水分不足

スーパーで買ったものを袋に入れる台のところで子どもが泣いている
ワアーワアー泣いて
ママの服を引っ張って
服が伸びてしまうくらい引っ張って
びぶんでやるうー!
って泣いている

ママは落ち着いている
わかったわかったって言いながら
どんどん買ったものを袋に詰めていく
わかったわかった
ワアーワアー
わかったわかった

最初は微笑んでいた周りの人たちも
だんだん二人から離れていく
袋に全部詰め終わって
まだ泣いている子どもの手を引いて
彼女はスーパーを後にする

目の前のスーパーで買ったものしか見ていないママ
早く帰って子どもを寝かしつけて録画しておいたドラマを見たいママ
誰にぶつけていいのかわからない怒りの火種を消してほしいのかいっそ火事を起こしたいのか、わからなくなっているママ

あれは、12年前のわたしだ
この街に引っ越してきたばかりで
自分の体調がすぐれなかったり
子どもも新しい環境に慣れずに夜中に庭で泣いたりが続いて
寝不足でぼーっとした頭で図書館に行った
気づいたら子どもは雑誌のラックによじ登っていた
止めなくちゃと思い始めたのと
図書館の人がわたしに声をかけたのと
ほぼ同時だった
「他の利用者の方のご迷惑になりますので」
子どもをひっつかんであわてて外に出た

子どもは遊びを中断されて怒って暴れた
暴れる子どもを押さえつけて
自転車の後ろに乗せた
駐輪場で泣いている子どもに声をかけようとしていてくれたおじいさんの姿が視界のはじに入ったが
結果、無視することになった
泣きわめく子どもを後ろに乗せて、自転車をこぎながら泣いたかどうかは覚えていない
涙の分まで水分が残っていなかったのかもしれない

楽しいことをしていきます。ご一緒できたら、ほんとにうれしいです!