日本の障害者福祉予算は高いのか2/2(国家予算と実際)#18
前回に引き続き、日本の障害者福祉予算は高いのかというテーマで書いていきます。前回は、障害者施策の変遷をざっくり辿っておりますので、ぜひ先にお読みください。
この記事の結論から先にお伝えしますと、障害者関係の予算は高くないが私の結論です。その理由について、現状の整理と合わせてお伝えしていきます。
〇国家予算から
まず日本の一般会計予算から見ていきます。こちらは令和5年のデータです。一年間の税金の使い道が左側(青)で、私たちの税金収入が右側(赤)です。年度当初の予算ですので、さらに補正予算が組まれていく形になります。歳出合計は114兆3,812億円。そのうち福祉に関する部分(社会保障関係費)は36兆8,889億円で全体の3割ちょっとを占めています。
日本の社会保障費ってこんなもんかーと思っていたのが昨年の私。。。
勘違いも甚だしく、税金と社会保険料は2本立てになっていることを知った時には目を丸くしました。 #制度分かりづらっ
むしろ社会保障費のベースラインは社会保険料によって賄われています。これを社会保障給付費といいますが、その額なんと134兆3,000億円。国民と会社から集められた社会保険料だけではカバーできず、税金も投入されています。なので、日本の社会支出総合計は、社会保障給付費134兆円と社会保障関係費を引いた歳出額約80兆円を足した210兆円超えの規模になっています。
以下は社会保障給付費の内訳です。年金と医療が圧倒的な割合をしめています。ほぼほぼ高齢者にあてがわれている現実。日本の社会保険は賦課方式といって、現役世代の負担によって受給対象者を支える仕組みになっています。そのあたりについては以前も記事にしましたのでご覧ください。
障害福祉に関する部分は、年金・医療・福祉その他のうちの福祉その他に分類されます。福祉その他は、社会保障給付費全体の約24%になりますね。そのうち、障害者福祉にはどのくらいの予算が割かれているのか。令和5年度の予算は2兆157億円となっています。2022年の日本の名目GDPが562.3兆円でしたので、障害福祉予算の対GDP比は0.38%となります。以下は2008年のOECD諸国との障害関係支出の比較です。データとしては古いものになるのですが、大枠は変わっていないのが実態。また、国内においては公的機関が実施した障害者の実態を表す統計は無く、国連の障害者権利委員会からも勧告されている状態です。
北欧諸国と比べると明らかに日本の障害関係支出は低いわけですが、障害者の定義が異なっていることや実態把握の程度の差もあるので、このデータが実情を正確に表しているわけではありません。障害者数の対人口比で見ても、日本は推定4.4%。他国は20%を超えていたりするので、日本は障害者が少ないから予算が低いのも当たり前と国は言っていたりします。日本は推定です。どこまでを障害者として認定するのかについても、日本は障害の程度を機能障害から見ていく医学モデルが土台にあるので数字としては少なく、認定要件から漏れている層も多くいます。そもそも同じ人間であるという前提で考えれば、障害の割合にこんなにも差が生まれるなんて言うことはないのです。日本の障害者観や歴史が算出データに大きく影響しています。
〇財政審の資料から
2023年11月1日の財務省(財政制度等審議会)の資料では、社会保障が取り上げられており、今後の方向性が指摘されています。本来社会保障は厚生労働省が管轄なのですが…財務省ががっつりとコミットしています。
この資料の中で障害者施策の関係については、
障害福祉サービス費が増え続けている
サービス提供事業者は収益をしっかり得ている(民間企業が多く参入)
という点についてがかなり強調され、だからコストカットだよねと言わんばかりの資料だなという印象を持ちました。
内閣府の令和元年の資料によると、国内の障害者手帳の捕捉率(対象者に対する所持者の割合)は以下となっています。精神障害者は明記無し。
身体障害者手帳を所持している者の捕捉率:54.2%
療育手帳を所持している者の捕捉率:28.9%
障害年金を受給している者の捕捉率:52.9%
これは障害者手帳の所持に関してで、障害福祉サービスは必ずしも手帳所持の必要はなく、障害状態に応じた利用が可能となっています。障害者手帳の所持ですらまだ半数程度。福祉サービスの対象者になる場合でも実際に支援に繋がっている人はまだまだ一部であると考えると、年々障害関係支出が増えていくのも当然の姿です。
〇現場から
▽福祉はサービス業へ
実際に福祉施設で勤めている肌感でお伝えします。まず言えることは儲かる事業形態ではないということ。確かに、障害者総合支援法に則って経営>ケアを軸に事業運営をしていけば、多くの利用者を受け入れ回転率を上げていくことで報酬費(補助金)を事業所に入れることができます。現状は、通所後の滞在時間はほとんど適用がない状態ですので、一度来所して記録さえとってあれば報酬費の請求が可能です。障害者自立支援法で報酬費の日額払い制が導入されたり、民間企業の参入が条件緩和によって可能となってからは、企業が運営する事業所からの営業が増えています。まあ、ビジネスとして考えれば営業は当然であるし、補助金におんぶにだっこの現状は健康的ではないので分からなくもないですが…これまでの福祉=公的支援やボランタリーの時代は当に過ぎ、サービス業に組み込まれてしまったのです。
▽福祉の価値転換?!
現場の実態は、どこもかしこも人手不足やお金不足。職員は募集しても来ないし、退職者も増えています。一会社の努力のみでは対処しきれない状況に来ています。職員の処遇改善手当など単発的に出されてはいますが、根本の改善には至っていません。そもそもが障害福祉サービスを運用し、事業所経営は報酬費に依拠している状態です。補助金がなければ運営ができないのです。圧倒的に支援が足りない時代から、数ある選択肢から選ばれていく時代に変わったのだと思います。福祉事業所の在り方も、福祉はボランタリーだとか国が責任もってやれというマインドから脱却して、補助金以外の収益を得る仕組みを作っていく時代がやってきたのです。
〇まとめ
2回に渡ってお送りしてきました。障害者関係の予算はカットカットの流れですが、まだまだ必要としている人に届いていないのが実態です。利用者数が増えれば当然に必要な予算も増えていきます。先天性疾患や事故により障害状態になるなど、本人の責任ではどうにもできないことも今は本人が負担をして支援を受ける構造になっています。社会はマジョリティが作っています。疾病や機能障害によりその社会に合わない場合、それは障害者と見られてしまう。本人に責任を押し付けるのが今の日本社会です。そもそも見向きもされません。ですが、その姿勢は巡り巡って自分に返ってくると思っています。無関心でいることの怖さは確かにあり、いつ自分がどうなるか分からない現代において、自分が当事者になった時に初めて知る現実はとても悲惨です。分かっていれば…とか、誰も教えてくれなかったとならないように、今からでも知ってほしいと思います。
弱者を排除する社会はとても脆い。日本の障害者関係の予算から考える回でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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