見出し画像

100人を超えたロケットベンチャーの人事制度改定の記録

インターステラテクノロジズ(以下IST)は直近1~2年で急速にメンバーが増え、組織規模も100人を超えるほどに拡大。一方で人事専任者が不在であったため、代表・管理部長・人事労務担当が掛け持ちで担当していた状況。人事制度に関するいくつもの課題は共通認識としてありましたが、都度制度内容を修正し、抜本的な改善には手を付けられなかったという状況でした。

人事制度の改善は、事業成長を加速させるための重要な要素となるものであると私は考えております。本記事は私が2022年7月にISTに入社してから、人事制度改定の記録を綴ったたもので、人事制度の改善・改変を検討している方の参考になれば幸いです。

大事なマイルストーン設計

まず最初に手を付けたのは、マイルストーンの設計。制度改定は多面的な検討が必要で、且つ社内のステークホルダーにも正しく情報を共有しながら進める必要があります。そのため、いつまでに何をするのか、おおよそのスケジュールを設定しました。

【おおよそ半年単位のプロジェクト】
1.人事制度の改善に向けたアンケート調査(1~2week)
2.今後の組織体制、人事制度改定の目的、制度のポリシーの認識合わせ(4week)
3.課題抽出と課題解決の優先順位付け(4week)
4.課題検討→壁打ちの繰り返し(8week)
5.ステークホルダーへのヒアリング(4week)
6.全社発信、オープンドアの実施(2week)

※人事制度改定ってそんなに時間がかかるの?と思われがちですが、社内のステークホルダーが多いほど時間がかかるものです。



Step1.人事制度の改善に向けたアンケート調査

人事評価について社員からの意見を取り入れるため、全社単位で人事制度に関するアンケート調査を実施。ISTでは①上司との面談、②360°評価の2つの材料を元に人事評価を行っており、各評価方法に関する満足度や改善点、その他制度に対する意見を回収しました。


Step2.今後の組織体制、人事制度改定の目的、制度のポリシーの認識合わせ

以前は代表が被評価者と1on1を通して評価決定をしていました。2022年には評価対象が70人程度と一人で対応できる限界値を超えており、評価者として新たにグループリーダー(以下GL)やゼネラルマネージャー(以下GM)にも加わってもらう変更を行いました。

今回の改定プロジェクトには評価者として加わったGMにも参画してもらい、GLには都度ヒアリングしながら制度を固めていきました。代表とGMと個別具体の話に入る前に、まず前提条件の認識がズレないように以下の点を確認しました。

①ISTの事業戦略と組織体制

人事制度改定は事業成長を加速させるための手段です。今後の事業戦略/組織体制/人事制度がすべて連動させなければ意味がありません。改めてにはなりましたが、中計をベースに以下の点を確認していきました。

  1. 事業戦略を実現するための「組織体制」

  2. 「組織体制」を実現するための人材育成の必要性

②なぜ今、人事制度を改変するのか

事業成長を実現させるために、まず大切なのは社内の人材が成長していくことであり、人材育成を加速させるために人事評価を進化させなければならないことは全員の共通認識として合わせました。

加えて、ベンチャーとはいえ人事制度があることを表立って公表できることで、応募者の方にも安心感を与え、会社のカルチャーを伝える絶好の武器になることも認識を一致させました。

当たり前かと思うかもしれませんが、認識がズレないように言語化するはとても大事

③人事制度検討時のポリシーは?

制度設計をよりスムーズに進められるように、抑えておきたい設計思想も事前に確認。

Step3.課題抽出と課題解決の優先順位付け

Step1で回収したアンケートにはあらゆる視点からの意見があり、読み込むだけでも非常に時間を要しました。回答内容の要点を読み解くと4つのカテゴリに分けることができました。

Step4.課題検討→壁打ちの繰り返し

ここからは具体的な課題検討のフェーズ。課題に対しての対策案を事前に検討し、検討会で何度も壁打ちを繰り返す日々。細かい改定内容も含めると記事のボリュームが多くなってしまうので、今回の改定でメイントピックとなった「評価軸」と「等級制度」の2つに絞って話します。

【評価軸の改定】

これまでは11個の評価軸を元に、行動面の評価や360°評価を実施していましたが、評価軸の大幅な見直しを実施。

厚生労働省が掲載している「職務評価試行ツール」などを参考に作成したもの。

①プロジェクトメンバーとの人事ポリシーのすり合わせ

最初から評価軸に関するワードを出していくことも考えました。しかし、まずは人事に関する土台となる考え方の認識を合わせた上で、具体的なワードに落としていく方が納得感があると考え、プロジェクトメンバーにそれぞれ以下のアンケートを回答してもらいました。

制度設計する上でニュアンスのズレや認識相違が発生しないように
評価軸を協議前に、評価や人事に関する方針の認識合わせを実施。

アンケート結果を見ると、プロジェクトメンバーの認識は見事に一致(ちょっと安心)。言葉のニュアンスの読み取り方で認識がズレる場面が多少ありましたので、認識一致のために何度も協議を重ねました。今考えれば、ちょっとした認識の相違が大きなズレを発生させる可能性をはらんでいるので、このすり合わせに時間をかけたことで、個別具体の課題検討がスムーズに進められたと思っています。

②評価軸のブレスト

今度は具体的なワードを付箋にいくつも書き出してもらいブレストを実施。ワードを書き出すときには「ZEROを打上げるために必要な人材で、且つ打上げを成功させるために評価すべき項目」であることに留意して書いてもらいました。

ブレストで出たワードたち

候補となるワードはたくさん出ましたが、カテゴライズしていくと、結果的にはこれまで運用していた評価軸の内容に近いものが殆どに。制度検討時のポリシーにもある「Simple is best」に沿うように、評価軸は以下の4つに精査(以前働いていた会社でも7個の評価軸で運用しておりましたが、結局全員が覚えられずに浸透しなかった苦い経験がありましたので、シンプルさは重要です)。

評価軸という文言をIST Valueという名称に変更して、新たな行動指針として生まれ変わりました。

最終的にまとめた資料。内容も精錬されてすっきり。
変更の過程もわかるようにドキュメント化


【等級制度の改定】

制度改定の本丸ともいえる等級制度は、特に時間をかけて議論しました。なぜなら等級制度はキャリアパスや成長の指針となるもので、これをベースに目標設定や評価決定を行うので、納得感があるものにしたいところ。


これまで部署別分ける等級体系でしたが、ISTは部署の中でも職種が異なるケースがあることや、等級定義の中にマネジメントとスペシャリストの定義が混在していることから運用が難しい場面も。

これまで運用していた等級表

①等級体系の決定

現組織体制においてマッチしそうな等級体系案をいくつか出した上で、ブレストをしました。

①全職種で1つの等級体系を設計
②一定の等級に達したらマネジメントかスペシャリストに分岐する等級体系を設計
③部門別で等級体系を設計
④職種別に等級体系を設計
※①→④に番号が上がっていくほど、設計と運用工数が上がる

結果的には①の「全職種で1つの等級体系で運用」することに。決定した経緯としては2点あります。

  1. 部署の中に多種多様な職種の方が混在しており、職種別や部門別での等級体系を設計すると、組織拡大するたびに制度改定が必要に。今は全職種をカバーできるようなシンプルな等級体系の方が運用しやすいと判断。

  2. 現状の組織状況では「マネジメントもスペシャリストの要素を掛け持ちする事」や「評価期間内で役割変更が都度発生すること」から、敢えて1つの定義の中に役割をマージして記載することで、急な組織変更にも対応できると考慮しました。

4等級からは役割に応じて等級定義を設定。

②基準等級の決定

初めに今後の組織体制を見越したときの等級数を6段階と仮に設定しました(等級は最後に増やしたり、減らしたり調整すればいいので、まずは仮で設定。※等級数を増やすほど等級間の差がわかりづらくなるので、事業特性などを鑑みて設定するのがおすすめ)。

次に6段階で基準となる等級=(メンバーとして自律して業務遂行できる基準)がどこになるのかを決定(この基準は中途採用基準にも紐づくところになると考えています)。

③等級定義の決定

基準等級を3等級と決定し等級定義を作成。その次は上下の等級定義を以下の点に留意しながら検討しました。

1.等級定義の文言に統一性を持たせることで、等級間の違いを分かりやすく。
2.敢えて抽象的な文言を織り込むことで、あらゆる職種でも対応できるように。
3.業務の難易度も知識レベル等で区別できるように。
4.労働市場における人材価値を高められるように、4等級以上は社内だけでなく、社外から見た視点も入れる。
5.等級イメージは記載するも、役職と等級は連動させない(会社によっては等級と役職が連動する場合もあるが、ISTでは役職変更が多々あるため明記は避けました)。

決定した等級定義

Step5.ステークホルダーへのヒアリング

プロジェクトメンバーでの課題検討後、GLや評価者へのヒアリングを実施。制度改定したことでのやりづらさが無いかなど懸念事項をひとり一人にヒアリング。ヒアリング実施時に出てきた質問はすべてFAQ化しました。


Step6.全社発信、オープンドアの実施

プロジェクトの最後の仕上げとなる全体発信。情報が正しく伝わるように、①コンテンツの充実化、②オープンドアで質問できる機会を設けました。

①コンテンツの充実化

  1. FAQ充実化

    1. 資料を見れば制度を理解できる状態を理想として、想定される質問をFAQに落とし込みました。(ただFAQがスライド8ページの超大作になったので検索性は改善したいところ)。

  2. 解説動画の作成

    1. 改定内容がいつでも見れるように字幕付き解説動画を作成し、YouTubeの限定公開で社内公開。

目次も作成し、知りたい情報にすぐにアクセスできるように。

②オープンドアの実施

誰でも気軽に制度について質問ができるように計3回実施。改定内容について知りたい方、そもそも入社したばかりで人事制度の内容がわからない方など、たくさんの方に参加いただきました。


最後に

これまで何度か制度改定を経験しましたが、これまでで一番ボリュームが盛りだくさんのプロジェクトでした。また従業員100人を超えた中での制度改定ということもあり、プロジェクトを進める難しさや、新しい気づきもありました。

検討する際に使ったMiroの一部

私は人事制度は「生き物」で、絶えず場面場面で、会社にフィットする制度に成長させなければ、陳腐化していくものと考えています。最善の人事制度と思ったものが、来年には最善ではなくなることも。そのため今後はより細かいスパンで、人事制度の改定を行っていく所存です。

最後に宣伝です!
人事ひとり体制で制度改定を進めてきました。今後も制度改定だけでなく、採用や教育などもより良いものに推し進めていく仲間を探しています。

  1. ロケット会社で人事をしてみたい!

  2. 成長する宇宙産業で働いてみたい!

  3. 少数精鋭の組織で働きたい!

そんな人事を募集しております★カジュアル面談を実施しております。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集