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中村文則 王国の感想

月という変わるけれど変わらないものが存在し続けていて、煙という視界を曇らせるものがスパイスとなっているこの作品。

神よりも現実的な存在の、生々しい悪意を何十年も持ち続ける人間に支配された女性が、人生を作られて奪われる残酷さ。

ターゲットになってしまった理由は彼女が美しかったから、ただそれだけ。また、彼女が唯一救おうとしたのは美しく不器用な少年。理由は美しかったから。

対照的な絶対的悪と虚無を抱えて生きる女、男を利用して利用されて、それらを振り払おうにも逃げ場のない世界は平面のようだと感じた。

世界とは、人生とは、人間とは、底なしの悪意と欲望と愛のバランスが悪すぎる。そして、真実は己の中にすら存在せず、その時代に合わせて都合良く改変され、誰にも本当のことは分からないまま、聖人と悪人に分類される。

美しさは不幸の引力を強くしてしまう、だからこそ違和感には敏感であれということなのだろうか。若さと美しさを両方持ってしまい、自発的な行いすら誘導されていた主人公のこれからはどうか幸せであらんことを祈って。

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