精神覚醒走女のオオサキ ACT.21「曇り空のバトル」

 夜11時前の赤城山ダウンヒルのスタート地点近くにある駐車場。
 おれのワンエイティ、智姉さんR35が来る。

 駐車場にはバトルの対戦相手である葛西モミジとアルテッツァをはじめとするDUSTWAYのクルマや家族のクルマもある

 今日の対戦相手であるモミジと対面する。

「来たね――もうすぐバトルを始めるけど、先行と後攻はどっちがいい?」

「後攻にするよ」

 なぜおれが後攻に選んだのかは昨日智姉さんとこんな話をした。

「モミジは頭のいい走り屋です。彼女のやっていることを見たいから、後攻を選びます」

 最初から決めていた。
 バトルでは後攻が有利で、相手の走りが良く分かり、さらには走りをコピーすることも可能だ。
 それを選んだことは頭のいいモミジ対策になるだろう――。

 しかし――これは失策に終わり、彼女は先行のほうが得意ということは知らない……。

「さあァ、始めようぜ。スタートラインに立とうか」

 2人はそれぞれの車に乗り込む。
 モミジの母親、葛西ウメがモミジのアルテッツァの窓の前へ来る。

「モミジ、体力は大丈夫?」

「ボク並みの強さなら体力はゴールまで持つだろう」

 ウメは去った。
 2台はスタートラインへ移動する。
 同時に曇った空の上にいる神様は太鼓を鳴らす。

「雲が鳴いたぞ!」

「今日のバトル大丈夫かな――?
 空曇っているし……」

「雨が降りそうで心配だわ――」

 音を聞いたギャラリーたちは心配をする。

 赤城山からのお知らせです。
 まもなく競技車両がスタートたします。
 危ないですからガードレールの内側までお下がりください。

大崎翔子(RPS13改)
VS
葛西モミジ(SXE10)

 2台の並ぶスタートラインにヒマワリが来る。

「スターターはオレが務めるぜえ!」

 調子に乗って変なことを言い出す!

「カウント行くぜー! StartYourおま●こッ! イィーネ!」

「やれやれ――」

「速く始めろよ、高校を中退した馬鹿!」

 ふざけたカウントをするヒマワリにクレームを付ける。
 ギャラリーたちの表情が爆笑の渦に包まれる。
 
 おいおい、真面目にやれよ。

「では、じゃあ改めまして――カウント5秒前! 5! 4! 3! 2! 1! GO!」 

 今度は真面目にカウントを行う。
 そのおかげで、無事おれとモミジはスタートできた。

 コンプレッサー付きの3S-GEとRB26の音がスタート地点に響く。

「始まったぞ!」

 先行はモミジ、おれはその後ろを煽るように走っていく。

 スタートから続く長い直線を二重の音をギャラリーたちに響かせながら、直線の闇を切り裂いていく。

 先行するモミジが最初の緩い左コーナーへ入る。
 両者共にドリフトで下っていく。

 ここは葛西3姉妹最強のコーナリング性能を見せるアルテッツァのほうが優勢で、おれとの距離をちょっと離していく。

 次は緩やかな右コーナーと左ヘアピンが連続するコーナーだ。
 前者では、モミジもおれもドリフトで闇を切り裂いていく。

 これらのコーナーでもモミジに敗北する。

「速い! 緩い右ヘアピンでも、左ヘアピンでも負けている! さすが聞いた通りの葛西3姉妹最速のコーナリングだよ! こんなに速いコーナリングをするアルテッツァには次のコーナーであれ使うか……」

 おれの走りでは追いつかない!

 しばらくは直線だ。
 スペック的にパワーもトルクも上回るおれのほうがちょっと有利で、ガラス越しに写るアルテッツァの姿はちょっとづつだけど大きくなっていく
 
「ここで<コンパクト・メテオ>! イケイケイケイケイケイケイケイケー!」

「使ってきたか!」
 
 コーナーに入ったおれは闇と風を切り裂くように透明のオーラを纏い、落下する隕石のようなドリフトで侵入していく!

 技を使ったことでモミジとの差が縮まり、アルテッツァに接近できた。

「使うことは予想していた――これは御見通しだよ、下手な覚醒技超人でも使うからね。それだけでなく、ボクは君の技すべて御見通しだ。能力で分かるよ」

 予想されていたとは恐ろしい……!

 おれのワンエイティはアルテッツァのお尻に接触寸前の距離で、直線の後から来る3連続ヘアピンを共にドリフトで抜け、再び直線に入る。

 後ろのおれのワンエイティを見て、モミジは考えた。

「接近している―――あれを使うか……」

 モミジのアルテッツァに白いオーラが纏いだす!

「ジーニアス橙流――<THE・罠(トラップ)>! バカバカバカバカバカバカ、バカはバカ!」

 次はコーナーじゃあないのに、ブレーキを踏んできた!
 これはオーラを纏っていた影響で強力なものだった。

 フェイントを見ておれは惑わされない気持ちだったものの……。
 黒い左脚で勝手にブレーキを踏んでしまい、右脚がアクセルを離して止まってしまった。

「あれは堀内のV36を倒した技だ!」

 勝手に止まるのは技の効果だ。

「ざまぁ見ろ。技を喰らったらもう戻ってこれないんだよ」

 おれを止めるとそう言って、前から消えていった。

 ゴール地点。ここにプラズマ3人衆と末永姉妹の5人がいた。5人はバトルの観戦に来ている。
 5人はアルテッツァの説明について話しあっていた。

「アルテッツァはAE86の再来と言われ、重量バランスが良かったりと走りの要素は多いけど、
車重は1300kg以上と重いわ、エンジンは2リッターのモノを積んでいるけど重い車重の割にはパワーは低い、さらにはFFよりアンダーが出る、ミッションが6速なのにあまりクロスしていないなどといった欠点が多い車だわ。 多くの走り屋から「走りに向いていない」、「不人気車」と言われることが多いのよ」

「ただしモミジアルテッツァのは車重を軽くして、スーパーチャージャーを積んでパワーアップし、サスペンションは多くの最速ドライバーが気に入っているSpeed葛西製のジムカーナサスペンション、ミッションは峠用に良くクロスされたSpeed葛西製のシーケンシャルトランスミッションと競技用クラッチを装着しているから、アルテッツァの短所を消していると思うよ」

 ただし実用面ではFRなのに燃費が優れているといった長所もあった。
 走りの要素があまり良くないから若者には受け入れられず、中年には「高級車(※)なのにチープ」だと言われ受け入れられなかった。
 ドリ車としては人気があるものの、現在は軽量なZN6やハイパワーなレクサスISに乗り換える人も多いという。

(※アルテッツァは海外ではトヨタの高級ブランド「レクサス」にて「IS」という名前で販売された)

「結構ダメな車だと言われているようだね、アルテッツァは。けどFRだし、燃費も良く、実用性あるし、さらにはチューニング次第で化けるかもしれないからいい車だと思うよ」

「モミジのアルテッツァはチューニングで化けた車だね。スーパーチャージャーを積んでるし、しかもSpeed葛西製のパーツで武装されているからね」

「結構速いと思うで。うちはアルテッツァをダメな要素があってもダメな車だと思えへんし」

「川畑さん――さらに曇ってきたよ……」

「せやな……天候は大丈夫やろうか?」

 空の暗い雲はさらに黒くなってきた……。
 かくれんぼする星空は増えていく。
 ギャラリーたちの指に雫が落ちてきた……。

 バトルは右と左がセットになったS字ヘアピンに入っていた。

「またボクに近づいてきたね
 ジーニアス橙流<ロー・スピード・ドリフト>!
 バカバカバカバカバカバカバカ、バカはバカ!」
 
 茶色いオーラを包み込みながら減速しながらドリフトする!
 おれをブロックすることに成功し、突っ込みを止めた。

「くそ! また距離を離される! あの技はなんだよ! 下手すれば事故って最悪の場合死ぬよ!」

 強く減速して、またまた距離を離されてしまった……。
 無理矢理止められたことにとても苛立つ。

「あの走り屋……おれが後ろから走っても、ついてこれない! 相手は頭がいいから後ろを取ったけど、ついてこれないとは……先行では速い!」

 ここでおれは分かった。

 普通上手い走り屋は後攻を選択し、後攻なら駆け引きすることがしやすい。
 しかし、モミジは違った。
 彼女は先行が得意な走り屋だ。

 ブロック、フェイントといったトラップをモミジはおれに仕掛けて、苦しめていく。

「なら、悪いけど相手を追い抜くしかないね!もし抜いたら先行でのプレッシャーも感じるかもしれないけど――」

 自分の作戦を無視してまでだ。
 バトルはS字ヘアピンを終えて2連ヘアピンも抜けて、第1高速セクションへ突入していった……。

 スタート地点近くの駐車場。ウメ、雨原、サクラ、ヒマワリが話をしていた。
 天の曇り空は音をゴロゴロ音を鳴らしている。

「雲り空は良く鳴るなァ――これは雨が降ってきそうだよ」

「モミジのアルテッツァのタイヤはウェットタイヤだ……雨が降ることを考えて装着している……雨が降れば彼女は有利になりそうだな――」

「天気予報は晴れだったけど、モミジは雨が降ると分かってウェットタイヤで勝負しているよね。さすが頭のいい子よ、小学校から飛び級で高校に入学し、16歳にて大学を卒業した頭脳は伊達じゃないわね」

 飛び抜けた頭脳を持つ娘をウメはこう評した。

「もうすぐ雨が降りそうだぜ、かーちゃん」

 曇り空をヒマワリは眺めた。

 ウメは雨のドライビングについての解説を初める。

「そうよね。雨の走りは晴れの時より高度なドライビングを必要とされるのよ。雨は路面が濡れていて車のタイヤのグリップ力が奪われ、雨に多くの枯葉や砂が流されたりしている。さらにそれより怖いのは……降り始めだわ。路面の隙間からゴミやほこり、油が浮き上がり始めるから怖いのよ」

「走り始めた頃のあたしも雨は怖かったぜ。雨のドライビングには予知能力が大切なんだ。この先に砂や枯葉があるか、降り始めに滑ったらどうするかなど、そういった事も武器に戦った方がいいと考えたほうがいいんだ」

 ウメの解説は続き、雨原はどう雨の路面を走ればいいか語る。

「お、手が冷たい」

 ヒマワリの手に滴が落ちる

「――雨が降ってきた……!」

 天気の変化したここからバトルの状況が変わっていくだろう。

「やばいな――雨が降ってきたぞ……オオサキのワンエイティはウェット用タイヤではなく、ドライ用のスポーツタイヤを履いている……ここからヤバくなりそうだ――」

 今不利な状況のワンエイティはさらなる苦戦が予想される――。

「けど、安心しろ……私にはバトル中に雨が止むかもしれないと感じている」

 そんな願いを祈り、心を落ち着かせる。

 バトルは第1高速セレクション
 RB26の高い高速性能を全開させて、モミジのアルテッツァを追い越していく……ように見えた。
 
 後ろから鋭いヘッドライトでワンエイティを睨み付ける!

「また先行に戻ってやる……<分身抜き>!」

 高速セクションの終わりの左ヘアピン。
 萌木色のオーラを纏い、交互に車線変更しながら2台になったように見せ、俺を追い抜く!
 せっかく先行に出ることができたおれは後攻へ戻ってしまう。

「く……!」

 おれのモミジ対策である「先行に行く」という作戦は失敗に終わった。
 ハンマーヘッドヘアピンを抜けて第2高速セクションに入る。

 雨に変化した直線はウェットタイヤを履いているモミジのほうが速くなる!

雨が降ったらとても相手が速くなった!」

「さぁ、ここからボクの走りは嫌らしくなるよ――ジーニアス橙流<ヴェノム·スパイク>!」
 
 紫オーラを纏ったモミジは道路に罠を仕掛ける!

 彼女の目には紫色に染まった水溜まりのように見える。
 
 罠はおれには見えなかったため、知らずに引っかかってしまった。

「く……タイヤの熱ダレか!」

 更に精神毒状態にかかり、精神的な大ダメージを受けた。

 精神力が減ると言うことはピンチを指す。
 ミスしやすくなったりする。

「ボクの勝ちだね」

 地雷を仕掛け、おれを痛め付けたモミジは勝利を確信する。
 差はさらに離れていき、ガラス越しから見えるアルテッツァの姿が小さくなる。

 
 熱ダレ、雨、毒状態、そして大きな精神ダメージや広がったマージンで不利な状況となった。
 絶対絶命だ。

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