「溢れた言葉を紡いで」 短い小説、のようなものを投稿します

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きたい

「明けない夜はない」 と、誰かが言っていたらしい。 でもそんな分かりきってる事を確かめたいわけじゃないんだ。 手のひらに落ちた花びらがいつ溶けるのか、とか 流れてきた葉っぱはいつ鳩になるのか、とか そういうことが知りたいんだ。 君はどんなこたえをくれるのかな。 コーヒーカップに青いチョークを入れて待っていることにしよう。

    • 正義のヒーロー

      僕の未来は決まってる。 「生きるの下手だね。」ってたくさんの人から言われる未来。 頭はよくないし、勉強もできない。 「自分の言葉や行動に責任を持ちなさい。」って、よく言われる。 考えて行動しても、考えて言葉にしても、いつも間違ってるって言われる。 だから僕はたくさん考えて、周りの人の気持ちも言葉も、行動も、全部たくさん考えた。 いじわるされても、優しくいれば大丈夫だと思った。 悪いことをしているのを見ても、ダメだよ、なんて言わなくてもみんな知ってる。 僕は正義のヒーロ

      • 待つ喜び

        いつも郵便屋さんの音がすると、つい構えてしまう。 はやくポストへ行けるように近くで待機してしまう。 あ、今日素通りだ。今日も。 そんなことを繰り返して、今日も来ないんだろうな、 なんて門扉を開いて座って待っている。 家に停まった! 「はいこれ、お願いします。」 「あ、ありがとうございます。」 嬉しくなって受け取った。 でも支払明細書...。今日も違った。 手紙をくれるよ、なんて...誰にも言われてないのに。 なんでか、いつか自分宛の手紙が届く気がして。 きっ

        • もっと近くに

          面白い話を聞いた。 友人が仕事終わりに立ち寄り、ベンチで一休みしていた時のこと。 すぐ近くに親子がいた。母親と女の子。 女の子の名前を、その母親は「かよ」と呼んでいた。 「かよ」という名前になんとなく既視感があり気になったそうだ。 友人が聞いた親子の会話はこうだった。 かよ「ねぇおかあさん、しんじゃったらおほしさまになるんでしょ?かよちゃん、やだなぁ...」 母親「どうして?キラキラしていてかよちゃんみたいだよ?」 かよ「だってね、おほしさまって、すごーくすごぉーーく!

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        きたい

          僕が居なくなったなら

          僕たちのお家は硬い鎧のような壁や土、砂利でできている。 「あぁ…また大雨だ。これはだいぶ降るなぁ。降る前に急いで扉周りや窓周りを塞がなきゃ!」 せっせと土を盛ったり、扉と反対に板を作ってみたり大忙しだ。 なんでこんなことをしているか? それは、僕らが小さいってこと! 小さいっていうのは、君たち人よりも小さいって意味だよ。 中では仲間たちが湿気や寒さを防ぐためにあたふたしている。 僕たちはそれぞれ役割分担をしていて、僕は外側をかためる作業役。 でもいつも思うんだ。 僕が

          僕が居なくなったなら

          ひととき

          日向ぼっこをしている時の話だ。 缶コーヒーを片手に、一人ボーっとしていた。 すると、「資源を抜かないでね」の声。 辺りを見回しても誰もいない。 「急に声をかけてしまって失礼しました。僕はここに住んでいるものです。」 ようやく見つけたのは、アスファルトの割れ目辺りから2cmほどの小人だった。 今度はもっと真剣な様子で、 「資源抜かないでくださいね。」 と言われた。 「抜かない、日向ぼっこしてるだけだし。」 「そうでしたか、僕たちはたびたび、そちらの山の方へ行くのです。

          ひととき

          主人公

          ねえ、私を見つけて そしたら嬉しくなるよ ねえ、私を見つけて そしたら勇気が湧くよ ねえ、私を見つけて そしたら元気になるよ 君のお願いばかりが前に立って 僕のことは置き去りだ 勇気も元気も幸せも 全部の主語は「私」なんだ 君の思い描くものに何が見えてる? いつだって君はお姫様だ いつだって君は 僕の声を聞いてくれたかい? 僕を見てくれたかい? 君が見ていたのは 君が聞いていたのは 僕を透かし映した君だろう? 僕は君のお願いには応えない そう、応えられない

          主人公

          朝から夜まで

          いつも見ているチーズケーキは いつも知らない間にいちじくのケーキに変わる いちじくのケーキに変わると、次はレモンケーキ レモンケーキはいつも気まぐれで1/10の大きさだったりする 分けたくても分けられないのがレモンケーキだ でも丸くてフワフワなレモンケーキの時はなぜだか分ける気にはなれなかったりする 飲み物だって迷ったりする 飲み合わせるための片っぽだ ベリーを使った紅茶にするか、それとも甘い香のするコーヒーにしようか たくさんの種類からいつも悩む 悩んでいると、知ら

          朝から夜まで

          とき

          雨が降ってきた。 佇んだままのわたしは ただ降ってきた雨を受け入れるだけ 澄んだ空気が雨を受けて一段と凛とする 雨の勢いで少し腕が揺れる 心地のいい瞬間 カタカタ パタパタ ポツポツ 色々な音が混ざり合う瞬間 長いようで短い 冷たい 寒い そんな感覚などはない ただ佇んだままのわたしは 心地のいい瞬間

          似た者

          あいつは昔から口が悪かった。 「あー?お前には無理だろ。」 「俺だから出来るんだよ。」 「俺より辛い思いしたヤツなんていないね。」 ずっとずっと口が悪かった。 僕が辛いと思っていたところで、 「お前の悩みなんざ、ちっぽけだね。」って。 何かにつけて憎まれ口をたたいていた。 でも実際は… 僕が死にたいと言えば、 「今はちがう。本当に死にたくなったら俺に言え。殺しに行く。」 と返したり。 僕が入院した時には、 「俺はお前のことで泣きたくなんかねえ。」と言

          似た者

          決意

          気付いたら、隣で泣いていた。 「ただ想っているだけなのに。」 そうつぶやいた彼女は、苦しそうだった。 私は訳の分からぬまま、彼女と離れた。 その日最後に見た彼女は、苦しそうな顔で力なく手を振りながら離れていく姿だった。 真っ白な無機質な部屋で、出ることを許されず、 私ができることは”なぜ”をくり返す他できなかった。 わずかな額のカードを渡され、彼女の声を聞くことができた。 弱々しく話す彼女に、私は涙が止まらなかった。 拭ってもぬぐっても流れ出てくる涙を止められな

          決意

          柵の向こう側

          木々が揺れていると寂しくなるのです。 ただ 揺れているだけです。 決して 思い出深い何かがある訳でもありません。 けれど、寂しくなるのです。 右へ左へ 揺れる木々を、見つめているだけ。 小さく揺れても、大きく揺れても、寂しい心は変わりません。 静かに立っていて欲しい訳でもありません。 揺れて欲しくない。 けれど揺れて欲しい。 でも、そのままで…。 そのままって何でしょう。 でも、そのままなのです。 近寄りたい、触れたい そんな事など露ほども思っていません。

          柵の向こう側

          きょうも いっしょ

          たいようは はやおき 「おはよう。きょうはすこし さむいかもなぁ」と、たいよう みんなは まだ ねむっているひとばかり そのあいだ たいようは ことりやくもと おはなしします いつでも たいようはさみしくありません すこしじかんがたつと ぽつぽつと おきたひとたちがでてきます ゆっくり みんなのようすをみまもりながら うえへ うえへと のぼります きょうは くもがおしごとをするひでした あめです きやはなに げんきをあげるひでした たいようは じゃまになら

          きょうも いっしょ

          ユメ

          涙が止まらなかった。 久々の休日。決して休みがない訳ではなかった。 ただ慌ただしく、ただただ目まぐるしく流れていく時間の中で、 後回しにすればする程面倒になるだろうと思って、 やらなければならない事の他に予定を詰め込んでいた。 でも今日は何もしない日。予定は立てない。 「今日は予定ないって言ってたから、元気かと思って」 と、朝から友人と通話した。 「いや、まぁ、はは…。そっちはやっぱり忙しいの?」 何のことはない話をしている最中、友人が電話先で寝てしまった。 ...

          ユメ

          輝きを手に

          月が綺麗だ、と呟いた彼女を見たのはこれで5回目だ。 どれだけのじかんを すごしてきたのか わからない ただみつけたときには めがはなせなくなっていた 大きな月と 下に見える煌びやかな風景とを 繰り返し眺めた 決して交わることのない空間 そんな空間を混ぜたくて ひたすら空想していた そのそんざいは わたしのほうをみては まっすぐにまえをみすえてをくりかえした わたしがえいきょうをあたえることは ない ただ わたしはほんのすこしのじかんをみているだけ ”実は大きな筆を持っ

          輝きを手に

          hope

          誕生日おめでとう。 相変わらず君は人懐こいままだね。 僕の顔を見て駆け寄ってきてくれた。 でも、依然と少し違うところがあった。 それは僕と彼との差だ。 君は当初僕しか見てなかった。 僕しか居ないみたいに、離れたがらなかった。 そんな君が可愛かった。 ある日僕は、ちょっとしたキッカケで君から離れなければならなかった。 それでも、君の元へ寄れば喜んでくれた。 だけど、月日が経つにつれて、 僕が君から離れなければならない時間が多くなった。 君はきっと分からなかったんだよね。