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人生観のコア、といっても大げさだと思わない。数年に一度は読み返し、再発見をしながら、ますますその思いは強くなる一方だ。 百億の昼と千億の夜著者: 光瀬 龍出版社:早川書房 発行年:1973 「百億の昼と千億の夜」―このタイトルをつぶやくだけで、ぼくは自分の根底を再確認する。 初めて読んだ中学生の自分が、どれだけこの小説を理解できていたか、まったく自信はない。 しかし、読みふけっている最中ぼくのなかには、それまで味わったことのない浮遊感が膨らみ続け、ページをめく
「にゃあ」 と呼ばれて飛び出て、ハタと気づいた。 そうか、外に出していたエサ皿は、母親<1時>だけが食べていたわけではなかったのか。鬼と化した母親とダブらないように、子どもは時間をずらしたわけだ。 やるではないか。 ためしにエサ皿を外ではなく、玄関の内側に置いてみた。 彼女は警戒し眺めていたが、腹が減ってどうしようもないのか、なかに入ってきた。ぼくが目の前で見ているにもかかわらず、しっかり食べ終えると、逃げるように去っていった。 彼女は夜8時にやってきたので
最近周りの方から、 「飼ってるんですってねー」 と言われているが、ネコは飼ってなんぞいません。 ヤツ(♂)が、ぼくの部屋に勝手に出入りしているだけです。 便宜上、現在<きゅう(仮名)>とは呼んではいるけれど、他のところでなんと呼ばれているかはわからない。 この茶白ネコとの出会いはひとことでは言い切れず、今の関係もとても微妙で説明しにくい。 しいて言うなら「知り合い」か。 ちょうど1年前の9月のいまごろ。 映画の製作も大詰め、音楽や音を整理す
蝶ネクタイをしたブレンダーはたずねてきた。 「名前は…なににしますか?」 ぼくはふるさとの海の名前をつげた。 「響灘(ひびきなだ)でお願いします」 世界にひとつしかない万年筆のインクができあがった。 万年筆のある生活をはじめて、インクにもたくさんの種類があることを知った。 定番である青や黒も淡いものから濃いものまで、さらにセピア、グリーン、黄色、赤系などなど国内外各メーカーがそれぞれ趣向をこらしたさまざまな色のインクを発売していて、ゆうに百は越えてい
◯イカ太郎&タコ美、登場。 ◯あいさつあって―― イカ「じぶん、カラオケって行く?」 タコ「あたしメチャ得意やで、歌。」 イカ「初めて聞いたで、そんなん」 タコ「南港の歌姫ゆうたら、あたしのことや」 イカ「知らんかったな」 タコ「女は秘密が多いの」 イカ「……こないだな、20代の子たちとカラオケ行ってん」 タコ「誰ッ!? 誰なのッ!?」 イカ「友だちや、ただの」 タコ「ウソ、ウソよ!?」 イカ「まあ、聞けって。でな、驚いたのがその子ら歌いまくったの
みりん、とは何ものぞ? 耳にはしたことはもちろんある。 調味料の一種だとはぼんやりわかってはいるけれど、どういうものかさっぱりわからない。 塩はしょっぱい。 砂糖は甘い。 こしょうは辛い。 酢は酸っぱい。 しょうゆは、なににかけてもよろしい。 で、 みりんとはなんぞ? インスタントラーメンぐらいしかつくれない私は、食事を自分で作る修行をはじめた。 料理をはじめたことには理由がある。 必ず来るであろう首都圏の大地震を想定したのである。災害時用の
中華鍋でブタ肉を炒めていると、かならず、あの絶叫がよみがえる。 「あたしにこれを、どうリポートしろっていうのっ!!?」 脳裏にこだまする女性リポーターの声と重なって、撮影するカメラマンの冷静な声も聞こえてくる。 「これ、放送できんの?」 料理番組ではありません。 ずいぶん前のこと、食の安全というものを見聞したく、その先進国のひとつであったデンマークへ取材に行った。 デンマークは安全管理に基づいた豚肉を生産し、日本はメキシコや中国だけでなく、デンマークから
モノがモノを引き寄せる、ってことがあるんですかね? 数年前、46年も前に亡くなった祖父の遺品がぽろりと出てきましてねえ。 それが60年代のモンブランの万年筆だった。当たり前に、中でインクが固着していて使えない。 万年というぐらいだから修理すれば使えるだろうとメーカーに持っていったら、修理代が耳を疑うほどべらぼうに高い。ふざけんな、ドイツ人。 じいちゃんの形見をあきらめるのも悔しかったので、ほうぼうにあたり、ずっと安く修理してくれるとこを見つけました。さすが息の長
毎日100万円、なにを買おうかな。 想像するだけでドキドキする。 スーパーマーケットで、今日は野菜が高いなあと嘆息しなくていい。 納豆も高い方を選べる。バターの値段も気にしなくていい。 天国にいる気分だ。最高だなあ。 そんな妄想しかできない貧乏症のぼくは、ニュースで見た 「東芝の赤字が1兆円」 という数字。 これがよくわからない。 家計簿はつけていないけれど、毎月1万円の赤字のほうが切実に迫ってくる。 1兆円という数字の規模が、ぼくの感覚にはま
自分が毎日使っている机。 その引き出しなのに、底をさらってびっくりした。 いろんなものが出てくる。 これはなんだ、と眺めたら、サザンオールスターズのキーホルダー。 最近のものであればまだしも、1987年あたりに行った所沢球場でのライブ会場で買ったもの。 30年前のものではないか。しかも未開封。 買ったことさえ、すっかり忘れていた。 このところ部屋にモノが溢れかえり、さすがに自分に嫌気が差した。 シンプルな生活に憧れる。 周りをよくよく見回せば、ホントに
「お箸はね」 中華食堂のおばさんはこともなげに云った。 「全部すり減ってなくなっちゃったのよ」 ラテン系のおばさんは太い腕を伸ばし、油淋鶏の盛られた皿のそばにナイフとフォークを置いた。 場所は中南米のコスタリカ。 パナマとの国境にほど近いジャングルに囲まれた小さな町。 長距離の移動で夜おそくになって町についたぼくたち撮影クルーは、満足に食事もとれておらず、とにかく開いているお店を探し回っていた。しかし、小さな集落の夜は早い。やっとみつけたバーガーショッ
カラスとお知り合いになりたいと熱望している、と伝えたら、ある方からこんなものを送っていただいた。 カラスは言葉を解すると聞いたからである。 カラスは頭の良い鳥である。 その日、私は買ったばかりの食材をいっぱい入れた袋をカゴに積んだ自転車を止めていた。 ちょっとその場を離れて戻ると、一羽のカラスがカゴの上に止まり、袋を物色していた。よく見ると、カラスは袋の中を覗き込むようにクチバシでかき回しておる。 その様子が妙に人間臭かったので、つい眺めてしまった。 我にか
催眠術は続く。 脳裏によみがえる前世の記憶はどんどん明確な映像になり、そのときの感情まで体の中にあふれてきた。いったい、どうなっておるのだ、自分は? 自分は今どこにいるんだ? 2000年前の地中海沿岸の小さな町にぶっ飛ばされたぼくに、催眠誘導してくれているA先生は繰り返す。 「自分が作ったものに満足ができなかったんだね?」 ぼくは大工という仕事が好きだったんだろう。 だから一番おおきな仕事であったはずの広場づくりを懸命にやったはずなのに、自分の納得できる
「自分の前世、見たくない?」 某国立大学医学部の教授をされているA先生は、さらりとおっしゃった。 そんなもの、ほんとにあるんっすか!? 「おもしろいよー」 生きていればいろんな誘いがありますが、これほどレアな誘惑はベスト3に入ります。 A先生は大学で教鞭をとられている傍ら、病院での診察をされている普通のお医者さんですが、医学を越えた知見の幅広いお話は、時間が経つのを忘れさせてくれるほどに面白い。 常識をくつがえす、思いもよらない話題は刺激的すぎて、作家に