見出し画像

着物は女性美を引き出す

例え夢でも逢いたい人、会いたくもない人、そんな事を真夜中に目覚めて考えていたら、どうでもいい人の一つ紋が頭から離れなくなった。

そんな「一つ紋」から、娘の嫁ぎ先の七五三を思い出した。

嫁ぎ先の義母は着物が趣味で、たくさんの着物を持っているそうだ。娘が嫁いだ時に、七五三で着た(上記写真)、薄墨というよりも銀色のような、白に近い色の留袖を贈られた。

「後でお家の家紋を染めてね」と言われたそうだ。布地にプリントして縫い付けようかな、と言ったら酷く叱られたそうだ。

一見すると無地のようだが、光の加減で市松文様に扇やら花やら御所車などの、吉祥文様が浮いて見える。織り方で生地に文様をつけてるもので、家紋を入れると正礼装になる。よほど気に入られていたらしく、娘のために結婚前から誂えていたそうだ。

実家の紋は自分で入れてね、と言われたと言うが、婚家の家紋を入れるはずだが、地域によって女紋を入れるらしい。家紋を入れると礼装として使えると言われたが、吉祥紋が全体に入っていて、仏事には着られない。

草履を買おうと、合わせるためにこの着物と袋帯を持っていったら、かなり高価な草履が出てきた。「あなたの故郷の織物、袋帯よ」と、他の着物と共に簡単に言って渡されたが、帯と着物を見た呉服屋さんの査定は相当な金額で、着物よりも現金が良かったと言ってた。で、けっきょくは草履は10万くらいのにしたらしい。なんか、予算の倍以上で高いとぼやいていた。

「ゆかたがわり」と言う言葉を、上の記事で目にした。

「夏の着物は浴衣と言うけど、あれは何となくだらしなくて嫌ね。夏には夏の着物があるのよ。キリッとしてれば、夏が暑くてもヘッチャラよ」そう言ってた人がいた。

その遠縁の女性も着物が好きで、夏の訪問着に「絽(ろ)」とか「紗(しゃ)」とかいう物があり、その透けるような羽織を着けてきたことがあった。薄い青味の緑のような、分からないほどわずかなグラデーションの留袖に、鮮やかな三つ紋だった。まだ夏に入る前の結婚式で、親戚や関係者の女性はほとんど貸衣装の黒留袖だから、本人も見てる方も暑そうだった。

黒い礼装の着物に比べ、あの三つ紋の着物は爽やかで、それでいて場の全体を清めるような清楚な趣きがあった。本人も歳の割にそれなりに美人だが、着物がその美しさで場を引き締めていた。着物にはそんな力も感じた。同じ家紋なので、我が家の家紋も綺麗な物だと思った。全国の家紋帳にもない珍しい物で、準礼装に付いた紋は初めて見た。

薄いと直ぐに切れてしまわないかと聞くと、手入れが良ければ何年でも着られると言ってた。祖母から受け継いだ着物も有り、染め直しをすれば買うよりも安くて、長く着られるそうだ。祖母からの、と言っても毎日着てるわけでは無いと思うが。母も着物を着ていたが、かけつぎに出したり染め直したりしていた。着方が下手だったのかな。

茶会での訪問着も、一つ紋を着ると、それだけで特別な空間になったように感じる。見ていても美しい、日本の女性美を引き出してくれようだ。


着付けも、普段から義母に教えられ、自然に覚えたそうだ。義母はもうすぐ後期高齢者になるそうだが、着物になると背筋が伸びて若々しく見える。

事あるごとに、「お義母さんの着物は私にも合う~」と言ってた甲斐があり、全部義母からの遺産としてもらえるそうだ。全部売ったらいくらになるか、なんていうことは、着物を愛する者の言葉ではないが。本音は義母とは色や模様の好みは全く違うらしい。

流行に振り回されず、年齢を重ねながら、自分の好みや個性に馴染んで着こなせるようになる。だから着物は女性美を引き出してくれるのだろう。

今もあるのだろうか、洗い張りに出すと新品同様になる。染め直しで着物を自分好みに合わせることも出来、着物によって女性の立ち居振る舞いの美しさを引き出してくれる。

その人に合った色合いの、無地に「一つ紋」が一番美しいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?