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白熱したマンチェスター・ダービー :: MR001 :: WSL Watch #015

今回は'MR = match review'の第1弾、第7節のマンチェスター・ユナイテッド対マンチェスター・シティのマンチェスター・ダービーのマッチ・レヴューを。両チームとも"WSL Watch #008"と"WSL Watch #013"でそれぞれ取り上げたし、個人的に気になる点っていうか、ちょっと意外な点があった試合なんで(以下、表記は'ユナイテッド'と'シティ'で)。

ちなみに、この試合はDAZNで配信されてて、珍しく西達彦の日本語実況付きだったからこれはこれで貴重な機会だったんだけど、YouTubeでも英語実況で無料配信されてて、他の試合と比べてチャット欄に日本語コメントがかなり多かったのもちょっと面白かったかな。もちろん、アーカイブはThe FA Playerでも視聴可能。

ハイライトは両チームがそれぞれアップロードしてるんだけど、テンションの違いがちょっと味わい深かったりして。

機能しなかったユナイテッドのビルドアップ

結果は1-3でアウェイのシティの快勝で、ポイントはいろいろあったと思うんだけど、この試合に関しては非保持の質が勝負を分けたって印象かな、個人的には。"WSL Watch #013"でユナイテッドのビルドアップが整理されてきたって点を宮澤ひなたの起用法と絡めて言及したけど、この試合では、少なくともシティが3点目を取るまでは、ユナイテッドのビルドアップがシティのハイプレスをほとんど回避できてなくて。ユナイテッドのビルドアップが悪かったとも言えるし、シティのプレッシングが良かったとも言えるのかな。結果的にシティの2点目も3点目もハイプレスから生まれてるのが象徴的だと思うけど。

ユナイテッド側の要因としては、やっぱりメンバー変更が挙げられるのかな。大量得点でウェスト・ハム・ユナイテッドを粉砕した前節からスタメンが2人代わってて、起用されたのがメルヴィン・マラード(Melvine Malard)とリサ・ナルサンド(Lisa Naalsund)で、外れたのがジェイド・リヴィエール(Jayde Riviere)と宮澤ひなた。並びもけっこう変わってて、4-3-3というよりは4-2-3-1だったと思うんだけど、これまでは左WGで起用されてたリア・ガルトン(Leah Galton)が左SBに、左SBで使われてたハンナ・ブランデル(Hannah Blundell)がジェイド・リヴィエールに代わって右SBに入って、中盤はケイティ・ゼレム(Katie Zelem)とリサ・ナルサンドがCMFとして並ぶ感じ。試合後の監督コメントによると、ジェイド・リヴィエールがケガしてたからスタメンから外したらしいんだけど、ジェイド・リヴィエールと宮澤ひなたを外しちゃったら"WSL Watch #013"で触れた右サイドのローテーションを使ったビルドアップ、ジェイド・リヴィエールを高い位置に押し出して宮澤ひなたが下がって出口になる右サイドのインサイドMFとWGとSBのローテーションのカタチが使えなくなるのは当たり前だと思うんで。人選を変えたことで逆に左サイドで似たようなことをやる感じでもなかったし、特に前半はほとんどスムーズなビルドアップで前進できてなかった印象だったかな。宮澤ひなたを外した理由はよくわからないけど、憶測するなら、これまでは右肩上がりの左右非対称だったけど攻撃が持ち味のリア・ガルトンを左SBに起用することで左肩上がりになるから、バランスを取るために宮澤ひなたより守備のバランスが取れるハンナ・ブランデルを使ったってことなのかも? とか思ったり。

それでも、長めのボールを使ってセカンド・ボールを拾うカタチとかで前進できてWGにいい状態でボールを渡せたときはユナイテッドもチャンスは作れてはいたし、あまり上手くいってなかった時間に少ないチャンスから先制できたし、その後も同点にされる前までの時間帯に際どい判定があったり、ユナイテッドに勝ち筋がなかったってわけじゃなかったとは思うけど、やっぱり狙ったことが上手く機能してたとは言えないかな、正直なところ。ハイプレスでシティの保持を苦しめるシーンもほとんどなかったし。

非保持の質で主導権を握ったシティ

逆に、シティは保持よりも非保持の質で主導権を奪った印象。常套句だけど、良い守備から良い攻撃を作れた感じっていうか。前半の立ち上がりはなかなかWGにいい状態でボールを渡せなかったけど、それでも積極的なプレッシングでユナイテッドのビルドアップを阻害することで徐々にペースを掴んで、先に失点こそしちゃったけど、気落ちしないですぐに同点にできただけじゃなく逆転までできちゃったのはチームとしての地力を感じられたし。

ゴールはどれも素晴らしくて、クロエ・ケリー(Chloe Kelly)の突破からジル・ロード(Jill Roord)の素晴らしいスキルで奪った先制点、長谷川唯がユナイテッドのビルドアップのキー・プレイヤーのケイティ・ゼレムからボールを奪ったところを起点にローレン・ヘンプ(Lauren Hemp)が見事なシュートを決めた2点目、カディジャ・ショウ(Khadija Shaw)がGKへのハイプレスで奪った3点目のどれもが、ゴールまでのプロセスを見てもそこに関わった選手の名前を見ても、ほぼほぼ理想的な流れだったって言えそう。しかも、メアリー・アープス(Mary Earps)の好セーブで阻まれたけど、得点シーン以外にも決定機を何度も作れてたし。

保持の面でユナイテッドのプレスに苦しむシーンはあまりなかったと思うけど、保持の質に関しては10月の代表戦でのケガで離脱してたアレックス・グリーンウッド(Alex Greenwood)の復帰が大きかったのかな、やっぱり。頭部のケガだったんでもっと長期の離脱になることも心配されてたけど、タイミングよくダービーに間に合ってくれたのはシティに取ってすごく大きかったはず。

3点目を奪ってからはプレスの強度がやや落ちて、ユナイテッドが選手交代を使いながら圧を強めてきた流れの中で退場者を出しちゃったりしたけど、それでも選手交代で運動量を担保しながら最後はキャプテンのベテランCBのステフ・ホートン(Steph Houghton)を入れて5バックにして試合を手堅く終わらせた感じで、リーグ戦で連敗してた悪い流れを断ち切るって意味でもシティ的にはすごく大きな勝ちだったんだじゃないかな、と。

多くの記録が生まれたマンチェスター・ダービー

"WSL Watch #013"でもちょっと触れた通り、今回の試合は初めて'夢の劇場'ことオールド・トラフォードで開催されたWSLのマンチェスター・ダービーで、前売りの時点で40000枚を超えるチケットが売れてたって報じられてたんだけど、当日はけっこう強い雨だったにも関わらず43615人が入ってユナイテッドのホーム・ゲームの最多入場記録を、さらにスカイ・スポーツのWSL中継の最多視聴数の記録も更新したらしくて、ユナイテッドにとっては苦い結果にはなったけど、クラブにとってもWSLにとってもメモリアルな試合になったことは間違いなさそう。

チェルシーとアーセナルに離されないために

この試合の前の段階でユナイテッドはまだ無敗だったんだけど、既に2敗を喫してたシティはこの試合を落としてたら早くも上位争いから脱落しかねないって状況だったんで、結果的にはこの試合でシティが勝ったことで上位争いは面白くなったって言えるのかな。

やっぱり上位争いはシーズン前の予想通りチェルシーとアーセナルとシティとユナイテッドの4強が中心って感じになってきてるけど、チェルシーがちょっと抜け出しつつあって、開幕直後にちょっと躓いてたアーセナルも調子を上げてきてて、ロンドンの2チームをマンチェスターの2チームが追いかけるって構図、もっと言っちゃうと、チェルシーを独走させないために他の全チームが総力を結集してチェルシーから勝点を削ろうとするって展開になりつつある感じ。

今後のスケジュールとしては、もう1試合やった後に代表ウィークが挟まって、年内にもう2試合やって10節まで消化したタイミングでウィンター・ブレイク、年明け初戦を終えると全チームとの1巡目の対戦が終わるって感じで、"WSL Watch 001"でも書いた通り、基本的には上位チームは中位・下位との対戦でいかに取りこぼさずに上位同士の直接対決で勝点を得るかがポイントなんだけど、実はチェルシーは年明け初戦までに1巡目のアーセナル戦とユナイテッド戦を残してるんで、この直接対決は今後のリーグ戦の行方を大きく左右するはず。ちなみに、ユナイテッドが残してる前半戦の上位チームとの直接対決は年明け初戦のチェルシー戦だけ、シティは既に3試合とも消化済み、アーセナルはチェルシー戦だけ残してるんで、状況的にはシティがちょっと有利っていうか、ライバルが潰し合ってる間に勝点を積むことができればまだまだ上位に喰らいついていけそう。

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