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ペライチ小説~スーパー~

ここは大手スーパーの閉店後。
店内は主要な照明は落とされていて、営業中よりも少し薄暗くなっている。
店長が従業員全員に声を掛けフロアの広いスペースに集まってもらった。
都内でも有数の広さを誇るこのスーパー、店長を任されているのは将来を期待された立石という30代の男だった。
『きょうは疲れているところ集まってもらってありがとうございます』
 
立石はこれまで2つの店舗で店長を務めてきた。大きなお店ではないが競合店が近くにあり、値下げ争いや顧客獲得争いが日々繰り広げられているお店だった。
そこで結果を出した立石は、その手腕を買われこのお店を任されることになったのは半年前のこと。
住宅街の近くにあり、駅からも近い。好立地とあって宣伝せずともお客さんの来店を望める店舗だが、そこに胡坐をかく立石ではなかった。
広範囲にチラシを巻く昔ながらのやり方から、アプリと連動させた最新のやり方まで、考えつく限りのあらゆる手法を使って集客に力を入れた。
『今回みなさんに集まってもらったのは他でもありません』
 
店内のレイアウトにも工夫を加え、来店客の購買意欲をくすぐる食品売り場の配置に変え、他店との違いを出して客単価を上げる努力をしてきた。セルフレジを導入し、回転率を上げて、支出を下げる。地域№1の売り上げを目指して立石は寝る間を惜しんで店に情熱を注いできた。
『お客様に感じたこと、思ったことを紙に書いてもらう意見箱を設置していますが、気になる意見がありました。お客さんの声が絶対ではありませんが、耳を傾けないようではスーパーの価値そのものを否定することになります』
 
立石の言葉をおよそ100人程度のスタッフが聞いており、広いスペースはびっしりと人で埋まっていた。
『私がここに来て半年、皆さんの協力には本当に感謝しております。本当にいつもありがとうございます』
立石は下げた頭をゆっくりと上げたが、話を聞いているスタッフたちの反応は特にない。
 
『今回はその「お客様の声」を受けて皆さんにどうしても言わなければいけません。意見箱にはこんな声が届いていました。<接客態度が悪い><挨拶をしない><タメ口で話してくる><香水の匂いがキツイ><舌打ちをされた>』
立石が従業を見渡しながら、1人1人の顔を見ながら話を続ける。
『皆さん、接客態度が悪いという声が100件以上届いてます!皆さん!まずはポケットに入れた手を出して、壁に寄り掛かるのをやめて下さい!そこスマホをいじるのはやめろ!ヘッドホンを耳から外せ!』
立石の声が広い店内で虚しく響いている。
 
 
 

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