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VRは僕らの生活をどう変える?実例を示しつつ現状を整理した本『VRが変える これからの仕事図鑑』

今、「VR」がむちゃくちゃアツいらしい──。
ここ最近、そんな話を耳にする機会が増えた。

しかしそうは言っても、いまいちピンとこない人も多いはず。

「360度映像がすごい」とか「体を動かしながらゲームを遊べる」とか、「VRで何ができるか」のイメージはなんとなくできる。でも正直、VRの何が「すごい」と言われているのかはしっくりきていない――というように。

大勢に認知されてはいるものの、まだまだ身近な存在ではない「VR」。

そんなVRの魅力を紐解き、まったく知らない人にもわかりやすく説明してくれるのが、この本。『VRが変える これからの仕事図鑑』だ。

身近な「仕事」を例に、VRがもたらす変化を紐解く

本書の大きな特徴は、タイトルにもあるように「仕事図鑑」を謳っていること。

「サルでもわかるバーチャルリアリティ」「VR入門の教科書」といった形で「VR」をメインに据えるのではなく、あえて「仕事」に焦点を当てたタイトルになっている。

言い換えれば、「VR」という技術の解説はそこそこに、それがもたらす「変化」のほうに注目して取り上げている格好。

ビジネス分野では、どのようにVRが活用されるのか。
なくなる仕事や、逆に新しく登場する仕事はあるのか。
そして、私たちの生活はどう変わるのか。

本書では、そのような切り口から「VR」の特徴を紐解いていく。

すでに実践されている事例も多数!VRが変える「仕事」

では、具体的にはどのような「仕事」がVRによって変わるのか。

「これからはこうなっていくだろう」という想像もあるものの、本書では、すでに実践されている事例も数多く取り上げている。

たとえば、エンタメ分野。

わずか10分でチケットが完売した輝夜月ちゃんのVRライブなど、2018年を皮切りに、今やVTuberのライブは今や数多く開催されている。VTuberに限らず、宇多田ヒカルさんのVRライブ映像VRミュージカルリトルプリンスVR』など、エンタメ分野では多彩なVRコンテンツが登場している。

他方で、さまざまな活用が考えられるのが、教育分野。

まず考えられるのは、VR予備校。現在は映像での学習が中心のオンライン予備校も、仮想空間に「教室」を作り出せば、実際の「塾」により近い感覚で学べる。しかも教室はVR空間にあるため、家賃は不要。サーバー代などはかかるにしても、リアルの賃料と比べれば格安で済むのは間違いない。

また「教材」の面でも、VRならば幅広い表現ができる。たとえば、戦国時代の合戦や中世ヨーロッパの街並みを仮想空間に再現し、世界各地の「歴史」をリアルに体験するとか。他にも、VRでなら化学実験だって安全に再現できる。「VR入学式」を行ったN高等学校などの事例もすでにあり、教育分野ではいち早くVRの導入が進むかもしれない。

さらに、学生向けの教育のみならず、VRを利用した「トレーニング」は現時点でも多くの分野で取り入れられている。

プロアメリカンフットボールリーグではVRを用いたトレーニングが普及しているし、消防・警察・医療などの分野でも活用が始まっている。特に後者、危険と隣り合わせの職業の「実地訓練」にはリスクが伴うが、VRなら失敗しても大丈夫。仮想空間に災害現場を再現して救助訓練をしたり、特定部位の手術を反復練習したりすることも、リスクゼロで実現できる。

それ以外にも、VR活用の切り口は多種多様。

・賃貸のバーチャル内覧
・VRを用いた予習観光
・VR企業研修(ウォルマート松屋など)
・アパレル分野のVR試着
・シチュエーション自由なVR結婚式
・心理療法やPTSDの治療
・VRエクササイズ
・低コストで作れるVRドラマ(『四月一日さん家の』)

このように、すでに実践されている事例も含めて、本書ではVRが仕事や生活にもたらす多種多様な変化を掲載。

その活用方法は多岐にわたるため、読者は自身の専門分野に当てはめて考えてみるのも楽しいかもしれない。「こういう使い方はできないかな?」「自分の仕事だったらこう使えそう!」などと、VRの可能性に思いを馳せてみてはどうだろうか。

読者をVRの世界へと誘う「教科書」的な本

以上のように、「VRが変える仕事や生活」を幅広く説明している本書。

しかし、VRには大きな課題もある。それが、新興コンテンツ特有の「文化」の問題だ。

 私が一番危惧しているのは、文化の課題です。VRを身に着ける習慣は、まだ一般の人に根づいてはいません。習慣化されない理由は、そもそもVR機材を持っていない、買ったけれどコンテンツが少なくて飽きてしまった、ソーシャルVRにログインしても知人が少なくてプレーできない、など、さまざま挙げられるかと思います。
 この文化の課題を突破しないことには、VRの未来は開かれません。新しい技術ですので、機材が普及する、コンテンツが充実する、といったところまでは、それなりに時間がかかると思います。
(赤津慧・鳴海拓志著『VRが変えるこれからの仕事図鑑』P.217より)

必要なのは、「実際にふれてもらう」こと。そのためには、少しでもVRに興味を持ち、「試してみようかな」と思ってもらわなければならない。

そしてその点において、本書は役割を果たしてくれそうな印象を受けた。技術面の説明は最小限に、専門用語も少なく平易な文章で書かれているこの本は、読者をVRの世界へと誘う「教科書」的な立ち位置にあると言える。

ちなみに類書としては、GOROmanさんの『ミライのつくり方2020-2045』が挙げられるだろうか。未来の展望とVRへの期待を「世界」の単位で熱量高く語っているそちらに対して、『VRが変える これからの仕事図鑑』は、現在のVR事情を身近な「生活」の目線で説明している印象を受けた。

どちらもおすすめの本なので、よかったら書店で手に取って読んでみてくださいな。

関連リンク
 ・著者Twitter:赤津慧(@frog_kei)
 ・元記事:ぐるりみち。

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