性的同意年齢引き上げを議論する人々が誤解しているか、あえて語っていないこと
最近はネット上でも性犯罪にかかわる刑法改正についての認知が高まってきて、賛否両論出てきています。特に性的同意年齢(性交同意年齢)の引き上げに関しては、フェミニズム・反フェミニズム間で軋轢が生まれている状況のようです(実際には後述するように「フェミ=基本的に賛成、反フェミ=基本的に反対」という構図でもないのですが)。ただ、賛成派反対派双方とも、ちゃんとした論点が提示されているようには感じられません。そこであまり話題になっていない論点について今回は取り上げていきたいと思います。
①刑法での性的同意年齢が引き上げられても、事実上の性的同意年齢はおそらく変わらない
まず、これは議論をするうえで大前提の話です。性的同意年齢引き上げに反対する勢力は、よく賛成する側から「どうせ子供たちとセックスしたいだけ」などとレッテルを張られますが、強制性交等罪以外の法的規定によって18歳以上と未満の間の性行為が罰せられることに変わりはありません(引き上げとは別に新設される予定の地位関係利用性交等罪でも対応可能です)。刑法で引き上げるにしても高々18歳を超えることは難しいでしょうし、(主に反フェミ政治家の力によって)婚姻に準じた関係にない間での性行為がすべて罰せられたとしても、民法の規定で婚姻可能年齢は18歳と定められていることによって、やはり事実上の同意年齢は18歳ということになってしまいます。
②性的同意年齢に満たない年齢同士の行為を罰するかについては、法務省の検討会でかなり議論されている
性的同意年齢引き上げに反対する勢力(基本的にPUAの流れを汲む反フェミニズムが多いですがフェミニズムにも少なからずいます)が反対している理由として多いのが、「性的同意年齢に満たない人々の性的自由との対立」です。
(こいつどう頭打ったのか、インセルを利さないような主張をしだしたよ…)
性交同意年齢引き上げ論には、男の性欲と若い女の性的活動に対する敵意が隠れているように見える。既に若くない女は、大人の男と若い女の性欲が結びつくことが許し難いのではないだろうか(年齢層が高い女のアキレス腱?)。加えて、フェミニズムが「女が"責任を取れる/取らされる大人"になることを拒否する思想」であることも関係しているように思われる。
ここで述べられている若者の性的活動への敵意は「既に若くないフェミニスト」もさることながら、(PUAの流れを汲んでいない)インセルにこそあるようにも私には思えます。中高生のうちからセックスに目覚めさせるようなことを禁止してしまえば、自由恋愛に走って非モテに目を向けないような女を極力減らすことができるでしょう。そうなれば、女たちももう少しは(現在の価値観における)非モテに目を向けるのではないか、というわけです。
とはいえ、彼ら彼女らの思うとおりになるかといえば、私はそうも思いません。詳しいことは次回述べますが、性的同意年齢に満たない人々の性的自由との兼ね合いは、法務省の検討会においても大きく議論が紛糾しているようです。さらに国会に諮られることになれば、ジェンダー保守主義に凝り固まっている反フェミニズム政治家(インセルに準じて性的自由を否定する側に立つでしょう)とも論戦が交わされることになります。
(らめーん氏の記事で思いっきり語られてるじゃねーか!と思った方すみません。ここまで書いた時点では未読でした。)
③そもそもこの刑法性犯罪改正は、ミサンドリーフェミニズムのための改正ではない
この改正論議に、ラディカルフェミニズム団体からの強い圧力が関わっているのは語るまでもない事実なのですが、それだけのために改正が叫ばれているわけではありません。
これは改正論議の途上で提出された提言の一つですが、読んでみてください(リンク先はPDFファイルなので非対応の方はごめんなさい)。
調査によると、男性が初めて自慰や射精をする年齢は 11 歳~14 歳がピークであるが、小学校高学年~中学生というのは、そのように自身の性に出会い、戸惑いながら探索を始める年代でもある。そのような時期に、たとえば部活の先輩-後輩の関係性の中で性器を触る・触らせるということや、性器を舐める・舐められる、自慰行為をさせられるなどの性的な関わり(いじめの一部であることも多い)が存在する。特にこのような行為が初めてであった場合、された側はその行為が何であるのか定義できず、大きな混乱を抱えることとなる。また、先輩-後輩という立場がある中で行われると、表立って抵抗できなかったり、逃げられなかったりして、自尊心の大きな傷つきを負うことが考えられる。
自身の中で、上記の行為の意味がつかめず混乱の中にいると、苦しい思いをしていても誰かに相談することができない。自身の受けた行為を「被害」と捉えることすら難しい。そうすると、自尊心の大きな傷つきや混乱、怒りなどを一人で抱えたままその後の人生を歩むことになり、精神的なダメージも大きい。 このことから、男性の性暴力被害の現状から鑑みても、性的同意年齢の引き上げを提案する。この刑法改正の議論が広く社会に周知され、義務教育内で十分な性教育が行われることを強く望むとともに、その前提がかなえられるならば、これまでの国内での議論を踏まえて、せめて義務教育終了後とすることが妥当ではないかと考える。
女児に対する性的虐待も、もちろんそのことがその後の人生に与える影響は甚大であるが、男児に対する性的虐待も、重大な影響を及ぼす。男児の性虐待被害者は、女児以上に自分の被害体験を相談できずにいて、相談できないなかで、(加害者が男性の場合)自分は同性愛者になったのではないか、というセクシュアリティの混乱が生じたり、他の様々な症状や行動を引き起こす。
加害者が女性の場合、男児が受けた被害を「被害」と受け止めることは一層難しく、被害者は自分の本当の感情を否認し抑圧しなければいけない。
子どもにおいても、男児への性的虐待は女児への性的虐待よりも認知度が低いが、上記のような複雑かつ多岐にわたる影響を長期にわたって及ぼす。男児への性的虐待の実態を鑑みても、子どもに対する犯罪に対して加重処罰を設定することは、相当なことであり、また、虐待の予防にもなり得る。「子どもへの性的虐待を許さない」という国家としてのメッセージを伝えることにもなると考える。
忘れてはならないのは、この提案はフェミニズム側の思想によるものではなく、マスキュリズム側の思想によるものだということです。後述の理由から私はこの提案に完全に賛同できるわけではないのですが、私も「性被害を受けた」のは中学生の時だったので、その必要性がマスキュリズムの側から訴えられることはとても理解できます。
またマスキュリズム側から提案されたことによって、この改正は(一部のミサンドリーフェミニストが狙っているように)男の性欲を取り締まるための第一歩にすらならないでしょう。むしろ成人女性が男児に向けるような性欲が取り締まられてもおかしくないわけです(フェミニスト活動家にはそういう輩もかなり多いらしいです)。
さらにこの改正自体、前項に書いたように、インセルにこそ利益をもたらすものになるかもしれません。特に(本来の意味での)インセルが、援交やパパ活について否定的であるというのは重要な指摘です。
以上、長々と語ったが最後に1つ付け加えておくと、インセルは性風俗産業には反対の立場である。理由としては、主に3つあり
・セックスだけ買えてもロマンチックな関係とは言えず、また金銭でそれを得なければならないこと自体が苦痛である
・また仮にロマンチックな関係が買えたとしてもインセルには低所得者が多い為、それを定期的に買うのは不可能である
・性風俗産業は脱税や公衆衛生の乱れが横行しており、明確な社会悪である
よって日本のインターネットで言われがちな「性風俗で乱暴な言動をする男性」は間違いである。そもそもインセルは性風俗産業を利用しない。(但し性風俗産業に肯定的なインセルもいて日夜その是非について議論されている。しかしながら、インセルは売春婦を税務局に通報する#thotaudit運動などを行っており、その過半数は反対派だと思われる)
ただインセルの利益にするためには、この改正の主導権を「反フェミニズム政治家」が握ることが前提条件になります。このことについて詳しくは次回述べます。
④本当にこの改正を懸念すべき勢力が、ほとんど懸念の声を出していない
私も中学生の時、同級生の女子から性的ないじめを受けていたので、この改正は全く他人事ではないです。本来なら中高生の間でのすべての性行為を罰することに賛成してもいいと思う立場なのですが、実際には私も「性的同意年齢の引き上げにはやや反対」の立場になります。これは法改正と連動して、性表現の規制に明らかにつながることになるからです。
ただ、「少年少女型ラブドール規制運動」を見てきた人たち、表現の自由に関する懸念を持っている人たちにとっては、少し気になるような提案もなされているのは事実です。
この提案が実現するように法改正がなされたからと言って、すぐに表現規制に関わるところで動きがある、ということはあまり考えられないでしょう。しかし、前回から指摘しているように、少なくともマスキュリズムを主導している久米氏はこの提案をさらに表現規制の問題につなげようとしているのは間違いありません。
ここでいう「動き」とは「新しい動き」という意味であり、例えば東京都の青少年条例などによる規制は(多くの企業が東京都に本社や営業事務所を置いているわけですから全国に影響があると考えてもいいでしょう)、単に「刑罰法規」「犯罪」としか記していないことから、現行法を変えずに規制が強化されることは十分に考え得ます。
第七条
図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
第七条の二
がん具類の製造又は販売を業とする者は、がん具類の構造又は機能が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該がん具類を青少年に販売し、又は頒布しないように努めなければならない。
第八条
知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
第九条
図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者(以下「図書類販売業者等」という。)は、前条第一項第一号又は第二号の規定により知事が指定した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない。
特に性的同意年齢に満たない年齢同士の行為を罰する方向になれば、中高生の恋愛とか性のリアルとかを描いたメディアは壊滅状態になるでしょう。ここまでを踏まえるなら、表現の自由界隈がアップを始めてもおかしくないはずなのですが、そのオピニオンリーダーであるはずの青識亜論氏はこの改正について全くコメントしていないようです。イデオロギーが違えども、大丈夫かお前ら・・・とは思ってしまいます。
最近の彼は、どうやら女子高校生が描いた萌え絵調のイラストにフェミニズムが噛みついているところを必死に擁護しているようですが、まあオピニオンリーダーとしての面子があるにしても、前線のことに躍起になりすぎている感じがあります。その後方で蠢いているものに、気付くのはいつになるのでしょうか…