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白ブリーフ、白靴下、黒の革靴 「話はそれからだ…」と中年男は言った シーズン2 その33

 扉を蹴破るような音を響かせ、ハンバーガー店店内に誰かが入ってきた。
 店内に入ってきたのは男、それは見覚えのある男、不審者感溢れる顔つきのナイス害。

「糞平!」

 店内に入ってきたのは糞平だった。

「シロタンっ!駅前で騒ぎを聞き付けてここに来たけど、君は無事だったか!」

 糞平は俺の姿を見るなり、駆け寄ってきた。
 糞平の無表情さの中に何か感情的なものの発露を感じる。

「糞平、お前こそ無事だったのか!」

「僕は対策をしていたから大丈夫だ」

 対策?糞平は何のことを言っているんだ?
 糞平は先日、屈強な救急隊員のような奴らに拘束されて連れ去られて行った。
 精神病院か何かに強制入院させられ、もう二度と会うことは無いと思っていたのだが…
 その糞平に…、糞平に再びこうして会えるとは思ってもいなかった。
 感動の再会、といきたいはずなのだが、糞平の格好に感動は霞む。

「お前、その格好はどうしたんだ?」

「これ?命からがら逃げてきたんだ」

 糞平の激しく肩で息をする様子から命からがらさは伝わってくるのだが、糞平は白ブリーフ1枚に白靴下に黒の革靴だけなのだ。
 そのスタイルに敬意を感じるのだが、さらにアルミホイルを頭に巻いている…

「僕の格好のことはどうでもいい!シロタン、君たちもあれを見たか?あれはここでも起きたのか⁉︎」

「あれって言うのはもしかして⁉︎」

「人が水晶のようになって崩れ落ちることだ!君たちも見たんだな?」

「ああ!ここでもその現象か起きた。ここに残っている俺たち以外、ガラス細工のようになって消えた」

「やはり、そうだったのか…」

「糞平、お前はあれが何か知っているのか?」

「シロタン、これこそこの前、君に教えたことなんだ」

「もっ、もしかして…」

「そうだ…、影の政府の陰謀である、人類半減化計画だ。ついに始まってしまった…」

 と、糞平が言った瞬間、隣にいる城本は吹き出すような笑いを漏らす。

「水晶のようになって崩れ落ちるのは電磁波攻撃によるものだ。
影の政府は密かに第六世代の通信技術を開発していて、それを軍事転用して電磁波攻撃に利用しているんだ。
影の政府による人類半減化計画はこれだけじゃなく、多岐に渡るんだけどね。
君たちは最近、ワクチン類の注射を打ったか?」

「注射?俺は小学校低学年から打っていない」

 あぁ、俺は注射ってやつが何よりも嫌いでな、小学校低学年からあらゆる手段を用いて注射を避けていたのだ。

「シロタンは大丈夫だ!君たちはどうなんだ?この2、3年の間にワクチンや予防接種等を受けたか?」

「俺は一カ月前にやった」

 堀込だ。

「僕も同じく」

 西松が手を上げる。

「何ぃぃっ!どういうことだっ!
何か偶然が重なって水晶化を避けられたのか?それとも他の要因があって避けることが出来たのか?
それはわからないけど、君たちも僕と同じようにアルミホイルを頭に巻くんだ!」

 糞平は持っていたコンビニ袋からアルミホイルのロールを取り出す。
 その様子を見た城本が大笑いし始める。

「お前ら、こいつの言うことを信じるのかっ?」

 城本は腹を抱え笑いながら、糞平を指差す。

「お前、糞平って奴だよな?
ワクチン打つと何で水晶化するんだよ?」

「ワクチンの中に仕込まれたナノマシンが第六世代の通信によって操作され、正常な細胞を攻撃して人体を水晶化させるんだ」

 反論する糞平の表情に若干だが、怒りを感じる。

「お前はそれを本気にしているのか?」

 城本は笑い過ぎて耐えられなくなったのか、その場にしゃがみ込む。

「僕がさっきから真剣な話をしているのに、君は失礼な人だな!」

 糞平のアルミホイルの下の眼差しが鋭くなり、糞平と城本の視線が交錯する。
 この場の空気に緊張感が走る。
 一触即発と言ったところか。

 城本は両肩を上下させ、両方の手のひらを上に向ける。肩をすくめるって動作か。
 城本は肩をすくめ、おどけたような表情をする。

「あぁ、すまん、すまん。何を信じるのかは自由だからな、お前らは勝手にすればいいさ。ただし俺はアルミホイルなんて巻かないからな。
 それと俺の事を知らないようだから自己紹介をさせてもらおう。
 俺の名は城本。周りからはシロタンと呼ばれている」

 おどける城本を見た糞平は、少しばかり不服そうな表情を浮かべるのだが、城本はどこ吹く風といった様子で捲し立てた。
 それは一旦置いておくとして、城本の野郎、聞き捨てならぬ!

「待て!シロタンは俺だ。俺の真似をするな!」

「シロタンは俺の方が先なんだがな」

 と言いながら、城本は当然だ、と言わんばかりの顔をする。

「俺がオリジナル!お前のシロタンの由来は、お前の吐いた痰が白だから白痰!漢字表記だ!」

「白痰?それは勘弁してくれよ」

 城本はまたおどけたような顔をする。

「わかった、俺は寛大だからな。
お前は今日からシロタン二号。略して二号だ」

 俺からの妥協案に城本は少しばかり不満そうだ。

「俺は好きでシロタンを自称してるわけではないんだけどな…、まぁいいさ。好きに呼べ」

 城本は俺の妥協案を受け入れたが、仮に受け入れなかったとしても今日から城本は“二号”だ。
 奴の意思に関係なく俺はそう呼ぶ。
 それが俺のやり方だからな…

「ちょっといいかい」

 糞平だ。糞平が俺と二号の話の中に入ってきた。
 どうやら話がひと段落つくまで待っていたようだ。

「まだ僕の話は終わっていないんだけど」

 糞平は俺と二号の顔を見て頷き、

「人が水晶化して砕けるとナノマシンからの信号が途絶えるんだ。
すると国のデータベースから、砕け散った人の個人情報や戸籍等全ての情報が抹消される仕組みになっているんだ」

「何ぃ!個人情報まで全て消される仕組みになっているのか…」

 堀込だ。堀込はその滑稽な顔立ちに似つかわしくないぐらいの神妙な面持ちで呟いた。

「最初からいなかったことにされるのか…」

 西松だ。西松はそれまで顔をキャンバスにしているのか?ってぐらいの暑化粧をしていたのだが、それが割れ落ち、素顔になっていた。
 木彫りの人形のような顔立ちだ。

 堀込は糞平が持つアルミホイルのロールを手に取り、自分の頭に巻けるだけのアルミホイルを切り取った。
 それに西松も続く。

 そんな糞平と堀込と西松のやりとりを見ていた二号は鼻で笑う。

「なんだよ、お前ら、こんな強制入院させられてた奴の言うことを信じるのか」

「今までの俺なら信じなかったけど、あんな光景を見たら信じたくなる」

「僕も堀込君と同感」

 堀込と西松は頭にアルミホイルを巻き付ける。

「全く、どいつもこいつも…」

 二号は大袈裟なぐらいに呆れたかのような態度を取る。
 こいつの身振り手振りの大袈裟さが鼻につく。

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