2600円、大阪駅でカツアゲされました。
東京から大阪へ引っ越してきたばかりの頃、大阪駅のそばを歩いていたら、「大阪やなぁ~」ということが起きました。
僕は日々大切にしているある"マイルール"に則って対処したのですが、その結果、2600円、カツアゲされました。
今日はその話をしようと思います。
まずそのマイルールとは何かというと、
「知らない人に話しかけられたら、とりあえず話してみる」
です。
このルールが僕の中で制定されたきっかけがありまして、
大学生の頃、渋谷のハチ公前で、友達を待っていたら、ある芸能事務所の方に声をかけられました。「こういったお仕事興味ないですか?」と。正直、興味がなかったのですぐに話をやめても良かったのですが、その日は友達が来るまでしばらく時間があったので、話だけ聞いてみることにしました。
その方は、普段キャッチと勘違いされてほとんど話を聞いてもらえなかったり雑に扱われるみたいで、嬉しそうに話をしてくれました。
その芸能のお仕事の話はもちろん、まったく関係のないそれ以外の話までも。
例えば、AVのスカウトはやっていい場所とやってはいけない場所があって、ほとんどの場所が条例で禁止されているみたいなのですが、「あそこの〝109〟の前はやってもいいんだよ」とか、いろいろな裏事情を教えてくれました。
もうこの時点で楽しい待ち時間にしてもらえてありがとうございますと思っていたのですが、話をしていくうちに、お互い人好きということもあり、気付いたら意気投合していて、あろうことか僕はその人にある物珍しいアルバイトを紹介され、そこで働くことになったのです。
就職活動の面接では「学生時代に頑張ったこと」を主に聞かれるのですが、この特殊なアルバイトの話をしたら、どこでも興味津々で聞いてもらえて、そのおかげで就活を無双することができました。
あぁどこでチャンスが回ってくるかわからないものなんだなぁと気付き、それ以来、何かこういいきっかけや人生が面白くなる種のようなものを掴めるかもしれないと、偶然力を高めるためにも「知らない人に話しかけられたら、とりあえず話してみる」を自分にマイルールとして課してきたのです。
さて、前置きが長くなりましたが、「大阪やなぁ~」というエピソードはここからです。
「今、何時ですか?」
「ここから一番近い自販機は?」
「お兄さん、天理教?」
等
僕は無害そうな顔をしているからか、よく知らない人から街で話しかけられる。
ある夏の乾いた日、
幸薄そうな50代前半くらいの男が僕に近づいてきた。僕は道を聞かれるのかな?と思って耳をそばだてていたら、折り財布を広げてこちらに見せながら、男はこう言った。
「兄ちゃんほんま悪いんやけど、お金貸してくれへんかな」
!?
二人の間の空気が5秒くらい綺麗にぴたっと止まり、「ホ、ホームレスですか……?」と僕は聞いていた。咄嗟に出た最初の言葉がこれだった。
すると「違うで」とすぐに返ってきた。
確かによく見ると、身なりは小綺麗にしている。
ここでマイルールが発動
「知らない人に話しかけられたら話さなければならない」
その人の財布は確かにからっぽで、困っていそうだったので、無視するわけにもいかず、600円ほどお渡した。
600円あればここから京都だって行けるし、兵庫なら姫路近くまで行ける。片道だけど家まで帰ることはできるはず。そう思って財布に入っていた小銭を全部渡した。
「兄ちゃん優しいなぁ。殴られるかと思っててん」
最も殴られなさそうな人を選んで話しかけたのだろうか。
確かに。それなら間違っていない。僕はそのへんの人より人を殴らない。彼は慧眼の持ち主だったようだ。
そして、男はその小銭をしっかり受け取った上で、語気を強めてこうはっきりと云った。
「でも、できればお札がええな」
なんで?
さすが大阪、さすが関西人!これが大阪だと言わんばかりの厚かましさ。
目の前で大阪人のお家芸を披露されたようで思わずスタンディングオベーションをしそうになった。
おもろ
殴ったろか
と思った。
ここまではっきり言われると逆に面白くなってきて、僕の中のおもしろセンサーもびんびんだったので、結局追加で2000円ほどお渡しすることにした。課金課金♪
望むところだ、いざ尋常に勝負!
「僕も貧乏生活したことあるので、大変ですよね。そういうときは助け合いですよ」
すると、とても嬉しいそうに「ほんまありがとう。絶対返すな、ほんまに返すから。ほんまに~」と頭を下げられ、いやいや返さなくていいですよ絶対返す気ないでしょと僕が言おうとしたらそれを遮るように、
グーにした右手を顔の高さまで掲げ、原監督ばりのグータッチをしてきながらこう云った。
「兄ちゃんも頑張りなっ!」
なんで?
(どの口が言うてんねん!わしは頑張ってんねん!頑張らなあかんのお前やからな!やかましいわ)
もうほとんど口から出ていた。もろ出しだったと思う。あぁ、マリア様。
つい反射で"戦慄のグータッチ"を返してしまったことに対してひどく後悔して耳を疑ったが、しかし時はすでに遅し。
その男は一度も振り返ることなく満足そうに颯爽と歩いてどこかへ行ってしまったのである。
その時、僕はかなり急いでいたのだけど、「大阪やなぁ~」と思わず感心してしまい、しばらくその場で立ちすくんでしまった。東京だと絶対にありえない。
あの人はいったい何者だったのだろうか。
2600円の行方は。
目眩がする。
しかし、その後ろ姿はどこか憎めないものがあったのだった。
そのあと行った美容院で、「ちょっと聞いてくださいよー。さっきこんなことがあったんです。遅刻した理由はね……」とこの話をし、その後、調子づいた僕は小話を2、3して美容師のお姉さんから「おもろい!」をいただくことができた。
「話しかけられたらとりあえず話してみる」のマイルールのおかげで、ここでこうやって話すネタもできて、
"カツアゲ"された2600円の元がとれた気がして、その日、僕もご機嫌で家路についたのだった。
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