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改シナリオ②『空に記す~沖縄編~後編』

~放送記録~

2017年6月22日放送 
文化放送「青山二丁目劇場」
≪キャスト≫
矢島寛二 古川登志夫
北川 純 田中秀幸
宮城 匡 佐藤正治
宮城 英 宮城志紀人
平良由幸 宮原弘和
平良江里 下地紫野
二宮 灯 須藤祐実
徳永清志 中尾良平
ナレーター 山下恵理子

~登場人物~

矢島寛二     旅人(元医者) 50代後半    
北川 純     旅人(元弁護士)50代後半
宮城 匡(たすく)漁師      50代前半
宮城 英(ひで) 匡の息子      20代後半
平良由幸     漁師      20代中半
平良江里     居酒屋経営   20代後半
二宮 灯(あかり)看護師 英の彼女  20代前半
徳永清志     詐欺師     30代中半
ナレーター

 BGM 『防波堤で見た景色』BEGIN

 ナレーター
「旅人の矢島寛二と北川純は、
 訳あって二人で日本全国を旅している。
 様々な場所で様々な人に出会いその数だけドラマがある。
 今回は、沖縄県宜野湾市に住む寛二の知人の宮城匡を
 訪ねた。

 匡の家は代々漁師。
 息子の英は漁師にならず島を出て行き、
 仕事は息子のように可愛がる英の幼馴染の平良由幸が
 手伝っている。
 由幸は、英が島を出て行ったのは自分のせいだと思い込み
 また、人が良過ぎて仕事そっちのけで
 旅行者をもてなす匡をよく思っていなかった。

 ある日、由幸は匡を思う余りに言い争いになる。
 しかし、寛二から釣りで対決を挑まれて、
 その中で自分の居場所は自分で決めるものだと
 気付かせられた。そんな折、匡の息子の英らしい人物が
 沖縄に帰ってきていることがわかったのであった」

 〇 宜野湾市 県道 由幸の車の中 夜

 カーラジオから聞こえてくる『防波堤で見た景色』。
 由幸が運転をして、助手席に純が乗っている。

 由幸「純さん、国際通りのどの辺ですか?」

 純「公設市場の近くだったかな」

 由幸「あぁ、アーケードの中ですか?」

 純「そうそう、アーケード入って暫くいったところ」

 由幸「だいたい分かりました」

 純「由幸君、悪いねぇ」

 由幸「いえ」

 純「なんで、私と由幸君が衣装を返しにいかないといけない 
  んだ。寛二が着ていたのに」

 由幸「くくく、あははは」

 純「え?」

   純と由幸、笑いながら話を続ける。

 由幸「すいません、ずっと我慢してたんですよ。
   だって笑うさ普通、宮本武蔵って。
   僕のこと真顔で『小次郎』って呼んで」

 純「そうだね、あははは」

 由幸「決闘だって呼び出して、
   観光客用の番号が入ったボートに乗って来るし」

 純「あれやっぱり見えてた?」

 由幸「見えてましたよ、
   乗った瞬間二人でヨロヨロしてたでしょう?」

 純「ああ、私は太鼓持っていたから、手がつけなくて」

 由幸「あの時、寛二さんから喧嘩売られてカッーとなって
   たけど、油断したら笑いそうで。
   だって殴ろうとしたら、
   『待て、グーで殴ったら痛い。痛いのはやだ』って」

 純「それで『パーもまあまあ痛しチョキはもってのほか』
  って」

 由幸・純「ははははは」

 純「チョキは目潰しをイメージしてたんだろう、
  目がショボショボしてたよ」

 由幸「はははは、お腹痛い……
   寛二さんって本当面白い」

 純「うん」

 由幸「一緒に旅してて、飽きないでしょう?」

 純「飽きないけど、呆れる」

 由幸「ははは、名コンビですね」

 純「匡さんにも言われた」

 由幸「そう! 思ったんですよ、
   お二人って名前が矢島と北川で、
   弥次喜多みたいですね」

 純「弥次喜多知ってるんだ?」

 由幸「はい、映画で見て」

 純「あっ、勘三郎さんの?」

 由幸「てれすこ!」

 純「見た見た!」

 由幸「面白いですよね」

 純「柄本明さんの喜多さんも良かったなあ」

 由幸「ええ、元々映画はロードムービーが好きなんです」

 純「私も、気が合うなあ」

 由幸「はい…いいなぁ」

 純「ん?」

 由幸「僕、沖縄出たことないんです」

 純「そう」

 由幸「旅か…なんで純さんは旅に出たんですか?」

 純「んー、何て言ったらいいかなぁ、いろいろあって」

 由幸「どっちが誘ったんですか?」

 純「寛二だけど、あいつもいろいろあって、
  丁度そういうタイミングだったんだと思う二人とも」

 由幸「へえ」

 純「私ね、旅に出るまでは、
  自分の居場所だと思っていたところにずっといたんだ」

 由幸「自分の居場所」

 純「うん、勝手にここだと思って自分を縛りつけていた
  んだ。いろんな理由をつけてね」

 由幸「そうですか。あれ、もしかして寛二さん、釣り対決
   で負けて島出て行けって、俺にそれを教えるために」

 純「さあね、あいつはただ宮本武蔵を
  やりたかったんじゃないの、ふふふ」

 〇 宜野湾市 江里の沖縄料理店 夜

     寛二と匡、テーブルに座っている。
  江里はカウンターの中。
  寛二、太鼓を叩く。

 寛二「いい音するね」

 匡「はい、エイサーで使うんです」

 寛二「やっぱり。決闘の雰囲気を出すには
   少し音が軽かった、ははは」

 匡「そうですね…寛二さんありがとうございました」

 寛二「いやいや、礼を言うのは俺の方だ、
   憧れの宮本武蔵になれた」

 匡「かっこよかったです」

 江里「私も見たかったわ」

 寛二「俺も江里さんに見て欲しかったけど、オールを持っ
   た宮本武蔵は、ちょっとかっこ悪かったなぁ」

 匡・寛二・江里「あははは」

匡「ロケーションも巌流島っていう雰気じゃないですし」

 寛二「匡さんの船まで出してもらったのに、悪かったな」

 匡「とんでもないです、釣り竿の二刀流まで見られて楽し
  かったです」

 寛二「楽しいって、あの時本当死ぬかと思った」

 匡「ははは、あれは危なかったですね」

 寛二「由幸君が助けてくれたから良かったよ」

 匡「助けたのは、寛二さんですよ」

 寛二「え?」

 匡「寛二さんと純さんのおかげで、由幸、ちょっとは心が
  軽くなったんじゃないかな?」

 江里「ありがとうございます」

 寛二「俺は何もしてねえよ、ただアニキが言っていたこと
   を自分自身で、感じたかっただけ」

 匡「ふふ、寛二さんらしい」

 寛二「純の方が役に立ってるよ、今頃意気投合して、呑ん
   でるんじゃないの?」

 匡「寛二さん、わざとあの二人を」

 寛二「あいつは聞き上手なんだよ」

 匡「ええ」

 寛二「俺にないものを持っている。由幸君みたいなタイプ
   は時間が経てば意気投合出来るかもしれないけど、
   短い時間だとぶつかっちゃうんだよなぁ俺は。
   だからって、決闘はないよな、ははは」

 江里「沖縄で生まれた人間は、沖縄で生きていく葛藤って
   あるんです。特に若いうちは考えてしまう。
   厳しい現実や矛盾を目の当たりにして。
   特に由幸は、沖縄を美化してしまう風潮に神経質で」

 寛二「昔からそうなの?」

 江里「いいえ」

 匡「わーに原因があるんです、それと英も」

 寛二「英って息子さん?」

 匡「はい」

 〇 那覇市 県立高校 体育館 昼 十年前

 ナレーター
「時は十年前に遡る。高校の体育館で、全国高校バスケット
 ボール大会沖縄予選の決勝戦が行われている」

  大きな歓声の中、バスケットの試合が行われている。
 選手の英が活躍している。
 観客席で、由幸と江里が応援している。匡が遅れてくる。

 由幸「いけいけーー、英ニイニイ!」

 江里「英、ファイト!」

 匡「由幸」

 由幸「匡オトー、遅いさ」

 匡「勝ってるか?」

 由幸「もちろん、もう全国大会は間違いないね」

 匡「おぉ、速攻だ、英!」

  英がシュートを決める。

 由幸・匡・江里「ヤッターー」

 匡「ナイスシュート、英!」

 由幸「さすが英ニイニイ!」

 江里「英、もう一本!」

 〇 宜野湾市 江里の沖縄料理店 夜 現在

 江里「高校でエースだった。私達同級生の間では、
   沖縄の星って騒がれるほどで」

 寛二「おぉ、凄いね」

 江里「子供の頃から、バスケットが好きだった。
   暇があったら、由幸とやっていた。
   寛二さん、琉球ゴールデンキングス知ってますか?」

 寛二「ああ。バスケットチームだろう」

 江里「はい」

 ナレーター
「琉球ゴールデンキングスとは、沖縄初のプロスポーツチ
 ームで創立のエピソードは本にまでになり、全国放送の
 ニュースで紹介されるほど話題になった」

 江里「琉球ゴールデンキングスは、沖縄県民にとって特別
   なんです。バスケットの試合なんて見たことないオ
   ジーやオバーまで会場に足を運んで応援します」

 匡「英が高校三年生の時にチームが出来て、英もプロテス
  トを受けるつもりだった。当時、他の地域のチームか
  らのスカウトもあったけど、英は琉球ゴールデンキン
  グスにこだわった。
  でも、英はプロのバスケットプレイヤーになれなか
  った。プロどころか、三年の時の全国大会も出場出来
  なかった、県大会で優勝したのに。漁の最中にケガを
  したんです」

 寛二「純が言っていた、手にあった傷ですよね、
   実は江里さんからもケガの話は聞きました」

 匡「そうですか。全国大会直前だったんです。
  手術をしたんですけど、後遺症が残って。
  特にバスケットボールは、それまでのプレーが出来な
  くなった。それで英はバスケットを辞めてしまたん
  です。でも当時ゴールデンキングスの躍進は凄くて、
  島のどこいっても話題に。
  英はそれが辛くて逃げるように東京に行ったんです。
  自分のせいでケガしたと思っている由幸は、
  負い目を感じて」

 江里「三人とも違うさ。みんな優しすぎるのよ。
   もっと、自分の事を考えればいいのよ、
   自分の気持ちに正直になればいいのよ。
   優しさって重荷になる時があるの」

 〇 那覇市 国際通り 居酒屋 夜

 徳永「えーと、あとこことここにもサインを」

 英「はい」

 徳永「うん…英くん、それ大きな傷だね」

 英「ええ」

 徳永「どうしたの?」

 英「……ちょっと」

 徳永「あっ、分かった、男の勲章だ」

 英「え?」

 徳永「昔、いろいろヤンチャやったんじゃないの?」

 英「えっ、いや……まぁ」

 徳永「はは、なんだそうなんだ、俺もいろいろやったよ。
   でも若い頃は、ヤンチャするくらいが丁度いいんだ
   って」

 英「はぁ」

 徳永「書けたかな?」

 英「はい、こことここでいいんですよね?」

 徳永「うん、じゃあ、ここに判子を」

 英「はい」

 徳永「お父さんの判子は?」

 英「持ってきました」

 徳永「じゃあ、それはこっちに」

 英「はい」

 徳永「うん、これで良しと」

  徳永、契約書を封筒に入れる。

 灯「……英君」

 英「ん?」

 灯「お父さんに相談した方がいいんじゃない?」

 英「大丈夫」

 灯「でも」

 徳永「あははは、灯ちゃん、大丈夫だよ。
   一応押しておくだけだから」

 灯「保証人ってことですよね」

 徳永「そうだよ。あれ、もしかして俺のこと疑ってる?」

 灯「そういうわけじゃ…」

 徳永「英君」

 英「はい」

 徳永「やめよう」

   徳永、封筒から契約書を出し、破いて丸める。

 英「え?」

 徳永「この話はなかったことにしよう」

 英「ちょっと、待ってください」

 徳永「信用されてないみたいだから」

 灯「徳永さん、それは違います。
  ただ、ゆっくり考えた方が良いと思って」

 徳永「うん、俺もそう思う。この話がなくても、
   おれは英君と一緒に新しい沖縄を作りたいって
   気持ちは変わらないから」

 英「徳永さん」

 徳永「初めて会った時、英君が熱く語った沖縄の話、
   俺は今でも覚えている。
   英君の目、ガチの目だったなぁ。
   でも今の英くんの目は、どうかな?
   俺さぁ、チャラく見えるかもしれないけど、
   ビジネスは命がけでやってるんだ。じゃあ、また」

   徳永、席を立つ。

 徳永「英くんは沖縄にいるの? それとも東京?」

 英「徳永さん」

 徳永「ん?」

 英「一緒にやらせてください」

 徳永「えっ、よく考えた方が」

 英「僕は東京と沖縄、両方とも自分の居場所を見つけられ
  なかったんです。でも、沖縄に帰りたい気持ちはずっ
  とあって、きっかけを探していたんです」

 徳永「英君」

 英「徳永さんは、俺の話を真剣に聞いてくれました。
  だから、俺も徳永さんを信用します」

 徳永「ありがとう。でも、これはビジネスだからちゃんと
   手順を踏んでやろう。
   灯ちゃんも、納得してもらえるように」

 英「はい」

 灯「すいません、私が余計な事を言ったばっかりに」

 徳永「いいの、じゃあ、明日の朝一に会おうか、
   昼には東京に戻りたいんだ。明日お父さんの家に
   行って、契約書をもう一度書こう」

 英「はい」

 徳永「俺、書類まとめたり、
   電話したりいろいろあるから、ホテル帰るわ」

 英「わかりました」

 徳永「ここは、俺が」

 英「すいません、ごちそうさまです」

 灯「ありがとうございます」

 徳永「いいのいいの、ごゆっくり」

   徳永、席を離れる。

 徳永「すいません、お会計。それと、これ捨てといて」

  徳永、会計を済ませ、
 破いて丸めた契約書を店員に渡して、店を出ていく。

 灯「英君、ごめんなさい」

 英「いいよ、灯が心配するのも当然だよ」

 灯「ちょっと、徳永さん苦手で」

 英「徳永さんは、誤解されやすいタイプなんだよ」

 灯「あのね、英が実家に行っている時に…」

 英「なんか言われたの?」

 灯「ううん、ちょっとした事なんだけど」

 英「なに?」

 灯「徳永さん、舌打ちしたの」

 英「舌打ち?」

 灯「うん、丁度電話している時に頭上に基地の飛行機が
  飛んできて。飛行機を睨みつけて舌打ち」

 英「そう」

 灯「私基地の事よくわかんないけど、その時なんか違う気
  がして。この人本当に沖縄を応援する気あるのかなぁ
  って。特に英君が思う沖縄の気持ちに共感しているか
  疑問に思っちゃって。
  それと保証人とか判子とかは、やっぱり」

 英「おれも、黙って判子を持ってきたことに罪悪感あって」

 灯「契約の仕方はともかく、この仕事うまくいくといいね」

 英「うん。養殖は怪しいビジネスじゃないよ。
  それに、今の沖縄には必要だと思うんだ。
  最近の沖縄周辺の海の漁獲量は不安定らしい。
  養殖は安定した収入になる。基地に頼らず、
  綺麗な海がある沖縄にはピッタリなビジネスなんだ」

 灯「英君」

 英「ん?」

 灯「沖縄の話をしている時、活き活きとしている」

 英「そうかな」

 灯「うん、東京にいた時の英君って、なんか覇気がなかっ
  たというか。一時期、私と付き合って楽しくないの
  かなって思ったこともあった」

 英「そうなの、ごめん、そんな思いさせて」

 灯「いいの、私が勝手に思っていただけだから。それに…」

 英「ん?」

 灯「一緒に沖縄へ行こうって言ってくれて嬉しかった、
  ありがとう」

 英「うん。さぁ、じゃあ、オトーに電話するか」

 灯「とりあえず、今夜中には電話しないと」

 英「びっくりするだろうな」

 灯「ずっと連絡していなかったんでしょう?」

 英「うん、どこから話せばいいか」

 灯「まずはずっと連絡しなかったこと、判子を持ち出した
  ことを謝って、それから仕事の話じゃない?」

 英「そうだね」

 灯「私のことは後回しでいいから。落ち着くまでは、こっ
  ちで今まで通り付き合ってもいいんだから」

 英「え、灯の仕事は?」

 灯「そう、それ!」

 英「どういうこと?」

 灯「沖縄も看護師は人出不足なのよ。特に離島の医療問題
  は深刻だし、ちょっと考えていたんだよね」

 英「そうだったんだ」

 灯「私も沖縄を応援したい気持ちあるんだ」

 英「灯、ありがとう」

 灯「うん、それよりも電話」

 英「そうだった、よし、電話するぞ」

 灯「うん」

  英、匡に電話する。

 英「もしもし、オトー?」

 匡「英か?」(電話)

 英「うん」

  BGM『花』夏川りみ

 ナレーター
「久しぶりに聞く息子の声。久しぶりに聞く父親の声。
 何を思う。沖縄の海に、お互いの言葉と気持ちが
 波のように寄せては引く」

  由幸と純が入ってくる。

 由幸「英ニイニイ」

 英「おっ、久しぶり」

 由幸「うん」

 英「那覇に来てたんだ、さっき電話でオトーから聞いて」

 由幸「うん、用事があって」

 英「灯、幼馴染の由幸」

 灯「はじめまして、二宮灯です」

 由幸「平良由幸です」

 純「こんばんは」

 英「あっ、昼間の」

 純「北川純です」

 英「すいません、親戚とか言って」

 純「いえいえ」

 由幸「近くに車停めてるから、行こうか」

 英「ああ」

 灯「ちょっと待ってもらっていい?」

 英「いいけど、どうしたの?」

 灯「気になることがあって」

 英「何が?」

 灯「さっき破いた契約書」

 英「え?」

  灯、レジの方へ向かう。

 灯「すいません、ごみ箱を見せてもらっていいですか?」

 英「灯?」

 〇 宜野湾市 江里の沖縄料理店 夜

  寛二、那覇市にいる純と電話で話している。

 寛二「なるほどね、養殖の投資の詐欺か」

 純「よくある手だ、破いて捨てたのは偽物の契約書で、
  封筒の中に忍ばせてあったんだろう。
  有印私文書変造罪に、出資法違反、って感じだな」

 寛二「さすが、北川先生」

 純「ふっ、やめろよ」

 寛二「で、目星はついてるのか?」

 純「ホテルはチェックアウトしているみたいだから、
  こっちは空港へ行ってみる。
  寛二は港へ行って欲しいんだ」

 寛二「OK、匡さんにナビしてもらうわ」

 純「よろしく頼む」

 寛二「特徴教えてよ」

 純「ちょっと待って、英君」

 英「もしもし替わりました、えーと、年は三十半ば、
  中肉中背。グレーのスーツ。オールバックで、
  口の横に黒子です」

 寛二「了解!」

  寛二、電話を切る。

 寛二「ってな訳で、行こうか匡さん」

 匡「はい」

 寛二「それで、ちょっと相談があるんだけど、
   匡さんの家で良いもの見つけたんだよね~、ふふふ」

 ナレーター
「寛二が笑う時、それは何かを企んでいる時である」

〇 那覇空港 出発ロビー 夜

 純「どう?」

 英「いないですね、あかり、そっちは」

 灯「いなかった」

 由幸「まだ空港に来てないのかなあ」

 純「いや、今夜中に出発するはず」

 英「じゃあ港かも」

 〇 那覇市 県道 夜

  寛二、匡を乗せて大型バイクで爆走している。

   BGM『白バイ野郎ジョン&パンチ Main Title』
     サウンドトラック

 寛二「ひゃっほーーー」

 匡「わーーー、寛二さん、もっとゆっくりで」

 寛二「え、まだまだ。ふ~、ご機嫌なバイクだね」

 匡「英がいつ帰ってきても良いように、
  整備しておいたんです。ひゃーー」

 寛二「詐欺師ちゃん、待っててね~」

 匡「純さんも乗るんですか?」

 寛二「昔、よく二人で爆走したもんだよ、あははは。
   おぉ、あそこにそれらしい人物発見!」

 〇 那覇市 港 乗り場 夜

  急ブレーキをかけて、純に電話をする。

 寛二「もしもし、お待たせ。
   英君に言って詐欺師に電話してもらって」

 純「わかった」

  離れたところにいる徳永の携帯が鳴る。

 徳永「もしもし、英君? 今、他の人と電話してて、
   あとでかけ直す」

   徳永、電話を切る。

 徳永「ちっ、何度もしつこいなぁ」

 寛二「詐欺師ちゃん~、嘘はいけないよ、嘘は」

  寛二、フルスロットルで徳永へ向かう。

 寛二「待たせたな、小次郎! 宮本武蔵見参! 」

 匡「ひえーーーー」

 徳永「えっ、なんだよ、危ない! 危ない! 
   わーーーーーー」

  遠くから警察のサイレンが聞こえてくる。

 〇 那覇市 警察署 入口 夜

 ナレーター
「知性派の純と行動派の寛二。二人が組めば怖いものは
 ない。二人の活躍で徳永は詐欺の疑いで逮捕された。
 一行が警察署から出て来たのだが、
 寛二が申し訳なさそう顔をしている」

   寛二、純、匡、由幸、英、灯、
  ぞろぞろと自動ドアから出てくる。

 純「まったく、やり過ぎだよ。
  バイクで追い掛け回すなんて」

 寛二「すまない」

 純「匡さんがいなかったら、お前もブタ箱行きだよ」

 匡「まぁまぁ、寛二さんのおかげで、
  英は詐欺に遭わずに済んだことだし」

 由幸「くくく、今度はバイクにまたがった宮本武蔵?」

 寛二「ははは、つい、ハンドルが二刀流に思えて」

  寛二、純、匡、由幸、灯、笑う。

 匡「しかし、純さんの警察での対応は素晴らしかった。
  法律に詳しいんですね」

 純「いやいや、それほどでも。さぁ、帰るぞ」

  純、バイクにまたがり、アクセルを吹かす。

 寛二「おぉ、お前が乗っていくの?」

 純「こんなご機嫌バイク、乗りたいに決まってるだろう、
  いいですよね英君」

 英「はい」

 寛二「じゃあ、付き合ってやるか、
   二台で走りたいところだけど」

 純「まあな。じゃあ、先に江里さんの店に行ってますよ」

 匡「はい」

 寛二「先に泡盛呑んでるね~ははは」

  純、寛二を乗せて走り出す。

 灯「英君?」

 英「なに?」

 灯「寛二さんて、苗字は矢島って言ってたよね?」

 英「うん」

 灯「知ってる人に似てるのよね、でも他人の空似かな」

 匡「灯さん」

 灯「はい」

 匡「今日は、本当にありがとうございました、
  灯さんのおかげです」

 灯「いえいえ」

 匡「こんな息子ですが、
  これからもよろしくお願いいたします」

 英「オトー……」

 灯「こちらこそ、よろしくお願いします」

 英「オトー、俺、勝手に」

 匡「英…けーたんなー」

 英「オトー」(涙ぐむ)

 匡「父親らしく、馬鹿やろうって殴ったほうがいいかもし
  れないけど、わーには出来ない。誰かが言ってたさ
 『グーで殴ったら痛い、パーもまあまあ痛し、チョキは
  もってのほか』って」

 由幸「あはは、宮本武蔵だ」

 匡「江里に優しすぎるって言われたけど、わーにはやっぱ
  り出来ない。家族が帰ってきたらグーじゃないさ。
  『けーたんなー』って言うさ」(涙ぐむ)

 由幸「英ニイニイ、けーたんなー」(涙ぐむ)

 英「由幸……。
  灯、沖縄の言葉で『けーたんなー』って言うのは」

 灯「わかるよ、英君良かったね、
  やっぱり自分の居場所はここだったんだね」

 英「ああ」(涙を堪える)

 〇 那覇市 県道 夜

  純、寛二を乗せてバイクを走らせている。

 寛二「純」

 純「ん?」

 寛二「匡さんの家にバイクをおいたら、出発するか」

 純「私もそう思っていた。家族水入らずがいいだろう」

 寛二「ああ。でも、江里さんのところで、
   泡盛呑みたかったなあ」

 純「そうだな。あのお店は居心地がいい。
  店の名前『けーたんなー』と同じで『おかえり』って
  言ってもらっているようだ」

 寛二「英くんは自分の居場所に帰って来た、
   自分の居場所に」

 純「彼の旅は終わったんだ」

 寛二「俺たちの旅もいつか終わる」

 純「答えが見つかればな」

 寛二「答えねぇ……さぁ、次はどこの酒を飲もうか」

 純「おい、次の行き先を酒で決めるのか?」

 寛二「好きなんだから、仕方がないだろう」

 純「私も好きだから異存はない」

 寛二「素直じゃあねえな、まったく」

 純「お前が単純すぎるんだよ」

 寛二・純「あははは」

   BGM ハイウェイ』くるり

 ナレーター
「寛二と純の旅はまだまだ続きそうである。しかしながら
 この二人はなぜ旅をしているのか気になるところ。
 特にお互い『先生』という言葉を口にしていたが、
 関係があるのか? まぁ、長い旅になりそうなので、
 その話は追々。
 さてこれから先はどんなドラマが二人を待ち受けている
 やら。もしかしたら、次はあなたの町に。
 もし二人を見かけたら、どうぞお付き合いを。
 なにか楽しい事があるかもしれませんよ」

寛二N「わが旅は」
純N「ひとつの空の下」
寛二N「今日は東から西へ」
純N「明日は北から南へ」
寛二N「行き行きて、道がある限り」
純N「行き行きて、人がいる限り」
寛二・純N「空に記(しる)す、わが息吹」

                        (続く)

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