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びっくりのインド ● 26 ● オートリキシャ

海外で ぼられた という話しはよく聞く。

実際、これまでに行った北米とアジアの国々で、嫌な思い (ぼられる、見下される、差別される、金を取られる、など) を一度もしたことがないのは 台湾 だけだ。

インドは...というと、差別されたり、見下されたりしたことは一度もないが、オートリキシャで 2 度 トラブルがあった。

バンガロールでは、オートリキシャなくして街から出るのは無理だ。
初出勤した日に、オートリキシャの使いこなし方を同僚がレクチャーしてくれた。

彼が何度も念を押した 一番大切なこと は

メーターで走ってもらうこと

である。なぜなら ぼられる からだ。

彼曰はく、オートリキシャの料金には

1. 距離に応じてメーターの値段が上がっていく
2. 最初に値段交渉する

の 2 通りがあって、値段交渉すると、特に外人はボラれるそうだ。

よって、乗る前に必ず

「メーターで走ってくれるか?」 と確認する

ことを忘れないように、と教えられた。

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住宅地に住んでいても大きな通りに出るとオートリキシャは常に何台も走っているから、もしメーターで走ることを拒否されたら、「じゃ、いい」 と断って、次のに乗る。
断るとたまに 「じゃあ、メーターで走る」 と言う運転手もいたが、「いや、もういい」 と言って断った。
言うことがコロコロ変わるやつは、別の方法で ぼる に決まっている。

私がオートリキシャを使うのは、たいてい土曜日だった。
外人がよく行くモール ( The Forum Mall ) に行くためである。
毎日カレーだと、さすがに 1 か月を過ぎたあたりから飽きてきて、週に 1 度、他のアジア料理を食べたり、いつも行く市場では買えないものを探したりした。

或る日の夕方、モールから帰るときにオートリキャに乗り、暫くすると今まで見たことのないところを走っていた。
どう考えても自宅の方角ではない。
運転手に注意して 「あっちに向かえ」 と言うと、「渋滞してる」 とか何とか言っている。
モールには何度も行ったことがあり、そもそも、その時間帯に渋滞してないルートなんてない。
再度 「間違った方向に向かってる。わざとだろ!」 と言うと、運転手が怒り始めてケンカになり、途中で降ろされてしまった。
そこで 「はっ!」 と気付いた。
そこは見たことのない、かなりの貧困なエリアだった。
外は暗くなり始めている。

しまった!
人が群がってきたら…
お金を取られたら…
いや、身ぐるみ剥がされるかも…

でも、ここでオロオロしてはいけない。
何かの用事があってそこにいるような、何度か足を運んで慣れていそうな雰囲気を出して、心臓はドキドキだが、オートリキシャが走っていそうな通りを探しつつ、胸を張って歩いた。
幸い 5 分もしないうちにオートリキシャをつかまえることができて、乗り込んだ時の安堵感は忘れない。

いま考えると、
そのエリアの人は私に
何の興味もなさそうだったようにも思える。
実際、インド滞在中に
驚くほど貧困なエリアに足を踏み入れてしまったことが
2 〜 3 度あるけれど、何も起こらなかった。

また、一度だけモールのオートリキシャ乗り場を利用したことがある。
その乗り場には配車係が 2 〜 3 人いて、行き先を告げると、そのうちの 1 人が運転手と値段の交渉をして、客に 「◯◯ ルピー、OK?」 と訊いてくれる。
私の場合は、メーターで走る時と同じくらいの料金だったので 「OK!」 と答えたら、値段を書いた紙を渡してくれた。

これは、なかなかよくできたシステムだ!

と感心してオートリキシャに乗ったのに、着いたときに運転手が要求してきた料金が、紙に書かれている料金より 3 ~ 4 割りくらい高い。
これにはカチンと来た。

※ ここからは臨場感を出すため神戸弁で。
(神戸生まれだけれど、諸々の理由で関西弁は完璧ではない。間違えるかも...)

【私】 は? なに言うとん? 値段ちゃうやん。
【運転手】 渋滞してていつもより時間がかかって...
【私】 かかってへんわ、いつもこの時間や!
【運転手】 距離も遠かった
【私】 嘘こくな、いつも走っとうストリートやったわ、アホ!
【私】 これ見てみ! (値段が書かれた紙を見せる。)
【運転手】 だから、これは通常の値段で、この時間でこの渋滞だと...
【私】でも、この値段で走る言うたやろ!
【運ちゃん】お前はよく分かってない!
【私】分かっとうわ!あそこには何千回も行っとうわ、アホ!
【運ちゃん】何を言ってんだ!
【私】それはこっちのセリフや、ボケ!

あっ、しまった!

私と運転手が大声でわめいてたから何事かと思ったらしく、どこから来たのか 7 ~ 8 人の男が集まってきている。

取り囲まれて殴られるかも...
金を取られて...
身ぐるみ剥がされて...

身の安全には代えられない。

「ほんなら払たるわ!」 と投げるように金をぽいっと運転手に渡してオートリキシャを降りてスタスタと歩いた。
運転手も怒り狂ってブォーンとエンジン音を立てて去っていった。

この件についても、
集まってきた男たちは
ひょっとすると私を
助けようとしていたのかもしれない。
しかし、こういうとき
自分ひとりが違う民族というのは非常に怖い。
ドーベルマンが何頭もいる檻の中に
パグが1匹入れられた感じと言えば伝わるだろうか。

実はこのときに運転手が要求してきた値段は、わたしがいつもメーターで走ってもらったときに払う金額である。
「お!」 と思うような裏道を運転手が知っていて、ものすごく早く着いたときは、かなりのチップ (80円くらい) を払うときすらある。
けれど、この ぼったくり運転手 の姑息なやり方は許せなかった。
こうなったら料金の問題ではない。
怒ったときに体内に放出されるアドレナリンとは恐ろしいもので、運転手との戦いというより、これまでにこの運転手に ぼられた全ての人たちのために、いや、バンガロールにいるすべての外人のために 戦うくらいの勢いになり、一度も使ったことのない 「こんな汚い言葉、いつ覚えた?」 というような英単語がポンポン口から飛び出すし、自分でも感心するくらい英語がやたら上手かった。
戦いには負けたけど。

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そして番外編。

いつものようにモールからオートリキシャで帰る途中、普段とはちょっと違うルートに入って、周りに家や建物がなく、人通りのない道で、運転手が突然、車から降りた。

あっ、殴られる (← いつものパターン)
お金取られる (← これも)
身ぐるみ剥がされる (← これも)

と身構えたら、何も言わず、草むらの中へ消えた。
そして数分後、何事もなかったように戻ってきて、普通に車を走らせた。

「え! いまの何だったの?」

と考えていて 「あ!」 と気付いた。

彼は おしっこ に... それにしては長かった... から   だったかも。
インドはお尻を手で拭くんだよね...

これ以来、わたしはオートリキシャの運転手にとって非常に気前の良い客となった。
お尻を拭いたかもしれない手でおつりをもらうのは、やはり衛生面で気になる。
ちょっとチップが多すぎるかな、と思っても。


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