見出し画像

介護・福祉職の給料が上がらないのは会社ではなく仕組みの問題#47

世の中賃上げムードですが、その流れに乗れない職種もあります。その代表格が介護・福祉・保育の施設職員です。日経平均株価は爆上がり中だし、時期春闘では給料のベースアップ(通称:ベア)が大企業中心に行われそうな雰囲気ですよね。でも福祉分野はそれに引っ張られる感じはありません。なぜなのでしょうか。解説していきたいと思います。

一言で言うと、人件費にかかわる仕組みが異なるからです。では、その中身について書いていきます。


○職員の給料は税金で支払われている

まずは福祉職員の給料についての現状把握からしていきます。大前提、福祉職員の給料は税金で賄われています。公務員ではありませんが、日本の社会保障サービスの利用実績に応じて、国から事業所に報酬費(補助金)が支払われます。つまり、入り(収入)だけ考えれば、利用者を増やせば増やすほど事業者に報酬費が支払われるというものになっています。

▽他産業との比較

きょうされんという団体が昨年、職員不足実態調査を行い、その報告が出されました。詳細は以下のリンクからご覧ください。

産業別の賃金比較(きょうされん)

こちらは月収表記となっています。なので、ここから社会保険料や税などが引かれることになります。あくまでも平均です。偏った見方にはご注意くださいね。きょうされんは障害者団体ですので、障害者施設職員の給料の低い実態を示したいためにこうして抽出したわけです。そうすると一気にどの産業よりも低い水準になることが分かりました。

ちなみに、2023年の日本全体の年収平均は約458万円であることが国税庁による「令和4年分 民間給与実態統計調査」で分かりました。そこと比較すると、たとえ賞与を上乗せしたとしても平均どころか年収400万円に満たない福祉職が多いのです。

▽福祉は措置から契約へ転換

以前、福祉制度の歴史にふれた記事を書きました。変遷の大枠はそちらも合わせてご覧ください。

これまでは都道府県知事が権限を有し、支援の必要がある人に対して公費で支援を提供してきました。国や自治体の負担で行われ、支援を受ける人の自己負担はありませんでした。この根底には「福祉」という概念が強くあると思います。

福祉の語源は、英語の"welfare"であり、"well"は「こころよい」「すこやかな」を、"fare"は「生きる」を意味し、合わさって「よりよく生きる」という意味を持ちます。

これまでは公的扶助として国の責任をもって実行されてきました。もともとは戦争で負傷して障害を負った人に対して整備された身体障害者福祉法が日本の福祉法の走りです。国が責任をもって…の文脈も理解できます。

とはいうものの、段々と支援対象者が膨れ上がり、支援のニーズや要求(もっとこういう支援をしてほしい)も幅広くなっていき、財政面や人材面において持続性の確保ができなくなっていきます。

介護保険制度の施行も相まって、必要なサービスは自分で選び、それにかかる費用は一部負担してもらい、みんなで支援制度を持続させていこうという流れが生まれました。ですが、福祉は保険制度ではなく税金で運用されています。支援を必要としている人や福祉団体が猛烈に反対運動をおこし、公的責任の後退だと声を上げました。

▽福祉系職員の給料の出所

さて、我々福祉の仕事をしている職員の給料は税金で賄われていると伝えてきましたが、そのお金の流れについて解説していきます。
現在の法律、障害分野だと障害者総合支援法、児童だと児童福祉法、高齢者だと介護保険法です。これらの法律を根拠として、障害者施設や保育所や高齢者施設が設置されています。それ以前はいわゆる箱払いと言われる報酬支払い制度で、運営している事業内容などによって年間の報酬額が決定し、まとまって支払われていました。その活用方法は事業所が決めることができていました。人件費などの固定費もここから支払われます。

一方、現在の法律になってからは、福祉=サービスとなり、利用実績に合わせて国から報酬費が支払われます。例えば通所系の施設では、来たか来ないかで支払いの有無が変わります。欠席時に連絡を取り合い、体調を把握したり相談に応じたりしたとしても、来所していないということでそれらは支援にカウントされず無償提供になります(欠席時加算も上限の範囲内で付けられます)。

利用の有無で報酬費の支払いが決まるので、そうなると通所が安定しない人を切り捨てる事業者も出てきました。また、就労系の事業所では工賃(給料)の平均月額や平均労働時間などによって報酬費の基準額が決まる仕組みなので、実績を下げる要因は排除されるということも起こっています。

そうなると、これまでの話から分かるように、施設に入る報酬費を前提とした運営にならざるを得ず、ケアを中心とした運営ではなく経営思考になってしまうのです。そこから悪循環が生まれ、利用者が来ない→職員に十分な給料が払えない→人材不足となってしまいます。

○エッセンシャルワーカーの必要度

コロナ禍で話題になったエッセンシャルワーカー。それまではあまり聞き馴染みのない言葉でした。人々の暮らしを支える仕事をする人がエッセンシャルワーカーです。
ですが、現状ではこれらの仕事は公共サービスであることが多く、利益を上げて給料に反映させるという世界線には乗ることが困難です。

また、成果が数値化しにくいという側面もあるため、適切な評価が難しいところ。この日本が公的支援をどこまで考えているのかが、エッセンシャルワーカーの給料水準にも反映されると感じています。エッセンシャルワーカーの待遇=日本の福祉の充実度なのかもしれません。

○今後どうなる?

たとえ予算が投入されたとしても、現状は人手不足。さらには、民間参入によって専門性の質の確保が難しくなっています。当面の策としては、業務の効率化を図って対人の支援に人手を割くことです。バリバリの福祉畑にいるとアナログ思考に陥りやすいのですが、システムで解決できる記録や提出物などの請求事務は効率化します。不要な会議は削減し、リソースを絞り出していく必要があります。

福祉は今後さらに二極化していくと思われます。一方は最低限の援助、もう一方は医療でいう自由診療のようなもので利用料を自己負担して質の高い支援を受けることです。
そして、最低限の水準はどんどん詰められていき公費は削減。お金を払える層はどんどん良いものを選ぶことができるでしょう。儲かると思うと民間企業系の福祉事業者はそちらにシフトしていくでしょう。そんな未来が近付いていると感じます。


福祉系職員の給料が上がらない仕組みについてまとめてきましたが、いかがでしょうか。
普段かかわりがないととても分かりにくいと思います。おおまかにでも伝わっていたら嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございます。
それではまた。ゆうちゃんでした。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは発信者としての学びのために使わせていただきます!