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ワクチン哀歌

 職場の同僚。
 人懐っこくて、おしゃべり好きなアラフォー男=おのこ。お父さんとお兄さんは、すでに他界なさっていて、お母さんと、ふたり暮らし……。

 彼の、今日の”ぼやき”は、聞いていてツラかった。

「コロナワクチン、もう3回も射ったんですけど、2回でやめとけば良かったと思ってるんですよ。3回目は熱が出ちゃって。2回目までは熱、出なかったんですけどね。うちの母親が仕事してて、職場で感染者とか出ちゃうと大変なんで、感染できないんで、俺に絶対に射てって言うんですよ。俺は2回で充分だと思ったのに、母親が勝手に予約しちゃうんですよね。”いついつに決めたから、射ちなさい”って。3回目もそうだったんですよ。もうワクチン、射ちたくないんですよね。こんなに射っちゃって、だいじょぶなのって。そしたら、3回目は熱が出ちゃって。もうイヤなんですよ、ワクチン射つの。でもね、そろそろ、うちの母親、”4回目予約したから、この日に予約しといたから、射ちなさい”って、きっと言うんだよな。絶対、言うんだよな。しょうがないんですけどね、うちの母親、仕事してて、職場で感染者が出ちゃうと面倒だからって、自分が感染したくないから、俺にもワクチン射てって言うんですよ。でもねえ、なんでワクチン、射たなきゃいけないのって、思うんですよ。もう大丈夫でしょ、オミクロンとか、ぜんぜん平気でしょ、こんなの罹ったって。オミクロンって、風邪と同じでしょ。ワクチン、要らないっすよね。……それにさあ、なんで皆んな、いつまでもマスクとかしてるんでしょうね。かたちだけじゃないですか。なにが第8波だよ。ハハハ。第8波とか言って、馬鹿みたいでしょ、いつまでやるんでしょうね、こんなこと」

 彼の言の葉を受けて、私は、
「あなたのお家のことだから、私は強くは言えないけど、自分の気持ちに従うのが一番いいと思うよ。お母さんの気持ちもあるんだろうけど、一番大事なのは、あなた自身がどうしたいか、だからね。このワクチンは危ないから、私は射たないよ。あなたも、もう射たなくていいと思うよ」
……と、この程度のことを言うのが精一杯だった。

 むずかしいね。
 Covid-ワクチンが如何に危険か、どうしてこんなものを射たされているのか、事の真相を説いて聞かせる必要は確かにあるのだが、この、私の職場の同僚くんの人生は、父と兄を亡くし、母と彼と二人だけになってしまった、彼自身の境遇をベースにして成り立っているのだから、私には、あれこれと、私の意想を基準にして彼に指図する資格はないのだ。彼の人生は、彼の基準に従って成り立っているのだから。

 ワクチンを
  射つも射たぬも
   おのれなり
    思うに任せ
     良きに計らえ
        ……十樂うた選

 ただ、この、私の職場の同僚くんは、自らの主観で、Covid-ワクチンをこれ以上は射ちたくないし、射つ意味もないし、と、私が解説するまでもなく、問題の本質をしっかり理解しているにも関わらず、自分の意思に反して、お母さんの都合で、斯様に、かなり強引な運びになっていることについては、年齢も約40歳と、もはや一人前の大人なのだから、もっと親離れをしても良いのではないかと、正直なところ、そう思うけどね。