夢より深く(ショートストーリー)

彼の腕に抱かれながら、私は一睡も出来ずに朝を迎えた。
隣で彼は、まだすやすやと寝息をたてている。

ずっと触れたかった愛嬌のある整った顔、少し癖のある髪の毛、そして肌。

触れたいという思いはありながらも、それをひた隠しにしながら何人かで飲んだり遊んだりする日々だった。

それがどうしてだろう?
私は今、その彼の腕に抱かれて彼のこじんまりした部屋のベッドで横になっている。

昨晩の彼は随分と酔っ払っていた。
皆での飲み会の後、後ろを歩いていた上機嫌な私たちはいつしか他の人とはぐれていた。いや、はぐれていたのか、わざと道を違えたのかは最早わからない。

「うちで飲み直そう、ね?」

そう言われ両肩に手を乗せられて、その先に起こることはなんとなく想像が出来た。
けれど、はっきりとした想像はできていなかったのだ。今ならそれが分かる。

なんとなくの想像は想像でしかなく、事実は想像よりもずっと味気なく、そして空虚で悲しかった。

「夢みたい。」

そう一人で呟いた。
相変わらず、彼は眠りから覚めそうにない。

この夢はついに叶えた理想ではなく、私が小さい頃に何度か見た類の夢だ。
そう、起きた時には不安で涙を流しているような。

ベッドの中で、彼は可愛いとか綺麗とか言った様な気がする。
けれど、それは彼の私に対する恋慕や愛情とは別のものであることは感じ取れた。

それなのに、私はその上すべりの言葉すら嬉しくて、涙を流した。

夢は所詮はどんなものでも夢でしかなく、彼が目を覚ましたら醒めてしまうものだ、

分かっていながら、私はこの不安な夢の中を深く深く潜っていく。
たとえ戻れないとしても、そうせずにはいられないのだ。


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