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自分たちの身は自分たちで守る

【パレスチナ事業30周年 ウェブ記事・第11弾】

日本では学ぶ機会の多い「救急法」、みなさんは日常生活で使ったことがあるでしょうか?幸い私は私生活でそのような場面に遭遇したことがありません。

パレスチナでは、救急法自体を学ぶ機会はあまりないものの、必要となる機会は大変多く、今回は東エルサレムで実施していた学校保健の活動についての記事をご紹介します。

その前に、なぜパレスチナでは救急法が必要となる機会が多いのか…?
それは、日常的にイスラエルからの暴力に晒されたり、イスラエルが建設している分離壁によって保健医療サービスへのアクセスが乏しい状況だからです。

その経緯などについては、ぜひ添付の本編記事、および以下のnote記事をご参照ください。

特殊な地域「東エルサレム」


パレスチナの中でも、東エルサレムは、ヨルダン側西岸地区ともガザ地区とも少し違った特殊な状況下にあります。

下図は、ヨルダン側西岸地区の地図です。

OCHA oPt (2017)

上の地図の緑で囲われた部分(エルサレム)を拡大したものが下図になります。

OCHA oPt (2017)

少し複雑ですが、、、イスラエルはグリーンラインを無視して分離壁を建設し、物理的に東エルサレムをヨルダン側西岸地区(以下、西岸地区)から分離して、東エルサレムを実効支配しています。

左側はパレスチナ人の難民キャンプ(Shu’fat Refugee Camp)、右側はエルサレム側の入植地、
そしてその間を分ける分離壁(高さは8mほどにもなる)

分離壁によってコミュニティは分断され、分離壁の西側と東側の行き来には、イスラエルが作った検問所を通らなくてはいけません。そして、西岸地区の人々がその検問所を通るには、イスラエルからの許可証が必要になりますが、すべての人がその許可証をもらえるわけではなく、且つ許可証があっても通してもらえないこともあります。

また、西岸地区の医療状況はとても良いとは言えず、重病・重症の場合は許可証を取得し、エルサレム側の病院に行かなければなりません。

子どもたちが自分の身を自分で守るため

分離壁の西岸側のとある学校長と話していた時、子どもたちを取り巻く環境についてこんなことを言っていました。

「学校が終わる時間までは、なんとしても子どもたちを学校から出してはいけないんです。それは、教育の面だけでなく、イスラエル兵から子どもたちを守るためでもあるのです。子どもたちは何もわからず、イスラエル兵に向かって石を投げたりすることがあり、反対に暴力を受けてけがをしたり、捕まってしまう可能性があります。また、イスラエル兵は学校にも催涙弾などを撃ってくることがあり、授業が中断されることも少なくありません。ここは救急車もなかなか来られません。だから、子どもたちが救急法を学ぶことは自分たち自身を守るためにも、非常に重要なのです。そして、私たち教師にとっても、子どもたちを守るために役立っています。」

この活動では、現地のパートナー団体(PMRS)と協働し、分離壁のエルサレム側と西岸側両方の地域の中・高学校で、学校保健委員会を設立し、そこに所属する生徒たちに救急法をはじめ、健康に関する講習を実施し、その生徒たちが他の生徒たちに知識を伝達したり、地域や学校の保健活動を行う補助などを行いました。

学校を卒業した後、PMRSの医療ボランティアとして、地域でイベントや、デモ、衝突があった際に活躍している生徒もいます。後者の二つに関しては嬉しい活躍とは言えませんが、地域の人たちを守る一員として誇りをもって活動している姿はとても頼もしく感じます。本人たちがけがをしないことを祈るばかりです。

以下の添付の記事の最後には、おすすめのパレスチナ映画のご紹介がありますので、ご関心があればぜひ観てみてください。


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