あなたはあの子の向こう側(ショートストーリー)
あの子は、いとも簡単に私の大切な人を向こう側へと連れて行った。
気づいていた筈。私が彼のことをいつも熱い眼差しで見つめていたことを。
気づいていたからと言って、遠慮をする必要はない。
けれど、こんなにも長い間私が届かなかったあの距離にあの子はいとも簡単に到達し、彼を向こう側、彼女の側へと連れて行ってしまった。
ねえ、どうして?どうして?
わたしには何が足りなかったの?
わたしの側にいてもらうには何が必要だったの?
未来の自分はきっと答えを分かっている。
ずっと前のあの時もそうだった。
私が足りないのでもなく、あの子にあるものが私に必要だった訳でもきっとない。
きっと、これが恋愛なのだ。
分かっている。分かっている。
分かってはいても、それは涙を流さない理由にはならない。
涙は頬を伝う、などという綺麗な表現ではないほどに止め処なく出続ける。
いつしか目は腫れぼったくなり、鼻水を拭くティッシュすら手元にはない。
ああ、なんて惨めなのだろう。
でも、せめて私くらいはこの惨めな自分を認めてあげなくては。
目から出るものを止めることは出来ていない。
この淀みきってはいるが、激流のような凄まじい感情を堰き止めることが出来るのは、今この時点では私か彼しかいないのだ。
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なんとなく書いてみたショートストーリーです。
失恋した直後の昔の自分を慰めるような気持ちで書きました。
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