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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#イラスト

メソポタミア美術とは? シュメール人・アッシリア人の表現力がすさまじい件

さて、大学の真剣な講義ってのは、意外と頭に残んないもんだ。専門的な内容はあんま話さずに、高田純次バリのテキトー加減でフラフラしゃべってたアゴヒゲMAXのおじいちゃん先生のほうが、意外と記憶に残っているのである。どうもこんにちは、キアヌ・リーブスです。ははは違うかぁ、ははは。 専門的な分野の話というのは、ちょっとユーモアがなけりゃ耳に入ってこないんだと思う。少なくとも集中力のない私はそうでした。 そんなテキトー加減で西洋美術史をお伝えしていく所存のこの連載。ぜひノートとペン

原始美術ってなに? オーリニャック、ラスコー、アルタミラなどの洞窟絵画と造形の特徴

と、まぁいきなり酔っ払ってみましたが、私は真剣に「西洋美術って難しく書かれすぎじゃねぇか」と思っとりますよ。なんかもう「大谷翔平ばりにワインドアップで振りかぶって書きました!」みたいなね。重い。もうどの書籍も官僚がしゃべっているような文章で、イラストたっぷりのかわいい本でも、ちょっと小難しく見えちゃいますよね。ちいかわの横で、岸田首相がしゃべってんですよね。 この連載ではもっとおしゃべりするような感覚で、でもしっかり内容がある感じでやっていきます。「大学の講義」というよりは

Chim↑Pomの展覧会がマジでやばかった|「美術館」の概念をひっくり返す回顧展

2022年2、3月は六本木ヒルズ ミュージアムが激熱です。東京シティビューでは「楳図かずお大美術展」、森美術館では「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が開催中。いやもう完全にヤバい。ハイカルチャー貴族が住むヒルズが、名古屋のヴィレヴァンみたいになってる。絶対に地上52階でやることじゃない。もう最高なんですよね。 もうこんなもん行くしかないでしょう。とはへたたいうことで、今回は後者の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に行ってきたので、現地の様子をレポートします。

「フランダースの犬」でルーベンスのキリスト画が描かれた理由とは

『フランダースの犬』と『火垂るの墓』は、ちょっとマジで発禁にしてほしい。いや子どものころは「なにこれ、かわいそう……」って、そんだけだった。しかし大人になってから観ると、救いがなすぎてバウンスビートくらい動悸がしてオロオロ泣く。18才以上禁止とかにしてほしい。O-18。オーバー18歳だこんな作品は、やめろ。観せるなもう(泣)。 そんなフランダースの犬といえば、やっぱり最終回。主人公のネロと愛犬のパトラッシュが寄り添ってルーベンスの「キリスト昇架」と「キリスト降架」を観て「な

「頽廃芸術=革新性」という観点で当時のアーティストを褒め称えたい

ヒトラーといえば、そりゃもう血も涙もない独裁者だ。第一次世界大戦後、1920年ごろからドイツの政権を握り、1933年から1945年までナチスドイツを指揮した。 彼はユダヤ出身やスラブ出身といった、東洋系の人種の存在を根底から否定したのは有名だ。そのざっくりした理由は「ドイツ民族以外を排除したいから」というもの。「我がワイマール(北方)民族こそ至高」という考えがあり、そぐわないものはもう徹底して排除するんですね。ただ「なんで差別主義者になったのか」はあんまり分かってない。

ピエト・モンドリアンとは|抽象絵画を「赤・青・黄」で極めた本物の画家

さて、早速前の記事を紹介をするのも恐縮なんだが、以前、カンディンスキーという画家の話をたっぷりと書きました。 「もしかしたら本当の意味でのアートはカンディンスキーから始まったのかもしれない」という話です。抽象絵画は、今やほとんど見なくなってしまった絶滅危惧種の1つでしょう。それはもしかしたら分かりやすい作品が求められるからかもしれない。たしかに抽象絵画は「何を描きたいのか」が、めちゃ分かりにくい。これはもう言い切っていいと思う。 でもキャッチーさと引き換えに、観ている人の

「アングルvsドラクロワ」という西洋美術史最大のライバル関係について

西洋美術史は思想のぶつかり合いの歴史でもある。「アート」という答えのないテーマを各々が必死に追い求めるのだから、そりゃ意見がぶつかり放題、火花散り放題なんですね。 「すげぇの描けたから見てくれ!」と作品を発表すると、必ず誰かが反論を唱える。しかしその反論にも反論があり、反論の反論にも反論があり……ともう止まらない。 金子みすゞの「みんな違ってみんないい」みたいな多様性を認める人間はあまりおらず、各々が哲学という盾で身を守りながら、表現という剣でバチバチにやり合う。だからこ

エドヴァルド・ムンクとは|傷つくほどに名作を生む、「死と不安」の画家

「知ってる?『ムンクの叫び』じゃなくて、ムンクの『叫び』なんだよ〜」。これは誰もが人生で20回くらい言われるトリビアだ。 それほど「叫び」という作品は有名な1枚です。絶望的な顔をあんなに臨場感を持って描けるのは、楳図かずおかムンクくらいなんじゃないか。「叫び」が世界で広く認知されているため、美術好きでなくとも、ムンクという名前は知っている。インパクト抜群の作品だ。 しかし「叫び」ばかりが先行してしまって、ムンクという画家にスポットライトが当たっていない感は否めない。もはや

グスタフ・クリムトとは|ウィーンの芸術をアップデートした「優等生の反撃」について

オーストリア・ウィーンの画家、グスタフ・クリムト。彼の絵に取り憑かれる国内美術ファンは、日本でもめっちゃ多い。個人的にも大好きな画家で、彼の作品のエコバッグ持ってます。かわいくない? クリムトの絵を観ると、妙な感覚になる。「めっちゃ綺麗〜♪」と思う一方で「怖いな〜、なんやこの妖しさは」と不安になったり「杉本彩越えのエロさやな」と見惚れたりする。 それほどまでに、1枚の絵から写実、幻想、耽美、抽象、ロマンなど、あらゆる影響を感じるのがクリムトの絵だ。それらが合わさって、完全

「ペスト下の死神」と「コロナ下のアマビエ」|シンボルで比較する人の思考

全国的に緊急事態宣言も明けて、ようやく日常が戻ってきたのを感じる。まだまだ油断はできないけれど。ワクチンもようやく完成した。 しかしまぁ長かった……。2020年の1月からもう15ヶ月以上になる。治療法のない病がこんなに怖いものだとは思わんよ。去年の1月は、こんなことになるなんて誰も思ってなかったでしょう。 そういえば西洋美術において「不治の病」といえば「ペスト」だろう。ペストは全部で3回のパンデミックがあったが、ヨーロッパでは14世紀ごろに流行り、人口の約1/3が亡くなっ

「アカデミー」とは|200年以上も西洋絵画のメインストリームだった美術学校

西洋美術史を語るうえで、やたらと登場するのが「アカデミー」という存在。歴史上の画家たちは、この組織に良くも悪くも振り回されてきた。 このマガジンでも画家の人生を振り返るうえで何度か触れたが、よく考えると「そもそもアカデミーってなんだ」については詳しく書いていませんでした。しかしアカデミーという存在は西洋美術史において、200年以上もメインストリームとして君臨し続けてきた存在。「美術のルール」を定めて画家を選定し続けてきた機関である。 今回はそんな「アカデミー」について一緒

アンリ・ルソーとは|40歳を超えて独学で画家になった天然の才能

画家とは絵に魂を捧げなければいけないのか。血や骨を削って、必死に一枚の絵と向き合う必要があるのか。画業をやるうえで絵だけに集中をするべきなのか? 私はそんなスポコンはいらないと思う。noteというプラットフォームの登場はまさに自由な世の中を表している。誰でも作品を自由に投稿でき、不意に発見されてアーティストとして世間に認知される。才能が埋もれない心底素晴らしい世界だ。 作品を投稿している皆さんのなかにも、普段は会社員や公務員として厚生年金を支払いながらも、休日は作品づくり

ワシリー・カンディンスキーとは|「純粋な芸術」を生んだ真のアーティスト

ふとnoteを見てイラスト、二次創作の多さに驚いた。もちろんnoteだけではない。Twitterでもインスタでも、とんでもない絵師さんの数がいて、素敵な作品をあげてくれる。素敵な世の中だ。 いっぽうで、抽象絵画を見ることはあまりなくなった。もしかしたら抽象絵画は、キャッチーなキャラクター文化が主流の日本において、最も日陰に追いやられている存在なのかもしれない。 人物画や静物画のような「モチーフ」があることで、見やすくなるのは確かだ。例えば荒々しい波の上に船を一艘置くだけで

遠近法の歴史|誰にでも分かりそうなのに1000年も発明されなかった技法

遠くの人は小さく、近くの人は大きく見える。 今となっては、当たり前に成立している遠近法。しかし1200〜1300年以前、つまりルネサンス期より前の絵画には、遠近法はほとんど存在しない。つまりのっぺりした2Dの絵であり、3Dの概念はなかった。 「え? なんで?」と思う方もいるかもしれない。正直なことを言うと、私もその1人だった。だって風景画も人物画も、観たまま描けば遠近法になるじゃん……。しかし、実際に描いた経験がある人なら分かると思うが、見たまま描いても正確な遠近法にはな