9/10産経新聞産経抄 書き起こし

日本のお札の肖像として最も多く登場しているのは、聖徳太子である。戦前の百円札に始まり、7回を数える。戦後、「肖像にふさわしい人物」の議論が起こると、当時の日銀総裁が「太子は軍国主義者どころか平和主義者の代表である」と主張して、GHQを押し切ったそうだ

▼日本初の一万円札として、聖徳太子の肖像が描かれた紙幣の発行が始まったのは、昭和33年12月1日だった。当時の大卒初任給は、1万3000円程度だったから、庶民にはほとんど縁がなかった。そのあとは次第にありがたみが減ってきたとはいえ、59年に福沢諭吉にバトンタッチするまで、太子は最高額紙幣の顔であり続けた。

▼その聖徳太子の旧一万円札の偽札が、先月から東京都内のコンビニエンスストアなどで発見され、ベトナム人の男女3人が逮捕された。旧札が偽造されたのは、最新の防止技術が施された現在の一万円札の偽造が不可能だったからと考えられる。今後はキャッシュレス化が進み、偽札づくりはますます「割りに合わない犯罪」になっていくだろう

▼昨日の朝、ワイドショーを見ていると、女性アナウンサーが旧一万円札を見たことも使ったことも那智、と話していた。無理もない。令和6年度から流通予定の新一万円札の印刷がすでに始まっている。3代目の肖像は渋沢栄一である

▼「今日は財布に聖徳太子が入っている」。昔は懐具合をこんな風に示したものだ。「諭吉が入っている」とは言ったことがない。赤ちょうちんで同世代の知人と、昭和のお札をめぐる思い出話の花を咲かせてみたいものだ

▼と言っても昨日、緊急事態宣言は再び延長された。政府が行動制限の緩和を見込んでいる11月ごろには、実現するだろうか。




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