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テオ・クロッカーの新作が楽しみすぎる

 2021年リリースの「BLK2LIFE II A FUTURE PAST」がクソかっこよかったテオ・クロッカー(Theo Croker セオ、またはシオ・クローカーの読みの方がよいのか)の新曲が4曲Spotifyに入っていた。
……これは好みすぎる。前作よりも重心低めで、生演奏が前景化している。
 この一連のシングルでも前作の大半の曲のように、楽曲ごとにフィーチャリング・ミュージシャンと組んでいる。これらは、今月末に発売となる「LOVE QUANTUM」からの先行トラックだった(実は、原稿を最後まで書いてそのリリース情報を読んだ)。

『COSMIC INTERCOURSE(PT II)』はクリス・デイヴが参加。
様々な打楽器、電子音によって奏でられたラテン風味のグルーヴだが、リズムの粒を揃えることで汗臭さを脱臭。リヴァーブをカットしてドライにしていることもそう聴こえる要因だろう。1分10秒あたりからウッドベースの胴鳴りのような音も聴こえるのだが、動画に引っ張られている? しかし、ごく短い分数のループ感が強い曲の中に、本当にこまごまとサウンドコラージュのような音の粒で、グルーヴを作っている。サウンドステージの前後に配置された重層的なレイヤーが聴き取れる。宇宙的性交というタイトルはさもあらん。

https://www.youtube.com/watch?v=r-9YoaHuSmg

UKネオ・ソウル系歌手のエゴ・エラ・メイがうたう『SOMETHIN'』はまるで、ビリー・ホリデイが、アブストラクトなジャズバンドをバックに従えたかのようなクールネス。WU-LUやアルファ・ミストとの相性を考えれば、テオ・クロッカーにはまらないわけがない。彼女の2020年のアルバムにも通底する、ソウルフルだが抑制されたサウンド。ベースの太さがメイのヴォーカルと拮抗する中を、クロッカーのいなたいトランペットがすり抜けていく。スタンダードなジャズの雰囲気をかもし(擬態し)ながらも、こういう新鮮味が出せるのか。

https://www.youtube.com/watch?v=5Ml8RBILlxk


 ギル・スコット=ヘロンを彷彿させるのが、ジル・スコットを迎えた『TO BE WE』。この曲は、電子音は完全に後景化しており、リズム音や薄いアンビエントで使われるのみ。その分、これでもかとスコットの声に偏執的にこだわったサウンドだ。楽器もサウンドもスコットの歌(リーディング)にまとわりつくようにうねっていく。
(ギルスコといえば、ブライアン・ジャクソンの新譜、フレッシュさがやばかったな)

そして、3曲ともMVが実にかっこいい。

 いっぽうで、前作を引き継ぐサウンドもアルバムに収められ、シングルとしてリリースされている。それが『Jazz is Dead』で、レジェンドのゲイリー・バーツと、気鋭ドラマーのカッサ・オーヴァーオールが再び参加した。

『Jazz is Dead』。ストレートに取ってよいのだろうか。YouTubeの詳細欄にはリリックが付記されている。
 目を引くのは「Swingin’ with that Afrobeat in J-Dilla Time」。ゲイリー・バーツが気怠く「Jazz is Dead」とうたう(ラップする)し、「Long live music, jazz is dead」とも続く。ジャズに限らず、ジャンル音楽の死と、それを超えて音楽が鳴り続けることを願うかのようだ。
 カッサ・オーヴァーオールのスネアのずらしはさすがの「 J-Dilla Time」なのだが、すばらしいのはゲイリーとクロッカーのスピリチュアルなソロをしっかりうたわせていること。だからこそ、「Jazz is Dead」とうたいながらも、きちんとジャズとしての成立もみせるし、後半の乱調はフリー的な美しさも見せるのだ。また、そううたいつつも、本曲に限らず、やはり上記の3曲も「ジャズ的」だ。

https://jazztokyo.org/interviews/theo-croker-interview/

「Jazz is Dead」というタイトルについては、このようなインタビューもあった。どこまで本心か。ただ、インタビューの内容に即して考えれば、ゲイリー・バーツに「Jazz is Dead」とうたわせるのは、彼の経歴を考えれば正当なのかもしれない。

 逆に前作の「BLK2LIFE II A FUTURE PAST」のほうが、既存のジャズやジャズ的なものからの距離をしっかり取っていたように感じる。

 それはこのライヴ音源で『Where Will You Go』が美しい生演奏に反転されていることからも、逆によくわかるというものだ。やはり、テオ・クロッカー、油断できない。 

 それにしても、このレベルの作品が2作続くのか。シンプルに、すげーなあ。

※写真は2019年

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