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精神覚醒ノ肥後虎 ACT.9「森本ひさ子」


前回のあらすじ 

 スプリントレースとキャノンボールへの参加が決定したと同時に、練習を兼ねた自動車部部長決定戦の開催が決定する。 夜9時の箱石峠、最初の戦いである虎美とひさ子のレースがスタートした。

加藤虎美(D27A)
vs
森本ひさ子(BG8Z)

コース:箱石峠往路

 最初は緩いコーナー。
 左だ。
 
 どちらもスピードを落とさず、グリップ走行で抜けていく。
 
 コーナーを抜けると直線に入る。
 ドッカンターボで低速トルクを犠牲にしたファミリアと比べて、4G63ターボにスーパーチャージャーを組み合わせてツインチャージャー化させて低速トルクを太くしたエクリプスが立ち上がりで有利だった。
 しかし、直線が終わりに近づくとドッカンターボ特有のハイパワーで追いかけてくる。
 
 直線の後は、左から入るシケインだ。
 先行するうちは、入口をサイドブレーキからのドリフトで突入していく。
 一方のひさちゃんはファミリアに高温を感じさせる紅蓮のオーラを包ませた。

「絶対に追いかけるばい……<ファイヤー·ボール>!」

 火属性の初心者用の技だ。
 発射される玉のように突っ込んでいき、エクリプスの前に一瞬だけ頭が出る。
 
 オーラの通り、覚醒技超人だったのか。

 ファミリアの速度は、初心者用の技を使ったとは思えないほど向上している。

「くわああ………やるなひさちゃん! うちも技ば使うばい! 肥後虎ノ矛流<落ちてくる虎 (メテオタイガー)>! 虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」

 茶色いオーラで身を包みながら、虎の爪の如く振り上げるようなドリフトを行い、スローイン·ファーストアウトのラインでシケインを攻めていく。
 岩属性の技を苦手とするひさちゃんの覚醒技に有効であり、速度は高くなっている。

 一瞬だけエクリプスの前で頭を出していたファミリアは離れていき、ドライバーは落石に当たったようなダメージを受ける。

「うわあ……!」

 大きなダメージを受けたひさちゃんは、なんだか肉食動物に狙われた小動物のように弱々しい表情になっていき、一瞬だけファミリアを失速させてしまった。

 バトルに大きく影響が出そうばい。

 2台をあるドローンが追っていた。

 道具を使ってバトルの情報を得ていた。

「現在ドローンから情報の情報によると、エクリプスがファミリアをリードしている」

「虎美が有利ね、マスコミを返り討ちした腕は伊達じゃないわね」 

 一方でひさちゃんの話を始めると、心配そうな顔で語っていく。

「森本さんにも頑張って欲しいわね。
 けど、問題点があるわ」

「どんな物だ?」

「森本さんは運が悪いだけでなく、とても弱虫な性格だわ。
 子どもの時はいじめられ、虎美に守られたようなの。
 弱虫の割りに覚醒技超人になれたことは凄いと言いたいけど、精神力が弱いと覚醒技超人としては話にならないわ」

 たしかに、沙羅さんから聞いたけお、覚醒技の強さは覚醒技超人の精神力に比例するらしい。
 ひさちゃんは弱い心の持ち主だから、上手く使えないと考えられる。

「森本さん、バトルに怯えたらダメよ」

 シケイン後の直線を抜けて、緩い高速コーナー。
 左だ。
 
 うちは、マスコミを仕留めた<清正の片鎌槍>を使ったドリフトで攻めようとした。

「虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」

 しかし前に使った時より、遥かに速度が遅く感じてしまう。

「どぎゃんしたばい、スピードが乗らん?」

 遅い<清正の片鎌槍>を使って攻めているうちの後ろに、オーラを纏って攻めるファミリアが来る。
 ハンマーを振り回すような鋭いコーナリングだった。

「儀の蛍流<スライディング・ハンマー>!」

 オーラの色は黄色で属性は雷、鉄属性となったうちとは相性が悪か。

「うわ……やるな、ひさちゃん」

 喰らった精神ダメージは大きいだけでなく、差を縮められてしまった。
 
 また緩いコーナーがやってくる。
 左からのS字だ。
 しばらく技を使えないから、技を使わずに抜ける。

 さらに緩い左高速コーナーがやってくるもの、後は低速の右ヘアピンだ。
 
 ひさちゃんは技を使えるようになったばってん、うちは消費気力の高い技を使ったからまだ技を使えない。

「<儀太夫の装甲>!」

 ひさちゃんは鉄で覆われるようなオーラを纏い、ガードレールと接触寸前の内側を攻めていく。
 うちは走りをブロックしようとしたけど……オーラの力によって外側に弾き飛ばされてしまう。

「う、うわあ……!」

 胸が痛くなるほどの精神ダメージを受けた。
 同時にファミリアの先攻を許してしまっただけでなく、すぐに大きな距離ができてしまった。

 ヘアピン後の直線の向こうには、左中速コーナーが見える。
 相性で不利だけど<片鎌槍>で攻めようと考えていた。
 スピードが速い技であり、差が開いたら影響を受けないだろう。
 
 しかし、技を喰らった影響で封印されている。

「勝てるかもしれん……! わしを守ってくれた虎ちゃんに勝ったかも……」

 さっきのヘアピンでうちに<儀太夫の装甲>を喰らせると、ひさちゃんが勝利を確信してしまった。
 
 しかし、命取りになるかもしれんよ……。

「ひさちゃんに有利な属性で勝負してやるばい!」

 <落ちてくる虎(メテオタイガー)>を喰らって失速する様子をミラーから眺めていたのを思い出した。
 別の技を使うばってん。

 うちはコーナーに入る直前にサイドブレーキを使った直線右ドリフトを披露し、状態を維持したまま突入する。
 クルマの向きをコーナーと同じ左へ変える。

「何、直ドリからの慣性ドリフト!?」

 ひさちゃんは今のドリフトに驚いているようだ。
 エクリプスに大地のようなオレンジ色のオーラを纏い始め……。

「肥後虎ノ矛流<キャノン・ドリフター>」

 技を発動させて慣性ドリフトの勢いをそのままに、オーラによる超加速で飛ばしていく!

「虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」
 
 土属性の<キャノン・ドリフター>はひさちゃんが持つ覚醒技の属性に有利だったため速度は向上し、異次元の加速をしながらファミリアのリードを奪っていき、そして……。

「うわ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ひさちゃんは大きな精神ダメージを受け、それがあまりにも大きかった。
 ついに。

「もう戦えん」
 
 右足で踏んでいたアクセルを抜いてしまった。 

 勝者:加藤虎美

 ドローンで伝えられた情報を奈亜河さんが伝えてきた。

「虎美がゴールに着いたようだ」

「決着が着いたようね」

 同時にバトルしていたはずの森本さんのファミリアが戻って来て、そのまま停車する。

 虎美とエクリプスが戻ってきた。

「ただいま、飯田ちゃん」

「おかえり、虎美。今度は私と飯田さんの勝負よ」

 次のバトルへの準備を今すぐ行い、スタート地点に私のSVXと森本さんのファミリアを並ばせる。
 
 今度のスターターは、要さんが行う。

 次のバトルが行われようとしているその裏で、闇の中に謎のクルマが停まっている。

「何だか、面白そうですね」

 車種は流線形の3ドアのクーペ、三菱・スタリオンだ。
 車に乗る彼女は一体!?

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