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無駄、万歳。

何かに行き詰った時、必ずと言っていいほど読み直す本がある。外山滋比古の「知的創造のヒント」だ。

大抵の悩みというものは知的な創造、つまり解決のためのアイデアが思い浮かんでいないからこそ悩んでいるのだと感じる。そんな時に、タイトルの通り『知的創造のヒント』を吸収することは、自分の悩み解決方法の一つである。本文の内容もお気に入りなのだけど、この本との出会い方がこの本が私の人生の教科書たらしめる理由でもある。

この本は私の恩師である高校の英語の先生から受験期にもらったものだ。
公募推薦で今の大学を受験することを決めた私は、A4一枚の志望理由書を書かなければいけなかった。しかし、自分がなぜ大学に行きたいのかを上手く言語化できず、1日に1回志望理由書を書いては全没にして書き直すという生活を1カ月ほど続けていた。先生にはこの志望理由書の添削をしてもらっていた。

私のまとまっていない志望理由書を見て「日本が他のどんな国とも違うところ、そして日本とアメリカの似ているところはどこだと思う?」とだけコメントをくれる日もあった。受験期に限らず彼はいつでも、どんな相談にも乗ってくれて、その都度色んな話を聴かせてはくれるが、絶対に直接的な答えは教えてくれない人だった。

自分の思いを言語化できない悔しさ、考えても考えても答えが出ない苦しさにおかしくなりそうだったある日「明日までにこの本読んで感想聞かせろ」といって渡されたのが『知的創造のヒント』だった。全然考えがまとまらないまま志望理由書の締め切りが迫ってきている。こんな時に本を読んでる余裕は全くないんだけど???と半ギレしながらも1晩で全部読んだ。本を読んで得たものの一部を要約してご紹介しよう。

良いアイデアの発現は鳥が孵化する時に似ている。殻の内側にアイデアの素が生成されていること、親鳥がつついて孵化を促すような外部からの刺激があること。この両方がちょうどいいタイミングで合わさった時にのみ生み出される。アイデアを発現させるためには、そのことだけをひたすら考えていたらいいわけではない。大抵はセレンディピティ(=偶然の発見)によって孵化のタイミングを得るので、いつ親鳥につつかれてもいいようにアイデアのもとを様々な所に仕込んでおく必要がある。

『知的創造のヒント』一部要約 by すみ

頭から冷水をかけられた気分になった。
これまで私は、早く考えを孵化させないと…という焦りから、中身が十分に育っていないどころか、空っぽの卵を永遠につつき続けているようなものだったのだ。孵化するわけがない。

いつかの先生が私に投げた、日本の特殊性に関しての問いかけは私が進路を決めるきっかけとなった留学中に覚えた違和感を言語化することにつながった。先生は初めから私に、志望理由書を書かなければいけないという外側からの刺激は存在しているから、自分がどんな卵の中身を持っているのか確認しろということを教えてくれていたのだ。そして、志望理由書を書くのに一見全く関係のないこの本が私の悩みを解決する糸口になったように、何がどんなところで繋がるか分からないということを痛感した。

忙しい現代では、最短距離でゴールにたどり着くことが重要視され、無駄なものは嫌われがちだと感じる。だが、現在「無駄」だと切り捨てたものも、いつか何かのきっかけで大きな花が咲く可能性は大いにあるのだ。無駄、万歳。
つい気を抜くと効率ばかりを選んでしまいそうになるけれど、これからも積極的に無駄を謳歌していきたいと思う。

その方が、きっと人生は楽しい。


〈ここで一曲〉

トロンボーンは唄う。肩の力を抜いていきませう。

書いた人:すみ
ひとこと:苦手な夏の足音が聞こえてきて少し憂鬱な今日この頃。ずっと春だったらいいのに。

WACODES

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