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わたしはまた、誰かを愛することができたんだと知った夜

元彼を愛していた。

1年前に別れた、当時同棲していた元彼。彼と別れてから、そこには愛があったんだと思い知った。

そして、1年経った今、わたしはまた、誰かを愛し始めていた。けれども、失いそうになって初めて「愛」の存在に気づくのは、1年前からちっとも変わっていない。

愛しい彼は、私のもとから去ろうとしている。





彼とは去年、11月ごろに初めて会った。その1ヶ月前くらいからメッセージのやりとりをしていたので、知り合ってからは半年が経っている。はじめは、顔がタイプなわけでもなく、18歳も歳上だし、バツイチで子供がまだ小さくて、そのときの私は、恋愛に発展するような関係になるとは、まったく想像していなかった。

でも。一緒にいて楽しくて、安心できて、心を許せる存在が、彼だった。付き合いが長くなるほどに、その感覚が私の心の中にじわじわ浸透して、気づいたら彼との時間が自分の生活の一部として、自然と溶け込んでいった。

「子供のこともあるし、付き合うことはできない」

そう言いながらも、毎週末には車で1時間かけて私に会いに来てくれた。遠くまでドライブに行ったり、海のむこうに沈んでいく夕日を一緒に眺めたり、朝にパン屋めぐりをしたり、今年のGWにはどこか少し遠くに小旅行できたらいいね、なんて話していた。今までお世話になりっぱなしだったから、今度は私が旅行をプレゼントするね、と伝えていた。



なのに、昨日、彼の転勤が決まったと知らされた。

転勤先は、とても気軽に行けそうにない遠くの街だった。しかも、海のすぐ近くで、地震や津波の心配がある場所。私の住んでいる街からそこにいくには、電車やバスなどの公共交通機関がつながっていないため、自力で車でいくか、最寄りの主要な都市で会うとか、そんな感じになりそうだった。

転勤を知らされたとき、私は愕然とした。

やっと、彼と向き合うと決めたのに。やっと、彼の存在が私の中で膨らんで、かつて感じた、誰かを愛しく思う気持ちを思い出してきたのに。私、遠距離恋愛すごく苦手なんだよ。うまく続いた試しがないんだよ。1時間離れていて週1回数時間会えている今のこの状況にも、本当は満足していなかったんだよ。できることなら毎日だって会いたいくらい、好きなんだよ。

彼と、面と向き合ったら、自然と涙がこぼれた。手を握って、抱きしめ合ったら、涙がとまらなくなった。もう、この温もりを感じることができなくなってしまう。「おれ、死なないよ」そう彼がなぐさめてくれたけれど、そんなことわかっているけれど、涙が次々に目から溢れてきて、どうしようもなくなった。終いには、顔をぐしゃぐしゃにして彼に抱かれながら泣きじゃくった。手放さないって決めたのに。今度はあなたが離れていっちゃうの?

引っ越しは、もう今週のうちに済ませるらしい。最後にもう一度会いに来てくれると彼は言ったけど、荷造りや仕事の引き継ぎなどで忙しいだろうし、無理しなくていいからね、と伝えた。彼が、行ってしまう。いつのまにか、知らないうちに、彼への愛がぐんぐん育っていたことを実感した。こんなに好きになってしまっていたんだ。



彼が帰って1人になった部屋で、もともと1人だったのに、何か大きなものが欠けてしまったような気持ちでいっぱいになった。2人で狭いねと言いながら寝たシングルベッドが、急に広く感じた。

彼がいなくなっても、私はこの地で生きていくしかない。もう一生会えないわけでもないし、会いたいなら会いに行けばいい。頭ではそう思っているのに、なぜかぽっかりあいてしまった穴の埋め方がわからず、それで埋まるはずがないのに体はどんどん涙を生成し、とめどなく溢れて、私は泣きながら眠りについた。



さよなら、私の愛する人。

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