同じ、
   純の方が老けてるけど」

純「お前がガキっぽいだけだ」

寛二「60手前のオッサン捕まえて、ガキはないだろう」

匡「お二人とも、60手前とは思えないですよ」

純「匡さんこそ、50過ぎには見えません。お若い」

匡「いやいやそんな」

純「いやいやそんな」

  寛二も加わり三人で『いやいやそんな』を繰り返す。

江里「それがオッサン達の会話ですよ」

匡・寛二・純・江里「あははは」

  由幸、入口から入ってくる。

由幸「ネーネー」

江里「はい」

匡「おう、由幸」

由幸「オバーが、みんなでこれ食ってって」

匡「島らっきょうだ、ありがとね」

江里「ありがとうね」

匡「江里の弟でわーの船に乗ってる由幸。
  東京から来た矢島寛二さんと北川純さん」

寛二「よろしく」

純「お刺身も頂いています、ありがとうございます」

由幸「……」

匡「由幸も呑んでいけ」

由幸「やることあるから」

匡「いいから、ちょっとだけ」

寛二「一緒に呑もうよ」

匡「ほら」

由幸「一杯だけ」

匡「何呑む?」

由幸「ビール」

匡「じゃあ、改めて」

匡・寛二・純「あり、カンパーイ!」

寛二「由幸君が獲った魚美味いよ、漁師長いの?」

由幸「まぁ」

寛二「俺も船に乗ってみたいなぁ。
   海って、なんか血が騒ぐんだよなあ。
   男としての本能というか人間というか、
   生きてる感じ?」

純「何言ってるんだか、そんな簡単なもんじゃないだろう」

匡「でも、生きてるカンジですよね、
  カンジさんだけに、くくくく」

寛二「そういうカンジ!」

匡・寛二「あはははは」

純「ああ、ダメだこりゃ、変な酒になってきたぞ。
  由幸君ごめんね、付き合わせて」

寛二「こら、そこ! 何コソコソやってるんだ。
   みんなで呑もうよ」

匡「そうそう」

寛二「涙そうそう!」

匡・寛二「あはははは」

純「寛二、呑み過ぎるなよ」

寛二「大丈夫だよ、俺が酔うのは江里さんみたいな
   綺麗なお姉ちゃんだけ」

江里「まあ、ありがとうございます」

匡「あははは、わーも綺麗なネーネーには弱いさ」

寛二「沖縄の人は綺麗な人多いから、
   匡さん毎日酔っちゃうね」

匡「そうそう、泡盛と綺麗なネーネーで、
  毎日ぐでんぐでん、あははは」

寛二「あははは」

匡「由幸なんか、モテモテさぁ」

寛二「おっ、色男だね」

由幸「誰がそんなこと」

匡「誰がって、みんな言ってるさ」

由幸「英(ひで)ニーニーの方がモテてた」

寛二「英ニーニーって」

由幸「幼馴染」

匡「息子です、由幸より五つ上で」

由幸「英ニーニーは沖縄を捨てていった。
   ここにはわったーみたいに残された人間と、
   沖縄に憧れた移住者がいるだけ、
   それも沖縄の厳しい現実に目覚めるまでの一時。
   寛二さん、いつまでここにいるんですか?」

江里「由幸、何を言ゆん」

由幸「あんまり呑ませないで下さい、
   明日の仕事にも影響するんで」

  由幸、家を出ていく。

匡「由幸! ちょっとすいません」

  匡、由幸を追いかける。

江里「すいません、由幸が失礼なことを」

寛二「いえいえ。俺は平気だけど、ちょっと気になるなぁ」

純「江里さん、由幸君は訳があって、
  あんな言い方するんじゃないですか?」

江里「ええ、まあ」

純「もしよろしければ、お話を聞かせてもらえませんか」

江里「うちはオトーがいなくて、
   匡オトーが自分の子供のように
   可愛がってくれるんです。
   だから由幸は匡オトーを思う余りに心配で。
   それと……」

ナレーター
「沖縄の方言というのは、親しみを込めたものが多い。
 情に重きをなす沖縄ならではの表現で、
 今回は『ニーニー』
 つまりお兄さんという言葉が鍵になるようである」

〇 市役所前 昼前

  宮城英、二宮灯がタクシーから降りてくる。

英「灯、こっち」

灯「うん」

英「ここが市役所」

灯「へえ、英君の知り合い働いてる?」

英「うん、もちろん。見て、沖縄へ来たらまず
  これを灯に見てもらいたかったさ」

灯「地図?」

英「そう、俺が生まれ育った町の地図。
  十年前ここから逃げたわけよ。
  ケガしてバスケットボール出来なくなって、
  それからみんな変に俺に気を使って、それが嫌で」

灯「そうだったんだ」

英「見て、地図の中に基地がいっぱいあるでしょう」

灯「うん」

英「これが沖縄の現実さ」

灯「現実」

英「うん。沖縄のありのままを見てもらいたかったわけよ。
  ニュースで流れているような事の
  何が良いとか悪いとかじゃなくて。
  俺も、胸を張ってこれが俺の町なんだって
  言いたかったわけよ。だから、灯にも
  自分の目で沖縄を見てもらいたかったわけさ」

灯「うん」

英「十年前の俺はこんなこと言えなかったさ。
  沖縄を離れて、初めて沖縄のことが分かった気がする」

灯「英君」

英「ん?」

灯「沖縄が好きなんだね」

英「うん」

灯「それと家族も」

英「うん」

灯「英君の家は近いの?」

英「うん。連れていきたいけど。
  灯のこと、ちゃんとした形で紹介したいから、
  今日は一人で行ってこよーね」

灯「分かった」

英「だから、悪いんだけど
  徳永さんを迎えに行ってくれる?」

灯「うん」

〇 江里の沖縄料理店 昼前

寛二「なるほどね」

江里「でも英のケガを、
   匡オトーも由幸も自分の責任だと思っているんです。
   漁の仕事中、由幸が海に落ちかけて
   英が助けて代わりに船の外へ。
   その時スクリューに巻き込まれてケガをしたんです。
   それが原因で英はバスケット選手の夢を諦めました。
   由幸は負い目に感じ、匡オトーは落ち込む由幸に、
   言葉をかけられなかった」

純「そんなことが」

寛二「なるほどねぇ、誰も悪くないのに」

江里「そうなんです。由幸は英の代わりになって
   漁の仕事を手伝い、ずっと島にいようとしている。
   それで、英はみんなの優しさが重荷になって
   押しつぶさそうになって。
   みんな優しいから、傷つくんです。
   すいません、なんかしゃべり過ぎました。
   仕込みがあるんで」

寛二「あぁ、俺たちは勝手に呑んでるから、気にしないで」

純「寛二」

寛二「ん?」

純「俺を旅に誘った日を覚えてるか?」

寛二「ああ、うん」

純「そうか」

寛二「なんで」

純「由幸君見ていると、ちょっと思い出して」

寛二「ふーん、北川先生に戻りたくなったのか?」

純「いや、矢島先生」

寛二「ふっ、似合わねーお互いに」(鼻で笑う)

純「……そうだな」

  BGM『花』夏川りみ

〇 漁港 昼前

匡「由幸」

由幸「なに」

匡「あんな言い方はないさ」

由幸「当たり前のこと言っただけさあ」

匡「なんが当たり前だ」

由幸「匡オトーも解ってるよね、
   あの人達がすぐいなくなること」

匡「ああ」

由幸「そうやっていつも我慢してさあ」

匡「別に我慢なんかしてない、いちゃりばちょーでーさ」

由幸「また、沖縄のいいところばっかり見せようとする」

匡「沖縄の心は、忘れたらいけないよ」

由幸「わかるよ、でも限度ってものがあるでしょう。
   旅行者を家に泊めては呑んでの繰り返し。
   今日の仕事だって、やることまだあったのに」

匡「それはすまないと思ってるさあ」

由幸「沖縄の心って言うけど、利用しているだけさ、
   寂しさを紛らわす為に」

匡「そんな事はないさあ」

由幸「英ニーニーが出て行ってからずっと、そうさ」

匡「そんな事は、わーは沖縄の心を……」

〇 江里の沖縄料理店 昼前

寛二「『いちゃりばちょーでー』って知ってるか?」

純「なんだっけ?」

寛二「『いちゃりば』は『行き会えば』、
   『ちょーでー』は『兄弟』。
   意味は、出会った人は
   兄弟のように仲良くしようという沖縄の諺」

純「あぁ、聞いたことある。一期一会みたいな意味だな」

寛二「ああ」

純「それが?」

寛二「アニキが教えてくれた」

純「そうだったんだ」

寛二「アニキとは仲も良かったけど喧嘩もした。年が離れていたから、負けてばっかりだったけど」

純「寛二じゃ勝てないよ、あのお兄さんには」

寛二「久々にやるかな」

純「おいおい、何考えてるんだ」

寛二「『いちゃりばちょーでー』喧嘩するほど
   仲が良いって。江里さん! 
   由幸君に電話してもらって伝言お願いしていいかな」

江里「ええ」

寛二「海で待ってると。ふふふ」

ナレーター「寛二が笑う時、それは何かを企んでいる時である」

〇 海岸 正午過ぎ

  波とボートを漕ぐ音が聞こえてくる。
  海岸で由幸と匡が待っているところ、
  ボートを漕ぐ寛二と太鼓を抱えた純が現れる。

由幸「なんだあれ?」

匡「あれまーーーー」

  寛二と純、ボートから降りる。

寛二「待たせたな、佐々木小次郎」

由幸「は?何言ってるの?」

寛二「せっかくの決闘だから、雰囲気を出してみた」

由幸「宮本武蔵のつもり?」

匡「寛二さん、その衣装カッコイイさ」

寛二「うむ、国際通りまで行って探してきた」

匡「よくあったね」

純「探し回って、やっと外国人観光客向けの店で」

由幸「その為に遅れたのか?」

寛二「うむ」

匡「ははは、宮本武蔵は遅れるもんさ」

由幸「なに納得してんの、
   もう、それに向こうでボート乗るところ見えてたし」

寛二「うむ、小次郎なかなかやるな」

由幸「だから小次郎じゃないって」

寛二「純」

  純、太鼓を叩き始める。

匡「純さん、それ」

純「倉庫にあったので借りました、すいません」

匡「いいのいいの」

純「いい音しますね」

由幸「まったくいい大人が揃って、」

  太鼓が鳴り止む。

寛二「由幸殿、決闘を申し込む」

由幸「付き合ってられないさ」

寛二「逃げるのか?」

由幸「勝手に遊べば」

寛二「いつまで逃げるつもりだ、
   ずっとこの島の中で逃げ続けるのか」

由幸「何だと、ぶらぶら呑気に旅してる人間に
   島の人間のことがわかるか!」

寛二「あ、わからないね。
   だから決闘しようって、言っているんだ」

由幸「それならやってやるさあ。ほら、かかって来いよ」

寛二「うむ」

由幸「来ないなら、こっちから」

寛二「待て、グーで殴ったら痛い。痛いのはやだ」

由幸「は?」

純「弱い宮本武蔵だな」

寛二「パーもまあまあ痛し、チョキはもってのほか」

匡「なるほど」

寛二「剣を交わそう」

〇 宜野湾沖 匡の船 午後

  船が波を切り海原を進んでいる。
  
ナレーター
「一行は匡の船で沖に出たのだが、
 寛二よ、ひとこと言っておく。
 恥ずかしいから外国人観光客に見られるな。
 日本人として切なる願いだ」

匡「じゃ、この辺で始めますか。では決闘のルールですが、
  竿を使って日が落ちるまでに多く魚を釣った方が勝ち。
  負けた方が何でも言うことを聞く。
  以上、異論はないか?」

寛二「ああ」

由幸「何が剣を交わそうだ、ただの釣り対決さ」

寛二「漁師にとって、竿は剣だろう」

由幸「利いた風な口を。まぁ、これで勝てば、
   さっさと島から出て行ってもらうさ。
   二度と島に来るな」

寛二「わかった。じゃあ、俺が勝ったら、
   由幸君が島から出ていく」

由幸「え?」

寛二「出来ないのか?」

由幸「わかったよ。負けるわけないし」

匡「では、用意はいいか?」

由幸「ああ」

寛二「ああ」

匡「用意、はじめ」

  由幸と寛二、竿をふり釣りを始める。

   BGM『唐船どーい』沖縄民謡(よなは徹)

寛二「さぁ、いくぞ佐々木」

由幸「は?」

純「せめて小次郎って言えよ、どこの佐々木だと思ったよ」

由幸「漁師の腕っていうのを見せてやるさ」

  寛二があたりを感じて、リールを巻く。

寛二「おl、これはでかいぞ」

匡「おぉ、早速」

由幸「えっ」

寛二「スーさん、負けないよ」

純「今度は釣りバカのハマちゃんになったか」

寛二「よしっ、ん」

  寛二の釣り糸が切れ、逃げられる。

寛二「あっ、あ~~~」

由幸「あっははは、所詮は偽物のハマちゃん。おっ」

  由幸があたりを感じて、リールを巻く。

由幸「よし、来た。ん、ん、よしっ」

  由幸、大きなツムブリを釣り上げる。

匡「おぉ、これは大きなツムブリさ」

純「おぉ、凄いなあ」

由幸「こんなの普通さ」

寛二「負けませんよ、ハマちゃん」

純「勝手にスーさんに替わるな」

匡「ははは、由幸、どんどんイケっ」

由幸「言われなくても、おっ、また来た」

  由幸、大きな魚を釣り上げる。

由幸「よし」

純「これまた、大きい魚だ」

寛二「そろそろ、俺も本気を出すかな」

由幸「ふん」

寛二「ふふふふ、海の神様! 魚ちょーだい!」

由幸「そんなことで、魚が―」

寛二「おぉ」

  寛二、手応えを感じる。

匡「これは大きそうだ」

寛二「うっ、うっ、よっしゃ!」

  寛二、由幸より大きなツムブリを釣り上げる。

純「大きなツムブリだ」

匡「由幸が釣ったものより大きい」

寛二「どんなもんだい」

由幸「ふん、大きさより、釣った数だろう」

寛二「あぁ、勝負はこれからだ」

  二人の戦いの中、空が暗くなってきた。

匡「そろそろ、日没だ」

純「寛二、このままじゃ負けるぞ」

寛二「わかってるよ、最後に必殺技を」

由幸「負け惜しみを」

寛二「ふふふ、拙者は宮本武蔵、二刀流の名手である」

  寛二、日本の竿で釣りを始める。

匡「おl、竿を二本も」

純「これで両方掛かれば、逆転だ」

由幸「ズルい」

寛二「竿一本とは言ってないぞ、ねえ匡さん?」

匡「確かに」

由幸「ふっ、でも釣りはそんなにあま―」

寛二「きたーーー!」

匡「二本とも」

由幸「え?」

純「寛二、一本貸せ」

寛二「手を出すんじゃねぇ! これは決闘だ」

匡「寛二さん、でも危ないよ」

寛二「大丈夫だ、海の神様、
   いや俺にはアニキがついているんだ!」

純「寛二」

寛二「おっ、」

由幸「危ない!」

  激しい波の音。少しの時間経過。
  寛二と由幸、荒い呼吸をしている。

寛二・由幸「は、は、は」

純「日が落ちた」

匡「釣り対決終了」

  純、太鼓を鳴らす。

由幸「まったく無茶して、は、は、は」

寛二「オッサンの意地だ。よっこらせっと。
   由幸君助けもらったけど、勝負は俺の勝ちだ。
   約束通り島から出て行ってもらうぜ」

由幸「くそっ」

寛二「あぁ、日が落ちたな」

  寛二、東の空を見ている。

匡「寛二さん、そっちは東さ」

寛二「ああ、分かってる、これが沖縄の空か…」

由幸「寛二さん」

寛二「ん?」

由幸「沖縄は初めて来たの?」

寛二「ああ、なんで?」

由幸「なんかそうじゃない気がして」

寛二「初めてだ。でも、沖縄の話は何度も聞いていた。
   だからずっと来たかったんだ。
   日が沈む時、東の空を見たかったんだ」

由幸「東の空?」

寛二「ああ、夕日で西から東へと
   グラデーションのかかった空を。
   当たり前だけど、空は東と西で繋がってる。
   それに一色じゃないんだな……。
   見られて良かった。沖縄にはいろんなことがある。
   昔も今も。だからこそ、
   日が暮れる時の東の空を見て欲しい。
   そう話してくれたよアニキは」

由幸「寛二さんのニーニー」

寛二「ああ」

純「釣りが好きだったなあ」

匡「オトーも言ってた」

由幸「え?」

匡「わーは小さい頃で、
  ハッキリ覚えてないけど遊んでもらったそうだ。
  寛二さんのお兄さんは、
  オトーの漁を手伝ってたわけさ」

由幸「そうだったんだ」

寛二「『いちゃりばちょーでー』っていい言葉だ」

由幸「寛二さん」

寛二「俺もアニキも故郷を離れて、
   この空を見ることが出来た。
   由幸君も空を見てみろよ、自分の目で自分の空を」

  純、太鼓を鳴らす。

純「さぁ、勝負もついた。そろそろ帰りませんか? 
  寛二、その衣装店閉まる前に返しにいかないと」

寛二「あぁ、そうだった」

匡「ははは、純さん、太鼓が身についてきたね」

純「ありがとうございます。あっ、そう言えば、
  太鼓を探している時、親戚の人が来てましたよ」

匡「親戚?」

純「ええ、そう言ってました。
  太鼓がある場所も教えてくれたんですよ」

匡「誰だ?」

純「背の高い男の人で、あっ手の甲に大きな傷が」

匡「え?手の甲に傷…」

由幸「英ニーニー!」

〇 那覇市 国際通り 居酒屋 夜

  BGM『ハイサイおじんさん』喜納昌吉&チャンプルーズ

  英と灯、徳永清志が居酒屋で呑んでいる。

徳永「英君、親孝行だね。本当に感心するよ」

英「いえいえ」

徳永「おれは英君の歳の頃、
   そんなにしっかりしてなかったよ」

英「僕なんてぜんぜんですよ。
  逆に徳永さんの歳になるまで、成功出来るかどうか」

徳永「大丈夫だよ、先見の明があるから。
   英君って芸能人とか、こいつ売れるなぁとか
   解るんじゃない?」

英「あぁ、どうかな」

徳永「いいなぁって思ったら、人気出たりするでしょう?」

英「言われてみれば、そういうことも」

徳永「やっぱり、英君はなんか人と違う才能があるんだって」

英「そんなことないですよ」

徳永「またまた謙虚だな、
   まぁ、これが英君のいいところだな。
   灯ちゃんもそう思わない?」

灯「ええ」

徳永「だよね。俺にはないものを持ってるよ」

英「徳永さんだって、
  僕が持ってないものを沢山持ってますよ」

徳永「沢山あるかどうかは置いといて、
   まあ自分で言うのもなんだけど、
   英君になくて俺にあるものはスピードかな」

英「あぁ、わかる気がします」

徳永「ビジネスって、素早い決断力が必要なんだよ」

英「はい」

徳永「この前も言ったかもしれないけど、
   インドネシアの事業はまさにスピードだったね。
   他の投資家が考えている間に、
   5千万位の利益を上げたなぁ」

英「凄いですねえ」

徳永「英君」

英「はい」

徳永「もうひとつ、ビジネスで大切なことがある」

英「はい」

徳永「『いちゃりばちょーでー』だよ」

英「えっ、徳永さん、知ってるんですか?」

徳永「もちろん。ビジネスはやっぱり
   人との関わりが大事なんだよ。
   俺も沖縄好きだ、一緒に頑張っていこうよ」

英「はい」

徳永「英君は沖縄の星だよ」

英「沖縄の星……」

〇 宜野湾市 宜野湾沖 匡の船 夜

  波を切り海原を進んでいる。

由幸「匡オトー、連絡あったの?」

匡「いや。由幸、お前の方には?」

由幸「ないさ、もう何年も」

匡「違う人かも」

由幸「純さん」

純「はい」

由幸「その人、本当に手の甲に大きな傷があったんですか?」

純「ええ、左手に。親戚と聞いたので、
  まさか息子さんだったとは」

匡「どこに行きました?」

純「さあ、私はすぐに海岸へ向かったので」

寛二「息子さん、沖縄に住んでないの?」

匡「ええ、十年前に東京へ行って。今はどこにいるやらと思っていたんだが…」

由幸「英ニーニーは、沖縄の星だったさ」

   テーマ曲『ハイウェイ』くるり

ナレーター
「匡と由幸の為に人肌脱いだ寛二と純だったが、
 他にも事情があるようで、
 この話はまだまだ続きそうである。
 果たしてどんなドラマが二人を待ち受けているやら。
 うむ、しかしながらこの二人なぜ旅をしているのか、
 気になるところだが、
 まぁ、長い旅になりそうなので、その話は追々。」

寛二N「わが旅は」
純N「ひとつの空の下」
寛二N「今日は東から西へ」
純N「明日は北から南へ」
寛二N「行き行きて、道がある限り」
純N「行き行きて、人がいる限り」
寛二・純N「空に記(しる)す、わが息吹」

                           
続く

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