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速さと強さと上手さを兼ね備えたローレン・ヘンプ :: P2W006 :: WSL Watch #046

"WSL Watch #045"で書いたローレン・ジェイムズ(Lauren James)に続いて、突然量産体制に入った'P2W = person to watch(注目したい人)'シリーズの第6弾を。今回は、WSLを代表する2人のローレンのもう1人、マンチェスター・シティのローレン・ヘンプ(Lauren Hemp)を。"WSL Watch #008"でWSLを熱心に観るようになった大きなキッカケはマンチェスター・シティだって書いたけど、その中でも大きな部分を占めてたのがローレン・ヘンプの存在で、「ドリブルもキックもパワーもスピードも、女性でこんなスゴイ選手がいるんだな」ってシンプルに心底ビックリさせられたんで。

パワーとスピードとテクニックを併せ持つウィンガー

プロフィール的な部分は後回しにして、とりあえず、ローレン・ヘンプのざっくりとした印象を言うなら、「チームに明確な質的優位をもたらす最上級のWG」って感じかな。

プレイの特徴を挙げると、基本的には左利きのドリブラー。パッと見た印象だとわりと横幅があるっていうか、ちょっとずんぐりとした体型なんだけど、見た目の印象とはかなり違ってシンプルにすごく速くて、フィジカル・コンタクトの強さの部分でもキックの強さの部分でもパワーもあって、それでいてドリブルのテクニックとかキックの精度と種類とかも併せ持ってて、WGポジションで仕掛けられる状態でボールを渡せばかなり高い確率でチャンスを作ってくれる。

具体的な特徴としては、ドリブル、クロス、シュートの質の高さがまずは挙げられるかな。展開によって入れ替える時間帯もあるけど、基本的にはマンチェスター・シティのWGは左利きのローレン・ヘンプと右利きのクロエ・ケリー(Chloe Kelly)が利き足サイドに立つのがデフォルトで、CFWには絶対的なストライカーのカディジャ・ショウ(Khadija Shaw)がいるから、ドリブルだったりコンビネーションだったりで縦に突破して深い位置からのクロスと、逆に右サイドからのクロスが入ってきたときにファーに詰めるのがメインのタスクになるんだけど、スピードを活かしたドリブル突破もフリー・ランニングも質が高いし、左足のクロスの球種も豊富で精度も抜群に高い。逆サイドからのクロスへの思い切りのいい飛び込みも魅力で、迫力がありつつ最後のフィニッシュの上手さも併せ持ってる。右サイドに入ったときは左足のフィニッシュも増えるけど、実は右足もわりと普通に上手くて、左サイドからのシュートも右サイドからのクロスも持ってるし、だからこそ、左足がより効果的になってる。

マンチェスター・シティのチームとしてのプレイモデルについては"WSL Watch #008"でも触れたけど、基本的にマンチェスター・シティはポジショナル・プレイをベースにしたプレイモデルがすごく整備されたチーム、マンチェスター・シティのメンズ・チームにも通じるようなイメージのチームで、戦術的にものすごく重要なのが「WGが質的優位を発揮しやすい状況をチームとしていかに再現性高く作り出すか」で、当たり前だけど、WGの選手自体に質的優位があることが大前提になってるんだけど、そんなマンチェスター・シティのプレイモデルにとっては理想的なWGって言えるんじゃないかな。男女問わず逆足サイドに立ちたがるWGが多い中で、どっちサイドでも効果的にプレイできる点もすごく貴重だし。

仕掛けの部分以外でも、例えばビルドアップの局面でハイプレスで苦しんでたらちょっと低い位置でボールを受けてそのままドリブルで相手のマークを剥がして運んでくれたりもするし、実は守備面での貢献度もものすごく高くて、ハイプレスの速さと強度はもちろん、ピンチのシーンでは戻るスプリントを使って守備陣を助けてくれることも多かったりして。

ハードでクリーンなプレイも魅力

あと、個人的にはWGとしての質の高さと同じくらい重要なローレン・ヘンプの魅力だと思ってるのが、シンプルな'激しさ'だったりもする。上に書いたような特徴だけ読むと、いわゆるテクニシャン・タイプっていうか、軽やかにプレイするようなWGをイメージしちゃうかもしれないし、ハイライトとかだけでプレイを観るとそういう印象になっても仕方ない部分もあるんだけど、実際にフルマッチを観ると上手さと同じくらい印象に残るのがデュエルの激しさとか強さ、もっと言えば、デュエルの意欲だったりして。

これは男女問わずイギリスの選手、イングランドだけじゃなくスコットランドとウェールズと北アイルランドも含めたイギリスの選手に多いと思ってるんだけど、デュエルが激しいとか強いとかってだけじゃなく、「自ら進んで(何なら嬉々として?)デュエルを挑む」っていうか、「デュエルが大好きだろ」って見えるタイプの選手がいて、ローレン・ヘンプはまさにそんな印象で。デュエルって言葉を'肉弾戦'って言い換えたほうがピッタリかもしれないけど。フィジカル・コンタクトとかデュエルとかに関しては、日本では「サッカーは身体接触が避けられないスポーツだからデュエルも頑張らなきゃいけない」みたいなことがよく言われてて、それはもちろん間違ってないし、リヴァプールのメンズ・チームで活躍してる遠藤航みたいにその部分でヨーロッパでも高い評価を得てる選手も出てきてるのは素直にスゴイと思うけど、それでも言外には「一般的には日本人選手はフィジカルは強くないから、フィジカル・コンタクトを上手く避けるための技術や戦術眼が重要で、でも、全てを避けることはどうしても不可能だからデュエルの強さも大事」みたいなニュアンスがわりと主流な感覚のような気がして、それも全然理解できるんだけど、そういう「できれば避けたいけど、全部は避けれないから仕方なく...」ってニュアンスをまるで感じさせないどころか、「身体をガツガツぶつけ合うのがサッカーだろ」って最初から思ってるとしか思えないような選手がイギリスにはけっこうな確率でいるように思えて。「あ、やっぱりサッカーってもともとはラグビーの親戚なんだ(とイギリス人は思ってるんだ)な」って思っちゃうような。別に調べたりしたわけじゃなく、たくさん試合を観てて感じただけなんだけど。しかも、そういう選手が多いだけじゃなく、スタジアムの反応とかを見ても、男女問わずサポーターもそういう選手、そういうプレイを好んでると思うし。わかりやすい例でパッと頭に浮かぶのは、アストン・ヴィラのメンズ・チームのスコットランド代表MFのジョン・マッギン(John McGinn)とか。あと、この手の選手って、ジョン・マッギンみたいにちょっとずんぐりしてて無骨なタイプが多いんだけど、例えば、セルティックのメンズ・チームのスコットランド代表MFのカラム・マクレガー(Callum McGregor)なんかは体型はわりとスマートだけどそういうタイプだと思うし、50:50のボールに飛び込んでく勢いなんかを見てるとマンチェスター・シティのメンズ・チームのイングランド代表MFのフィル・フォーデン(Phil Foden)なんかも、テクニシャンでもあるけど実は全然このタイプだと思えたり。ちょっと長くなっちゃったけど、ローレン・ヘンプはアスリート能力も高いしテクニックも優れてるけど、実はベースには本質的に泥くさいファイターって側面もあって、その部分をどの試合でも、攻撃でも守備でも惜しみなく発揮できて、タフでハードだけどダーティなプレイをするわけじゃない、いかにもイギリスのサッカー選手だってところもすごく魅力だな、と。

現代サッカーは保持とネガティヴ・トランジションと非保持とポジティヴ・トランジションの4局面(+セット・プレイの攻撃と守備の局面)で語られることが多いけど、4局面全てで力を発揮できる点こそがローレン・ヘンプって選手だってことになるのかな、短くまとめると。

代表でも主要国際大会で主力として活躍

プロフィール的な部分も押さえとくと、イングランド東部のノーフォークにあるノース・ウォルシャムって土地の出身で、マンチェスター・シティでは背番号11を付けてるFW。2000年8月7日生まれだから現在23歳ってことになる。ニックネームは'ヘンポ(Hempo)'。ポニーテールとは言えないっていうか、ほぼ頭頂部? って位置で結んだ髪も特徴なのかな。パッと見て誰だかわかりやすいって、プロのサッカー選手にとってけっこう大事だと思うんで。個人的には、マンチェスター・シティの試合を観るようになった頃、終始イケイケなクロエ・ケリーが20代前半くらいの若手で、激しいんだけど落ちついた感じで毎試合安定したパフォーマンスを見せてるローレン・ヘンプが20代後半くらいだと思ったんだけど、調べてみたら実は逆でビックリしたことをよく覚えてる。

経歴としては、2018年にブリストル・シティからマンチェスター・シティに加入してるんだけど、もともとは2008年から地元のノリッジ・シティでプレイしてて、当時はノース・ウォルシャムのU16のボーイズ・チームでもプレイしてたんだとか。16歳だった2016年にブリストル・シティに移籍して、17/18シーズンにはPFAウィメンズ・ヤング・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー(PFA Women's Young Player of the Year)も受賞してる。マンチェスター・シティ移籍後もFAカップとコンチ・カップの優勝に主力として大きく貢献してて、2019年からイングランド代表としても活躍、もう50キャップを超えてて、優勝した2022年のUEFAウィメンズ・ユーロ、準優勝だった2023年のFIFAウィメンズ・ワールド・カップ(FIFAWWC)だけじゃなく、イギリス代表として出場した2021年の東京オリンピックも含めて、主要国際大会の出場経験もすっかり豊富だったりする。

個人的には、WGが適性ポジションだとは思うけど、マンチェスター・シティでもイングランド代表ではCFW起用されることもたまにあって、特にカウンター局面なんかではスピードは脅威だし、非保局面でのハイプレスなんかも含めて、どんなポジション、どんなタスクでもハードワークしてチームに貢献してくれるタイプの選手って言えるはず。

夏の去就も話題に

ローレン・ヘンプに関しては、マンチェスター・シティとの現在の契約は今シーズン限りで、マンチェスター・シティは当然延長したいって意向を示してるけど、実はバルセロナが狙ってるって噂があって。ローレン・ヘンプはもちろん今のヨーロッパを代表するWGだから欲しいチームはたくさんあるわけで、一方のバルセロナは昨シーズンのUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグの優勝チームで、FIFAWWCで優勝したスペイン代表にも主力を数多く送り出してるって意味でも、控えめに言っても現状ではヨーロッパで最強チーム、世界でも最強チームの候補を挙げればかなり早く名前が挙がるチームであることは間違いないわけで。「バルセロナは国内リーグでは圧倒的な強さだし、そういうチームに今から行くの、ちょっと面白くないんじゃないかな?」なんて思いつつ、ローレン・ヘンプを失ったらマンチェスター・シティはもちろんWSLってリーグにとっても大きな損失なんだけど、バルセロナみたいなチームから誘われて嬉しくないってことはないだろうし、長谷川唯と入れ替わりのタイミングでイングランド代表でも共にプレイしてるキーラ・ウォルシュ(Keira Walsh)とルーシー・ブロンズ(Lucy Bronze)の2人がマンチェスター・シティからバルセロナに移籍してたりもするんで、どうなるかは今夏の大きな話題になりそう。もちろん、WSLファンとしては残って欲しいと思ってるけど。


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