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「良いアイデア思い付きました!」→クソほど面白く無かったら、どうする?

今回のnoteは、アイデアを評価するテストを取り上げます。大企業のマーケティング部やコンシューマリサーチ部では当たり前かもしれませんが、商品を販売する前のテストに着目して、どんなことをしているのか話します。

アイデアを元に作られた商品が売れない…そんな事態を避けるため、どのような事前の評価方法があるのでしょうか? また、もし全くダメだったらどのような手直しをするべきでしょうか?


何をもってアイデアの良し悪しを決めるのか

めちゃくちゃ良いアイデアを思い付いたら、上司からは「やってみなはれ」の一言をかけて貰い、即断、即決、即実行に移したいところです。

ただ、何をもって「良い」アイデアとするのでしょうか。良いと悪いの分かれ目はどこにあるのでしょうか。

どの親も「うちの娘は可愛い」とニヤけますが、全員可愛いなら相対的に全員平均的な顔になるはずです。つまりアイデアの良し悪しなんて第三者が定量的な調査でもしない限り、線引きはできないと思うのです。

例えば部下から「ノンアルコールビールみたいに、ノンアルコール日本酒流行ると思いませんか?」と言われたら、あなたならどう答えるでしょう。

上司は自分の主観で答えていいのか。そもそも客観的な意見を持ち合わせていないので「う〜ん…どうなんだろうね?」とお茶で濁してしまうのではないでしょうか。

ちなみに1つの製品の売上で100億、200億を見込んでいる大企業の場合ですと、「ノンアルコール日本酒」のようなアイデアは、社内に構築されている堅牢な評価テスト・プロセスに基づきマーケティングリサーチが実施され、良い・悪いが判断されます。

例えばプロダクトの場合、そのまま全国で売る、ということはまず無いでしょう。全国販売したらどのくらい売れるか、すなわち全国の買いそうな消費者が買えるためにはどのくらい作らないといけないかを予測するために、地域限定で販売して反響を確認します。

最近ですと、日本コカ・コーラ株式会社は九州限定で檸檬堂というレモンサワーを販売しています。話が逸れますが、ネット経由で購入しまして、宣伝抜きで美味くて「九州良いなぁ、ずっちぃなぁ!」と思った次第です。

他にもWEBサービスの場合、小さめのアイデアなら直ぐに実装されて、ABテストが行われるでしょう。成果が出ればそのまま実装されるでしょうし、出なければそのままヒッソリと消えるはずです。

ただ、新たなWEBサービスを作るといった大規模なアイデアの場合は、少数のグループに見てもらうといったプロダクトのような評価方法を取らず、とりあえずリリースするという方法が多いかもしれません。

もしかしたらモックを作って反響を見ている会社もいるでしょうが、総じてそうじゃない?と思っています。WEBはとりあえず作って公開する文化。

プロダクトの場合は売れ残ってしまうと在庫になって場所代も多くかかりますが、WEBサービスの場合は汚名は残っても在庫代はかからない分多少はアグレッシブに攻められるのかもしれませんね。


マーケティングリサーチによるテスト、アイデアの評価

ここで改めて、どのようなマーケティングリサーチ手法があるのか、整理しておきましょう。

檸檬堂のような大規模な市場調査は珍しく、何らか商品を作った場合は、Central Location Test(CLT=会場テスト)やHome Use Test(HUT=ホームユーズテスト)といったオフライン調査がまず実施されるでしょう。

CLT…調査対象者をある会場に集めて、アンケートやインタビューを行う調査手法。実際に商品を見たり試したりして評価を得たい場合や、機密性の高い調査を行いたい場合に適している。
HUT…何らか商品を調査対象者の自宅に送付し、一定期間利用、または試飲・試食してもらい、その評価をアンケートで答えてもらう調査手法。

しかし、少なくともHUTやCLTは商品が完成している必要があるので、もしかしたら社長決済前の最終関門扱いかもしれません。

例えば、いきなりHUTを実施したら「"だらだら飲めるビール"を作ったけど全く評価されない!」「"着ていることも忘れるインナー"を開発したけどユニクロと何が違うのという声が大きい」という散々たる敗北戦線を目の当たりにする可能性があるからです。

実際に物を作ってしまう前に「"だらだら飲めるビール"というアイデアが消費者に受け入れられるか確認したい」という場合もあって、例えばネットリサーチを行い、WEBを通じて評価して貰う方法を取ります。

そうすれば全く売れそうに無いアイデアが、全国販売されることも、地域限定販売されることも、そもそも試作されることも具現化されることも無いでしょう。


自信満々の商品の評価が悪かったら?

こうしたリサーチが「日本企業の遅さを象徴している!」「馬車の時代に自動車のリサーチをやったら評価されたのか?」という批判を巻き起こす可能性はあります。

個人的には、たかだか数週間のテストが入ること自体が遅れの象徴とは思え無いし、馬車の時代でも自動車に乗って価値を感じて貰えたら「すげぇ!」と評価されたと思いますが。

それよりも、こちらの方が現場はあるあるかもしれませんが、マーケティングリサーチの評価は高かったのに、CLTやHUTの評価が低かったら商品化は諦めるのか?という問題の方が頭は痛いでしょう。

いったい、どこをどういう風に直せば良いのだろう?

この疑問に頭を捻ってしまった時、その商品は"いい加減なアイデア"から産み落とされた"いい加減な商品"だと言えるでしょう。

なぜなら、アイデアはインサイトに(インサイトを具現化したバリュープロポジションに)基づくからです。インサイトは骨格で、バリュープロポジションは肉片、あとは図画工作でえっせらおっせら組み合わせれば、自然と良いアイデアが仕上がるはずです。

アイデアがダメならインサイトに戻る。これが鉄則です。すなわち、アイデアを評価する際は一緒に元となったインサイトも評価する、或いは事前にインサイトを評価するべきなのです。

言い換えると、インサイトは定量的に検証することで、「筋の良さ」を評価することは可能です。

インサイトの話をすると、よく「それって所詮は個人の意見でしょ? 俺たちは何百万、何千万を相手にしてるから、一人の意見なんてどうでも良い」「"ポジティブなひきこもり"がインサイトなの? 俺は当てはまらないし、そうは思わないけど」という声を聞きます。

確かにインサイトは「個人」です。もっと言えば、個人の隠れた心理を読み解いた「仮説」です。しかし、その個人の隠れた心理の仮説は、共感を呼べば呼ぶほど、「大勢が"そうそう"と頷く心理」へと昇華します。

つまりインサイトの定量的な検証とは、どれくらい共感する人がいるかを調査することを意味します。個人の意見だろうと、80%の人が「そうそう!」と思うなら、それは実は8割近くが感じていたインサイトなのです。

Twitterで物凄くRTされてるtweetが分かりやすいでしょう。例えば、何度か取材させて頂いている、AI業界ではお馴染みのマスクド・アナライズさん。

こちらのtweetは約2000回RT、約4000回いいねされています。全員が全員では無いでしょうが「そうそう!」と共感したから、これほどシェアされたのでしょう。さすがに、このtweetをもってして「それはお前1人だけの意見だろ?」とは言えません。

それと全く同じことです。


MECEなマーケティングセグメンテーションは必要?

インサイトを仕事にしていると、「私はそうは思わない」と口にする人には必ず出会います。なぜなら、実際に「そうは思わないから」なのです。

世の中には2種類(いや3種類)の人がいます。Aというインサイトに共感する人、共感しない人(そして、どちらでも無い人)です。

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20〜69歳を対象に約2000人に質問して、共感した人が60%、共感しなかった人が40%だとしたら、約1200人が共感したとなります。

だとすると、母比率の信頼区間は57.85%〜62.15%なので(本来なら精緻にウェイトバック集計を行う必要がありますが)、「あぁ、あの人は残り約40%の人なんだね」で済みます。

インサイトを起点に、日本を「共感する人」「共感しない人」でぶった斬ればいいのに、それがなかなかできないのはニーズセグメンテーションの弊害ではないでしょうか?

コトラーによると、セグメントとは「類似した欲求を共有する顧客グループ」と「マーケティング・マネジメント基本編」に記載しています。

また、僕も愛読している「マーケティング・コンセプト」では「市場細分化」と記載しています。

この2つから、市場を類似した顧客単位に細分化することを「セグメント」と理解すればいいのかな、と思います。市場という粒度ではなく、もう少し細かい粒度で見ましょう、という発想です。

では、何に基づいて「細かく」するかと言えば、マーケットセグメンテーション(人口統計区分、社会的区分など)が用いられます。その代表例がF1層(20~34歳までの女性)を対象としているフジテレビの月9枠です。

マーケットセグメンテーションの特徴は、市場をMECE(重複なく・漏れなく)に分割する点です。男性・女性、20代・30代、F1・F2など。

なぜ、そこまでMECEに分類するかと言えば「これは若者向け、女性向け」と当たりをつけて(ターゲティング)、彼らのための商品を開発する(ポジショニング)ためです。セグメンテーションは、いわば商品開発のための要件なのです。

しかし、そうなると性別や年齢、職業で細分化され、1億2000万人中、数百万数十万しか相手にしない商品が仕上がります。

コトラー自身も、後にセグメントについては微妙に言い回しを変えています。

マーケット・セグメンテーションには色々な方法がある。賢明で想像力のあるマーケターはさまざまな分類をし、新たな可能性を見出すことが可能だ。たとえば、犬の大きさや年齢ではなく、飼い主の犬に対する姿勢からドッグフード市場を分類してみてはどうだろう。
(略)
今日、企業が行うべき重要事項は、新たな消費者の洞察(インサイト)、できれば現状を変えるようなインサイトを深堀りすることである。
(略)
1960年セオドア・レビットの「ハーバード・ビジネス・レビュー」掲載の成熟産業に関する有名な論文から回想したものである。レビットは、多くの経営者が、業界が「成熟」してしまい、これ以上の成長が望めないとぼやくのを聞いた。彼は、市場が成熟しているというのは言い訳で、マーケティングの想像力の欠如を示すものだと述べている。

つまり、どんな市場においても、インサイトという切り口を見つければ成長できるとコトラーは言っているわけです。セグメントの方法の1つにインサイトが入ってきたようですね。

物凄く重要なので、原著で確認します。ドラッカー本が、上田惇生さんの日本語訳で真意がねじ曲がる事例に何度も出会っているからです。

in fact, one major pursuit today is to search for fresh customer insights ― hopefully, transformational insight.

言ってますね、インサイト。

インサイトを切り口としたセグメンテーションがもっと流行れば良いのにと思う次第です。


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