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数にまつわるちょっと不思議な表現。

*イントロダクション「サッカーを語る言葉を整理したい。」はこちら

主に中継の実況や解説で耳にするケースが多いんだけど、「サッカーを語るときに使われてるモヤッとする言葉」に'数'にまつわるモノがある。端的にいうと「'数的同数'って、'馬から落馬'とか'温かいホット・コーヒー'みたいなモノじゃない?」「普通に'同数'でよくね?」ってことなんだけど。

'数的同数'って表現が使われるのは、おそらく'数的不利'でも'数的有利'でもない状況が多くて、わざわざ同数であることを指摘する必要があるのは、本来は1人余らせて数的有利の状況にしておきたいケース、例えば、守備のシーンで最終ラインのDFの人数が攻撃側の選手と同数になってるようなケースで使われてる。もちろん、同数になっちゃってるのか、あえて同数にしてるのかはそのチームの意図次第なんで、同数になってること自体は良いとか悪いとかではないんだけど。

'数的'と付けるのは、「数って基準に関しては」って意味なんで、'数的有利'と'数的不利'に'数的'って付ける必要があるのは理解できる。単に'有利'または'不利'だけだと人数の話に限定できないんで。体格で有利とか不利とか、速さで有利とか不利とか、高さで有利とか不利とか、経験値で有利とか不利とか、'有利'または'不利'だけならいろんな意味で使えちゃう。だから、人数の話をしてるなら'数的'って付けるのは当たり前だと思う。

ただ、'同数'の場合、最初から'数'って入ってるわけで、数の話以外にはなりようがないから、単に'同数'でいい気がする。中継にしろ記事にしろ、できるならなるべく表現の文字数は少ないほうがいいと思うんで。

蛇足だけどちょっと付随的にもうひとつ、ちょっとモヤッとする表現がある。それは'数的有利'なのか'数的優位'なのかって問題。'数的有利'に関してはわりとシンプルで、不利の対義語だから有利。ただ、それだけ。で、問題は'優位'に関して。グーグル検索で'数的優位'って打ち込むと予測キーワードとして「数的優位 数的有利 どっち」なんて表示されたりするし。おそらく、'数的優位'って表現、もっと言っちゃえば、'優位'って表現がサッカーの文脈でわりと使われるようになってきたのは2018年とか2019年くらいで、おそらくペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティの戦術を語るときに'ポジショナル・プレイ'って考え方が知られるようになって、そのベースには3つの優位性があるんだって説明がされるようになったからじゃないかって思ってる。具体的には、位置的優位性と質的優位性と量的優位性の3つ。ポジショナル・プレイ自体についてはちゃんと説明しようとすると長くなるからここでは詳しくは触れないけど。で、量的優位性の'量'っていうのは選手の人数のことなんで、'数的有利'とほぼほぼ同義だったりするから、混同されて'数的優位'って表現が生まれちゃったんじゃないかって推測できる気がする。'量的優位性'を'数的優位性'って言い換えても問題ないと思うし。もちろん、もっと考えれば「'優位'の対義語は'劣位'だろ」とか「数が多いからって有利になるとは限らない」とかって議論もあるっぽいけど、ここではそういう議論まではしなくていい気がするかな。たしかに、厳密には'数的優位'の対義語が'数的不利'だとちょっとおかしいとは思いつつも、誤解を生むような表現ではないからそれほど実害はないとも思ったり。考えること自体にはそれなりに意味はあるとは思うけど。

ちなみに、ポジショナル・プレイに関してちょっと確認してみたら、『フットボリスタ』に「サッカーを革新したチェスの概念。ポジショナルプレーという配置論」って記事と「ポジショナルプレーの実践編。選手の認知を助ける5レーン理論」って記事が載ったのが2017年の10月、『ナンバー』に「ポジショナルプレー、これが決定版。グアルディオラに直接聞いてみた。」って記事が載ったのが2018年2月なんで、広く知られるようになったのはやっぱりそのくらいの時期だったっぽい。

*分類:「曖昧な用法」で「混同されがち」で「わりと簡単に解決可能」かな。

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