せん妄、幻覚、妄想……
「せん妄」「幻覚」「妄想」。
どれも認知症にみられやすい症状としてよく耳にする言葉である。
「せん妄」とは、意識障害の一種であり、急激に混乱や興奮をきたした状態を指す。
夜間や手術後になることが多く、それぞれ「夜間せん妄」「術後せん妄」などとよばれる。
せん妄状態のときには、幻覚を伴うことが少なくない。たとえば、火事が見えたり、死んだ先祖が現れたりといった例。
せん妄は一過性であり、数時間から数日で治まるのが一般的だ。
「幻覚」とは、実際にはないものをあるように知覚することをいう。
存在しないものが見えるものを「幻視」(げんし)、実際にはない声や音が聞こえるものを「幻聴」(げんちょう)とよぶ。
前者はレビー小体型認知症に、後者は統合失調症に多いことで知られている。
「妄想」とは、現実にありえないことを強く確信し、その考えを訂正することが困難な状態を指す。
たとえば、「隣人に財産を狙われている」「夫は、毎晩、愛人に逢いに行っている」など、事実にないことを固く信じてしまう。
なお、アルツハイマー型認知症の場合、よく「物盗られ妄想」が話題にされる。「預金通帳を息子が盗んだ……」といった例だ。
ただし、これは、記憶障害によって、通帳をどこにしまったかわからなくなり、「息子の仕業だ」などと辻褄を合わせようとしているだけとも考えられる。
したがって、これを妄想とよぶには異論がある。
なぜなら、「宇宙から電波が飛んできて、大統領を殺すよう命令されている」といった妄想とは明らかに次元が違うからだ。
以上、各々の特徴について記したが、幻覚も妄想も、本人にとっては正に「現実」。
介護者がそれを肯定するべきか否かは場合によるだろう。
同調することによって妄想が強固になる場合もあるし、逆に否定することによって混乱を助長することもあるからだ。
いずれにしても、介護者の姿勢としてもっとも大切なのは、本人の気持ちを受け止め、共感することに他ならない。
共感は同調とは違う。