指先から恋
ずっと触れたかった。その指に。
やっと叶ったその願いを、それ以上は望まないように、大切に胸にしまった。これでいい。これでいいのだ。
愛しいと思うのはその人の存在ではなく、その人とわたしの間に流れる時間と空気だ。彼そのものを愛しいと思ってしまえば、わたしは不幸せの音を聞くことになる。
どうしてこんな大人になってしまったんだろう。向こう見ずな恋愛はもうできない。かと言って、打算的な恋愛もまたできない。わたしのことを好いてくれる人のことを、わたしは好きにはなれなかった。
祈りは届かないものだと思っている。なのになぜわたしは祈るのだろう。誰かのために祈るふりをして、自分のために祈っているのだとすれば、わたしはなんて利己的な人間なのだろう。信じてもいない神に、わたしは何を託しているのだろう。
誰かにとって、優しい人間になりたかった。
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