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植田りょうたろうの「はなちゃんと、世界のかたち」という大傑作について

知り合いの編集者さんから紹介してもらって「はなちゃんと、世界のかたち」を読んだ。息が浅くなるくらい没入した。

今作は登場人物が固定の短編集である。ちびまる子ちゃんとかこち亀を想像すると、分かりやすいでしょう。主人公の活発で好奇心旺盛な はなちゃん が小学生のころにさまざまなものに触れて成長していく様を描いている。

あ〜小学生のころってこんなんだったなぁ

「雨の日に長靴に雨水をいっぱいに入れて走ると楽しい」という台詞から始まる。やっていたよ。ずっぽずっぽと音がするのよね。水圧で親指がきゅーっとするのよね。皮がふやけてむにむにするのよね。

ラッパ傘にして雨水を溜めてから、まわりに水を撒き散らすという自爆テロ行為もしてたなぁ……。ハマりすぎて超遅刻して、雨水垂らしつつ教室の後ろの扉からソローっと入って、先生に怒られて……みたいな記憶を思い出す。台風の日は特にテンションが上がった。

今作ではこうした「やってたなぁ」というリアルな描写がいっぱいある。作者の植田先生がおいくつなのかは分からない。お子さんがいらっしゃるのかしら。いや、まだ10歳なのか……?というほどの描写力だ。子どもって大人よりもずーっと考えている。ずっと何かの想像とか妄想をしている。

卓越した画力が実現する子どもの疾走感

そして子どもは大人よりも疾い。これはもう早いでも速いでもなく「疾い」。何をするにも走っていく。とにかく夢中で生きてるのだ。その疾走感を描くのが異様に上手い。そういえば、以前、京都アニメーションの「日常」のみおの疾走シーンでの作画には舌を巻いたものだ。

それを彷彿とさせる線の上手さ。びっくりするほどの躍動感。卓球のシーンなんかもう松本大洋も真っ青だ。インパルスが爆走してる。小さな勝負でもとにかく一生懸命で、負けず嫌いで、汗まみれの泥まみれで、そんな姿をきっちりと描いている。

植田先生はpixivで作品を公開しているが、どれもマンガ的というより絵画的だ。ドローイングちっくで絵に対する愛情を感じる。

いや〜上手い。とにかく上手い。そら電池もなくなるわ。こんな良い絵を無料で見るんだもん。スマホも息切れして紅潮するわ。がんばってくれてありがとう。

めちゃくちゃ画集がほしい。この画力があるからこそ、漫画に没入するし、あのエネルギーを描けるのだろう。

日本初の青年漫画雑誌・ガロの系譜

とはいえ、これはもう仕方がないが、好みもあるだろう。「爆裂スポコン努力血と汗と涙の結晶系マンガ」が好きな人はあんまり好きじゃないかもしれない。ひとえに私は日本初の青年漫画誌・ガロが好きなので、この作品にもハマったわけだ。めっちゃ個人的ですよ?でもこのマンガは私のなかで半自動的にガロ系に分類された。

つまり「はなちゃんと、世界のかたち」はただの「田舎ノスタルジー系大人泣かせマンガ」ではない。きちんと攻めている。途中で幻想的な表現があったり、少しホラーじみた展開を挟んだりしているわけだ。日常のなかに不思議がある。そこにシュールが生まれる。あれは子どもならではの想像の世界なのだろうか。

さらに背景の緻密な描き込み。それがつげ義春チックであり、ますむらひろし的であり、佐々木マキを感じた。

panpanyaとの類似点

私はpanpanyaも好きなんです。全巻集めて、IRUKA Tシャツも買ったくらい。

なんかね。ちょっと似てるんですよ。絵のテイストとか、おかしなことをまともに遂行するキャラクターとか。やっぱりpanpanyaもガロっぽい気がするんすよね……と思ったのでした。いやしかし「はなちゃんと世界のかたち」は本当におもしろいマンガでしたので、編集者の方に感謝感激、という感じです。好きなものについて夢中で語る、こういう時間を大切にしたいという1日でした。

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