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びっくりのインド ● 41 ● ヨガ道場へ行く - Part 3

今更だけれど、同僚たちはその ヨガ道場 がどんなところか知っていたのだと思う。
Aさんが 「ヨガ道場へ行きませんか?」 と言ったとき、皆の顔が一瞬だが微かに 「あっ!」 となったのを私は視界の片隅で見た。
もし私が答えに迷ったら、彼らはきっと 「惠白さん、ゴアに行くのをずっと前から楽しみにしてたじゃないですか。行くべきですよ」 と言ってくれたかもしれない。
だが私が間髪いれず 「ヨガ道場、行きます!」 と言ったものだから、恐らく何も言えなかったのだ。

宿泊施設を見た後の私はすっかりやる気をなくして、Aさんのうしろをトボトボ歩いてインフォメーションセンターへ戻った。
途中、さっき見たゾウの左後ろ足に鎖が巻かれ、さらにそれが木につながれて動けないのも見てしまった。

私が疲れた顔をしていたのか、Aさんは 「ここでドリンクを飲みましょう」 と言って、楽園のカフェテラスで休んだ。
そのときAさんの携帯電話が鳴り、話しにくそうな感じで建物の裏へと消えたから、私はすっと後をつけて会話を盗み聞きした。

「ええ、はい、もう少しで説得できそうです」

説得 … って …

私は素早くテーブルに戻った。

暫くするとAさんも戻ってきて、暫く他愛のない話しをした後、「宿泊は?」 と訊くので、「今夜は帰国の荷造りをしたほうがいいかも」 と言って断った。
彼はただ 「OK」 と言って、その後はヨガ道場の話しをせず、またバスに乗ってバンガロールに戻った。

バスを降りるとAさんは 「食事に行きましょう」 と誘ってきた。
私は自分の住んでいる街に戻ってきて安心したこともあり、Aさんとは今後会うこともないだろうから、「いいですよ」 と返事をした。

Aさんが連れていってくれたのは、ミシュランの三ツ星級のレストランだった。
まるでオリエントエクスプレスの中にいるような造りで (あるいは引退したオリエントエクスプレスをそのままレストランにしたのかもしれない)、私がインド滞在中に経験した一番豪華で上品な食事だった。
テーブルについて間もなく、Aさんはいつの間に連絡したのか、30 歳くらいの日本人男性が登場して一緒に食事をした。
ここでも道場の話しは出ず、インドのことや日本のこと、自分たちのことを差し障りなく話して、べらぼうに高そうな食事代はすべてAさんが払い、「また会いましょう」 と言って別れた。

いま、この時のことを振り返って、「ゴアに行くべきだったか?」 を考えると、ヨガ道場に行ってよかったと思う。

インドの人たちに混ざって列に並び、ドキドキしながらバスに乗り、を経験できた。
1日のうちにあれほど何度も喜んだり落胆したりしたから、それがすべて記憶に刻まれて、こうやって鮮明に色々なことを思い出せる。
ゴアに行っていたら、画像で見たとおりの夕日をプールから眺めて、期待どおりにゆっくりして、それはいまの年齢なら間違いなく自分の欲することだろうが、あの時の年齢の私には 「ヨガ道場へ行った」 くらい刺激的な事件の方がずっと良かったと自信を持って言えるからだ。

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