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混浴風呂を思い出し・・・

保護ネコを引き取ってから、ほとんど旅行に行かなくなった。旅行といっても、ほんの近くの温泉宿だが。

行きたい温泉があるが、これが混浴なので実に困る。下心などないが、少しは有るかもしれないが、湯が透明では目のやり場に困るものだ。俗に「ワニ」という、女性の裸が目的で来てる、日頃から余程モテない人がいる。温泉文化を愛する者としては、こういう連中を最も嫌う。混浴も大事な温泉文化の一つだが、湯治とはかけ離れた目的で来られては、その伝統文化の継承を断ち切ることにもなりかねない。休日前後の立ち寄り湯などはいかにも「ワニ」どもがいて、なかなか楽しめない。

みなかみの法師温泉長寿館も、立ち寄り湯があるが、この温泉を楽しむには宿泊が良い。木造の日本的な湯宿に泊まり、地の食材を活かし、和食の粋を利かした料理を楽しみ、ゆっくりと足下の玉砂利から湧き出る温泉を楽しみたい。

あのポスター、上原謙と高峰三枝子のフルムーンではないが、「ワニ」達のいない広くて薄暗いお湯に浸るのは良いものだ。温度も高くはないので、長時間入っていられる。熱湯で「烏の行水」のご婦人曰く、「寒くて嫌だ」・・・とはもったいない。一人旅では部屋も取りにくいこともあり、自宅の風呂でエアー入浴をしてる。夫婦、恋人、本当に気心の知り合えてる二人が、丸太を枕に足下湧出の新鮮な湯を、ただボーッと楽しみたいものだ。

沢渡温泉のまるほん旅館も良い。ここの内湯は湯小屋風の混浴風呂とユニークなデザインの女性用があり、時間帯で交換になり、女性用と男性用それぞれ専用となる。

宿泊客が多くても、まだ一度も他の客と一緒になったことがない。年配のリピーターご夫婦が多く、何となく互いに気遣いあって過ごしてるのを見るのは、羨ましくもあり、人の生きてきた時間を想像され、静かな温泉宿の楽しみともいえる。

かりに一緒になっても、何も考えずにただボーッと目を閉じて湯に浸るのは最高だ。二つの浴槽はそう広くはないし、湯は透明だが、湯小屋の周囲木作りの湯は、混浴だからどうのとは感じさせない自然さがある。建屋は木造、湯に敷き詰められているのは青緑色の昭和村で採れた銘石で、あのティッシュペーパーのような大きな白い湯の花を見てるのも良いものだ。

沢渡温泉はコンビニも無い小さな温泉地で、でも何も無いからこそ療養としては適している。まるほん旅館とは共同湯を挟んで建つ龍鳴館に泊まることが多い。ここは混浴はないし、少し温度が高いのが良い。シンプルに、男女内湯と家族風呂しかなく、常時掛け流し状態なので温度も高くなる。調節は天窓でというが、天窓を開けたくらいでは湯など冷めない。だからこそここが大好きな宿でもある。

湯は良いのだが、混浴で困ったことがある。

尻焼温泉の野天風呂は、自然の川を堰き止めただけで、広くてノビノビできる。湯温や自然の川底の状態で、場所によって足場が悪い。小さな湯小屋があるが、その対岸の方が湧出量が多く、平らなところもあり、日がなノンビリと過ごせる。小さな湯小屋は水着禁止だが、川原の方は水着でも入れる。通常は女性は水着を用意してるようだ。ここは「ワニ」も少なく静かで良いところだ。広すぎるのかな。対岸に渡るのに、堰の上を歩くのだが、これが滑る。

対岸のもっとも良い位置で入浴してると、40代くらいの女性が入ってきた。水着でも良いのに、実に堂々とタオル1本だけで入ってきた。なかなかの美形と豊満な身体で、しかも二人して近づかれると、話をしながら出る機会を作るのが難しい。堰き止められた川全体が下から湧出してるが、一番良い位置はけっこう少ない。その狭い所を取る事ができたのに、後から来てズンズンと迫られて、ついに取られてしまった。男同士では会話も少ないが、話好きの女性が二人とか三人では、一緒に温泉のことや食べ物の話題などを楽しめる。これが混浴の良い所でもある。女性の人数が多いと、男としては入りにくい話題が多くなるようだ。

川古温泉浜屋旅館の混浴露天風呂は、旅館横の川原に作られている。内湯の方が小さくて、この旅館は露天風呂で川を眺めながらが入るような作りだ。広い大きな露天風呂の中央辺りに巨石がある。これで二つに区切られている形にはなっているのだが、あまり仕切りの役目は果たしていない。脱衣所は別々だが、一歩外に出れば男女は関係ない。温泉を利用した保養所としては、宿以外は何も無いので静かにノンビリできて良い。

さすがに「ワニ」どもも、山の中の狭い駐車場では、ここまでは来ないようだ。アブの発生する時期は困るが、川の流れと同じ高さの風呂からの眺めは良い。客も少なく寛げるが、男女ともに同じくらいの人数なら良いが、男一人に中高年女性が数名になると、かなり大胆になって話しかけてくる。形だけでも仕切りらしき岩があるのだから、湯は静かに楽しみたいものだ。

たまたま一人になった時、後から4名くらいの中年女性が来た。大岩の向こうに行けば良いのに、近くに寄って来て話しかけられ困った。内心、これは女性のワニかと思っていたところ、同行した友人が入ってきて横に来た。面白いことに、4人は頃合を測って岩の向こうに移動した。どうやら夫婦と勘違いされたようだ。これが本来の混浴風呂の楽しみ方なのだろう。熱くもなくヌルくもなく、岩からのチョロチョロという湯の流れ込む音を聞きながら、大して話すことも無いのに、「良いねえ」「静かだね」などという意味も無い会話をしなが過ごす時間が、いわゆる至福の時とでもいうのだろう。

妙齢な女性なのに「早くあがって、部屋で飲もうよ」などと言うのは、何とも無粋なことだ。

万座温泉の白濁した硫黄泉が好きで、年に数回は行く。少し心臓が悪いので、特に硫化水素ガスの強さ日本一の湯は、毛細血管を拡げるので効果は抜群だ。露天も良いが、少し寒い季節の内湯が好きだ。内湯の場合、硫化水素ガスが濃いので、大きな換気扇が休みなく回り、その音を聞きながらも良い。

万座温泉湯の花旅館には、横に混浴の露天風呂がある。この旅館の内湯は大きなサルノコシカケがあることで有名だ。サルノコシカケは高価な漢方薬でもある。で、ここに立ち寄り湯をしたときに、ついでにと露天風呂に入った。中の脱衣所から外の道を曲がって露天風呂を見たら、「キャー(心の叫び声)」若い女性軍団が・・・。ここの露天風呂は広くはないのに。

湯は白濁をしてるので、入ってしまえば気にすることもないが、平日なのでまさか先客がいるとは、無防備に・・・、青天の霹靂・・・、一斉に視線が集まってしまった。外気温が15度程度で、湯温はたぶん42度強くらい、晴天のもと白濁の湯の中、若い女性との語らいは何ともラッキーな出来事であった。湯から出てる肩の肌も、湯の色に映えてピチピチとして輝いて見えた。

先に入っていたのだから、当然順番というモノが有る。見られたからには、出るときには「若いと綺麗な身体だねぇ」などと、からかってやろうと思っていたのに、こちらが先に出ることになって、シッカリと後ろ姿も見られてしまった。なんとまあ、宿は同じ万座聚楽で、食事の時には彼女たちが近くの席に来てくれて、温泉巡りを趣味としている彼女達と楽しい話も出来たけど、肥満の身体を前後もろに見られてしまったという、どうでも良いような引け目が消えなかった。かつては空手とボディビルで鍛えていたのに、あの頃なら喜んで見せられたのに。

 いちおうは温泉ソムリエマスターであり、最近まで日本温泉地域学会の正会員として温泉の勉強も少しはしていた。ということで、ちょっと思い出しながら書いたこれらの温泉の良さは、湧出地の上とか横とかで、酸化もされてなく新鮮である。温泉の成分も大事だが、何よりも新鮮であり、加水もされていないのが良い。

温泉好きで詳しい人には怒られてしまうが、成分が身体の中に入ることは少ないのだから、現在の体調には何処の温泉が良いのかを知り、それに合った入浴法を知ることも大事だ。

放射線・硫化水素ガス系・二酸化炭素泉(炭酸泉)は肌や呼吸で直接体内に取り込まれ、身体中の毛細血管を拡げる効果がある。これらは身体にとって良いモノではない。なので早く排出させようと血管が広がり、血液の循環が良くなる。結果として高血圧や心臓などの循環器系疾患には効果が見込まれる。

まだ冠動脈狭窄が分かる前に、万座温泉に行くと体調が良くなり、何となく元気になれたのも、本来は危険な硫化水素ガス系の温泉の効果だと思う。もちろん、他の温泉成分も薬理効果があり、入浴時の水圧効果や温浴効果、何よりも日常とは違う環境での転地療法の効果も望まれるのだが。

などと、ボンヤリと紅葉の露天風呂を想像しながら、混浴風呂での失敗などを思い出し、パソコンに向かっていたら、また行きたくなってきた。静かな環境の川治温泉など良いなあ、行きたいなあ。紅葉の季節、一人旅では部屋が取りにくくなってる。仕方ない、誰かを誘ってみようかな。

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