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【韓国ドラマのすごさ】「ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です」は、<エンタメ>と<社会性>の絶妙なコラボ(その1)

<エンタメ>は、<社会性>の苦み辛みに、甘さとコクを出す隠し味?

娯楽の<エンタメ>と現実をリアルに映しだす<社会性>は、映像において両立するか――これは永遠に続くテーマではないかと思っているところに、こんな新聞コラムが目に飛び込んできた。
 
高視聴率で突っ走るNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」の作者、吉田恵里香さんの<エンタメと社会性の両立>についてのインタビュー記事だ。

「エンターテインメントと社会性は両立すると思っています。というより、切っても切れないものです。どんな作品も作り手の思想がのるもので、思想がないようにみえるものは『思想がない』という思想です。」

(2024/05/25朝日新聞「多事奏論」/聞き手高橋純子編集委員)

「無思想の思想」という言葉には、久しぶりに哲学的なものに出会ったような気がして嬉しかったが、たとえば、料理でいうと、<エンタメ>は甘味を出す<砂糖>であり、苦味や辛味を出す<社会性>をおいしく舌にのせる役割を果たし、ときに<砂糖>は料理全体にコクやまろやかさを出すための隠し味としても使われるということなのだと勝手に解釈している。

<遺品>が物語る死者が抱えていた苦悩

その<エンタメ><社会性>の配分が絶妙だと思ったのは、ネットフリックスで配信中の韓国ドラマ「ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です」(2021年、全10話)。

https://www.netflix.com/jp/title/80990381

このドラマは、副題にあるように、元消防士(「トンイ」のチ・ジニ)が遺棄されていた赤ん坊を養子として育て上げ、やがてそのアスペルガー症候群の息子(「愛の不時着」北朝鮮兵士役のタン・ジュンサン)と二人で「ムーブ・トゥ・ヘブン」という遺品整理会社を運営し、亡くなった人の家屋やアパートを掃除して原状回復するのを生業としていた。
 
死者たちのなかには、金持ちの家で謎の死を遂げたというケースもあるが、たいがいはアパートで孤独死したり、末期がんの夫婦が心中したりといった悲劇的なケースが多く、遺族などに遺品を送り届ける過程で、死者が生前に抱えていた貧困、差別、LGBTなどによる苦悩が明らかにされていく。
 
このドラマには、韓ドラ定番のあからさまな復讐劇はないにしても、「ムーブ・トゥ・ヘブン」の代表者である父親(「トンイ」のチ・ジニ)が急死したあと、児童養護施設で育てられたその弟(「シグナル」「復讐代行人~模範タクシー」のイ・ジェフン)が刑務所から出所し、叔父として息子(「愛の不時着」のタン・ジュンサン)の後見人に指名されたあたりから、復讐のかすかな音色がしてくる。
 
音色といえば……、遺品整理会社「ムーブ・トゥ・ヘブン」の息子(タン・ジュンサン)が死者の遺品整理にあたる前、必ず黙とうを捧げて名を名乗ったあと、マスクではなくヘッドホンをする。
 
そのヘッドホンから洩れてくるクラッシック音楽が、バッハの第一変奏曲だったりエリック・サティのジムノペディだったりして、鎮魂の音楽として利いている。
 
さすがクラシック音楽好きの韓国だと思う。

(つづく)


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