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偽善者養成学校

#こんな学校あったらいいな

『はい、それでは鈴木さん。見本をお願い致します。』

『分かりました。』

階段の前で、大きな荷物を抱えた老婆が立っている。

鈴木さんはそっと老婆に近寄った。
『お荷物お持ちしましょうか?』
優しい声と共に鈴木さんはにっこりと微笑んだ。

『ありがとうございます、助かります。』
老婆は安堵の笑みを鈴木さんに返し、ゆっくりと階段を登り始めました。

『待って鈴木さん!良い事をする時は必ず動画で撮りなさいと何度言ったら分かるの?』
講師の篠倉先生がため息をつくように言いました。

『せっかくの親切をSNSにアップしないでどうするの?親切を無駄にしないで!』

鈴木さんは落ち込んだ様子で下を向いてしまった。

ここは偽善者養成学校。
この学校では1年かけて『偽善』について学びます。
いかにして自分の『親切』を売り込むのか?
いかにして自分を『良い人』に見せるのか?
あらゆるSNSを駆使して自分を『善者』としてアピールす方法を身に付けていきます。

この学校が創立してから10年が経ちました。
この学校を卒業した『偽善者』たちが、世界中のSNSで活躍しています。

デービットは毎朝、地域のゴミ拾いサークルでの活動をFacebookにアップしています。1万7千【イイね】

ナターシャは毎朝の通勤電車で、ポリジョイ駅から乗り込んでくるお爺さんに席を譲ります。そして毎朝youtubeで配信する。チャンネル登録者数1000万人

武夫は募金箱に寄付金を入れて、その様子をTwitterで呟く。フォロワー数3万5千人

2028年以降、世界中に『善者』を売り物とする『偽善者』が増え始めた。

しかし驚いた事に、世界は平和になりつつある。
『善者』を売り物にする『偽善』であろうとも、『良い行い』である事には変わりない。
それを陰でやるのか、これ見よがしにSNSにアップするかの違いだ。

『迷惑YouTuber』より断然歓迎される人々である。

2035年、
小学生がなりたい職業、『YouTuber』を押さえて『偽善者』が第5位にランクイン

#ショートショート #偽善者 #近未来 #迷惑YouTuber  #偽善の勧め #渡辺一夫 #教科書で読んだ

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