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行動経済学と、自己実験と、ビール貯金と。

こんにちは。たけむらです。

最近、行動経済学を勉強しています。

人の行動の性質を探る行動経済学は、近年注目されているようで、マーケ界隈でも1年ほど前から見かけるようになりました。
勉強してみると面白いのでおすすめです。

さて、せっかく勉強したので何か生かしてみよう!と考えていたところ、ビール貯金のことを思い出しました。

ビール貯金:家でビールを1缶飲む毎に500円貯金をする、というシンプルで強力な施策。

以前半年ほど行って、成功したこと・失敗したことがあったのですが、行動経済学の考え方で振り返ってみると色々気づきがありました。

今回は、そんな気づきをまとめていきたいと思います。

はじめに行動経済学のざっくりした紹介と、最後に自己実験について少し触れていますのでお付き合いください。

行動経済学について

そもそも行動経済学って何だ?という話です。
基本的な内容ですので、既にご存知の方は読み飛ばしても良いかと思います。

行動経済学を勉強するにあたり、手始めに「行動経済学の使い方」という本を読みました。
こちらはマーケター時代から(勝手に)参考にしている松本健太郎さん(@matsuken0716)がオススメしていた本です。

本の中では行動経済学に関する基本的な理論が一通り紹介されており、勉強になりました。

行動経済学とは

はじめに本の中で紹介されている例を紹介します。

つぎの2つのくじから1つのくじを選ぶとき、読者はどちらのくじを好むだろうか。
A 確率80%で4万円が得られる
B 100%確実に3万円が得られる
(「行動経済学の使い方」より)

みなさんはどちらを選んだでしょう。

これまでの実験から、世の中ではBを選ぶ人が多いそうです。
(私もBを選びました。)

ここで、それぞれの選択肢の期待値を計算してみましょう。

A 4万円×80% = 3.2万円
B 3万円×100% = 3万円

期待値としてはA>Bとなります。

人間が完全に合理性に基づいて行動するのであれば、みんなAを選ぶはずなのですが、不思議なことに現実はそうならないんですね。

ここから言えるのは、人間は必ずしも合理性に基づいて行動するわけではないということです。

古来から研究が進められてきた「伝統的経済学」において、人は合理的な行動をとる(上の問題でAの選択をする)という前提がありました。

ところが実際はそうでなく、合理性から外れた意思決定をする(上の問題でBを選択する)ことがあります。

さらに、合理性から外れるのにはいくつかのパターン・法則が存在し、非合理的になりやすい状況や、どのような意思決定をしがちなのかという傾向が存在するそうなのです。

これを分析したのが行動経済学です。

ダイエットは明日から頑張る
ギャンブルで負けているときこそ一発逆転を狙いたくなる
非効率な習慣もなんとなく続けてしまう

こういった行動は人間が完全に合理的な生き物であればありえないのですが、行動経済学では説明可能な行動で、かつ多くの人に共通する傾向です。

みなさんも思い当たることがあるのではないでしょうか?

行動経済学で紹介されている理論

行動経済学では、人間が取る非合理的な選択を説明する理論がいくつかあります。

ここまで私が学んだ代表的なものを紹介させていただきます。

確実性効果

人は、確実なものとわずかに不確実なものでは、確実なものを強く好む傾向があります。

先に紹介した例がまさにこれによるもので、不確実な4万円より確実な3万円を好んでいましたね。

損失回避

人は、利得よりも損失を大きく嫌う傾向があります。

これまでの研究からおおよそ2〜3倍の差があるようです。

C コインを投げて表が出たら2万円支払い、裏が出たら何も支払わない。
D 確実に1万円支払う。
(「行動経済学の使い方」より)

上記の例ではCを選ぶ人が多いとのこと。

この例からも見て取れますが、利得局面ではリスク回避的で、損失局面ではリスク愛好的になる傾向もあるそうです。

現状維持バイアス・保有効果

現状を変更する方がより望ましい場合でも、現状の維持を好む傾向があります。
電力会社の契約先や携帯電話の契約先を変更したほうが得なのに、現状の契約を維持し続けてしまうのが代表的な例になります。

似たような理論として保有効果というものがあります。
保有効果とは、既に所有しているものの価値を高く見積もり、ものを所有する前と所有した後で、そのものに対する価値の見積もりを変えてしまう特性のことです。

とある実験では、同じマグカップを
・マグカップをいくらなら買うか
・マグカップを与えられたとして、いくらなら売るか
という質問に対し、売る金額の平均は買う金額の平均の倍になった(=保有していると価値を高く見積もった)そうです。

現在バイアス

いわゆる先延ばしの事です。

人は遠い将来であれば忍耐強い選択ができるが、直近のことになるとせっかちになり、低い利得であっても現在手にすることを選ぶそうです。

A 今1万円もらう。
B 1週間後に1万100円もらう。
(「行動経済学の使い方」より)

上記ではAを選ぶ人が多く、

C 1年後に1万円もらう。
D 1年と1週間後に1万100円もらう。
(「行動経済学の使い方」より)

上記ではDを選ぶ人が多いそうです。

社会的選好

伝統的な経済学では利己的な個人が想定されていますが、行動経済学では他社の物的・金銭的利得へ関心を示すそうです。

例えば、寄付などをして他人の幸福度を高めることで自分の幸福度を高めたり、人から受けた恩は返そうとする傾向があるそうです。

ヒューリスティックス

普段の生活ですべて合理的意思決定をしていると、意思決定に使うパワーがかかりすぎてしまいます。

そのため、人は直感的意思決定をすることが多いそうです。

これをヒューリスティックスと呼びます。

代表的なものとして、サンクコストの誤謬というものがあります。

これは、既に支払ってしまったお金を回収しようとする意思決定のことです。

例えば、7万円の北海道旅行と5万円の沖縄旅行を同じ日付で申し込んでしまい、料金もすでに支払った場合を考えます。
止むを得ずどちらの旅行に行くかを選ばなければなりませんが、その際どちらが満足度が高いかで選ぶのではなく、すでに支払ったコストの高い北海道旅行を選択する傾向があるそうです。

他にも、
・精神的、肉体的に疲労していると意思決定力が下がる
・選択肢が多すぎたり、情報が多すぎると意思決定がしづらくなる
・手に入れた方法によってお金の使い方を変える
などがあります。

ナッジ

こういった行動経済学の理論をもとに、人の生活を良くしていこうという考え方があります。

これを「ナッジ」(軽く肘でつつくという意味の英語)といいます。

ナッジは大きな制約やインセンティブを使うことなく、表現や見せ方、仕組みなどを変えることで人の行動を良い方向に導こうとする考え方です。

ノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラーは
「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素を意味する」
と定義しています。

ビール貯金

さて、ここからが本題です。

本の中ではこういった理論を実世界でどのように活かすか、というナッジの実例がたくさん紹介されていました。

例えば、ダイエットや貯金などの生活場面での実例や、臓器提供など社会課題に関する実例などなど。

せっかく学んだので、私も個人の生活や仕事の中で行動経済学を活かしてみよう!ということで冒頭のビール貯金の話につながりました。

ビール貯金を始めた目的

冒頭でも紹介したとおり、ビール貯金とはいたってシンプルで、

家でビールを1缶飲む毎に500円貯金をする

というものです。

私が我流行動経済学で考え出したもので、目的は
・飲酒量を減らす
・貯金をする
という2点がありました。

私はほぼ毎日自宅でビールを飲んでおり、だいたい1日350ml×3缶飲んでいます。
飲んでいる間は非常に気分良くなれるのですが、

・健康に悪い
・だらだら飲むだけで2時間くらい浪費して時間がもったいない
・飲むとその後何もできなくなる
・睡眠の質が落ちる
・ひどいと翌日も少し体調が悪い

といった弊害があり、まずは少しでも飲酒量を減らしたいと考えていました。
ビールを飲むたびに貯金をすることで、貯金しなければならないという煩わしさやお財布の痛みから飲酒量を減らすという狙いです。

また、貯金ももう少ししたいなーと思っていたので、合わせてやってしまえ!という魂胆です。
貯金に関しては、缶切りでないと開けられない貯金箱を利用することで確実に貯金することを狙いました。

半年間の成果

ビール貯金は半年間続きました。
(我ながらよく続いたなと思っています。)

結果は以下のようになりました。
・半年間で約16万円の貯金
・飲酒量はほぼ変わらず
・半年以降は継続されなかった

貯金という財布の痛みがあっても、日々の飲酒量全然減らなかったんですよね。

おかげ様で貯金が大変はかどりました。←

(区切りをつけて貯金箱開けたら16万円も貯まっててすげー!と思いました、、、笑)

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つまり、
・貯金をするという目的は達成されたものの
・飲酒量を減らすという目的はイマイチ達成されなかった
という結果だったわけです。

成功と失敗の要因を考える

こうなった理由を分析してみました。

成功要因① 貯金がうまくいった理由
・簡単に取り出せない貯金箱を使うこと(コミットメント)で途中で引き出されずに貯金ができた
・家族が500円玉両替に協力してくれたことで、簡単にやめることができなくなった(互恵性・ピア効果)

失敗要因① 飲酒量削減がうまくいかなかった理由
・1缶毎に500円貯金という罰則がコミットメント手段として弱い

失敗要因② 半年以降継続されなくなった理由
・ナッジに慣れが生じ、長期的に継続されなくなった

地味に家族の協力というのは大きかったです。
一人で勝手にやっていたら全然続かなかったでしょう。

また、開けられない貯金箱も馬鹿にできないなと思いました。

改善できるところは?

貯金はできたものの飲酒量が減らなかったので、より効果的な取り組みにする方法を考えてみました。

改善点① 貯金と飲酒量削減の取り組みは分ける。

まず、貯金と飲酒量を削減する取り組みを分けたほうがよかったかもしれません。
飲酒量削減に対するコミットメント手段として、1缶毎に500円貯金をする財布の痛みという罰則が弱かったのだと思われます。

(そもそも貯金=罰則にあまりなってない。。。)

効率的な取り組みにしようと、半ば無理やり1つの取り組みにしてしまったのは反省。

改善点② 飲酒量を削減するためには

本の中で類似した事例としてダイエットが取り上げられていました。

有効なナッジとして以下のようなものが紹介されています。

・損失回避を用いる(例:誰かに一定額を預けておき、目標達成ができなかったら没収される仕組みにする)
・減酒を意識できるようにする(例:見やすいところにキーワードを書いておく)
・贈与交換(例:仲間同志の励まし合い、家族の協力)
・デフォルトの利用(例:あらかじめマイルールを設置)
・社会規範を利用(例:仲間の平均を知ることで参照点を意識する)

私の場合は1日2缶以下にする+週1日は休肝日を設けるようにしたいと考えていますので、

・1日2缶以下+水曜日は休肝日というルールを設定(デフォルトの利用)
・↑のルールを書いて冷蔵庫などに貼っておく(減酒の意識)
・冷蔵庫に2本までしかビールを入れておかない(デフォルトを機能させる仕組み)
・ルールを破ったら1缶あたり1000円没収されるようにする(損失回避)

などの取り組みが考えられます。

改善点③ 半年以降も継続させるためには

本の中でも、ナッジが長期間継続すると効果が薄れるという可能性に言及がされています。

それに対する対策は言及されていませんでしたので、自分で考えてみました。

・効果やメリットを可視化する

継続するために、継続していること自体に意味を感じることが重要だと思っています。
効果やメリットを可視化することで、継続している意味を感じやすくなるでしょう。
例えば、ビールを飲んだ本数を記録する、体重の推移を記録する、朝起きた時の快適度を記録する、など。

・効果やメリットを定期的に確認する

効果やメリットが確認できるとしても、それが1年に1回だと意味が薄れてしまいます。
1週間に1回程度は効果が確認できると意味も感じやすくなるのではないかなと思います。
例えば、年に1回の健康診断結果を効果とするとやりがいは感じにくいため、日々計測できる指標を効果とする、などです。

・継続していることをアウトプットする

取り組みの内容や、取り組みが継続していることをアウトプットすることでもやりがいを感じられるでしょう。
誰かに話す、SNSで発信する、ブログに書く、などアウトプットの方法は何でも良いと思います。
「水曜日は休肝日なんですよー」
「今1日2缶以下というマイルールがありまして」
「もう6ヶ月続いてるんです」
こういったことを発信することで、自分自身が継続する気持ちになりますし、他人からのフィードバックもモチベーションになるでしょう。


こうして考えてみると色々改善できるところありますね。

罰則のところがイマイチなので、何かいい案あれば教えてください。

もう少し練ったら再開して経過報告できたらいいな。

自己実験(Self-experimentation)のすすめ

少し話が変わりますが、行動経済学に限らず、生活改善やビジネス書などを読み、実生活への導入を試みた方は少なくないかと思います。

一方で、せっかく始めたものの「やっぱりうまくいかないや」とやめてしまう方も多いのではないでしょうか。

私も過去いくつもそのようなことがあり、その度に「今回も続かなかったな」と自分の意志力に失望したものです。

ただ、私も含め継続できない人の大きな要因としては、

・書いてあることをそのままやろうとしてPDCAを回さない
・継続しようと気合を入れすぎている
・継続できない=悪だと思っている

といったことがあると思っています。

そこで、こういった取り組みの導入を「自己実験」のつもりで実施してみることを提案します。

自己実験(じこじっけん)とは意図的に自分を対象に含む実験。 自己実験の135以上の事例が文献で裏付けられている。その多くが、医学的な研究として行われたが、自然科学や社会科学の研究者も自己実験を行っている。
(Wikipediaより)

実験だと思ってしまえば、

・うまくいかなくてもヘコまない
・経過を観察、分析し、次の実験をする気持ちになれる(=PDCAを回す気持ちになれる)
・継続できないこと自体の原因も分析して改善案を考えられる

というメリットがあります。

自分を実験台にして、人間の深層心理や行動原理を探るのは結構面白いですよ。

※本来の自己実験は、被験者=自分なのでバイアスが存在してしまうなど学術的にはデメリットやリスクもあります。本記事では、「個人の取り組みを実験のつもりで気楽にやりましょう」という意味でこの言葉を使っています。学術的に活用する場合はデメリットやリスクをきちんと調べるようにしてください。

まとめ

・行動経済学は面白い
・自己実験おすすめ
・ビールの飲みすぎには気をつけましょう

寒いので体調にはお気をつけください。

では!

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